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第四十九話 新しいダンジョンその七

 ケイトさんは水を飲んでは口を開いて、また水を飲むを繰り返しつつ、食事を始めたけれど、肉串もパンも味がしないとなげいていた。


 そんなケイトさんを見ているにも関わらず、ユーシンが試食を申し出てきた。勇気があるのか無謀なのか、単なる食いしん坊の暴走なのか? ちょっと判断が付きかねるが、そういうことならばと、マジックバッグから先程の渋柿と小皿、折りたたみナイフを取り出す。


 そう言えば、柿には種のあるものと種のないものがあると思い出した。

 オレが食べた時は衝撃が大きすぎて覚えていない。


 ケイトさんが食べた二切れを切り分けた時は種がなかったような気がしたけれど、一応確認の為にケイトさんに種ってありましたか? と聞いてみると、遠い目をして、「なかった」と答えてくれた。


 二切れを切り取った渋柿は、あと三切れくらいになりそうだ。ユーシンは「ちょっとだけ、で良いよ」と言っているけれど、折角なので三切れに切り分ける。


 そして「種なしだよ。召し上がれ」と笑顔で小皿乗った渋柿をユーシンへと差し出す。


 しかしユーシンの答えは、「この一切れの半分の半分くらいで良いよ」だった。


 その言葉に「遠慮なんてユーシンらしくないよ」とオレが言うと「いやだってさ……」と、ケイトさんの方を見て言う。


 それに気付いてケイトさんが、うめくのを止め、きょとんとした顔で「あれ? 何だか後味は甘いなあ」と言っているが嘘だ。


「えー、本当なの?」とユーシンは言って、疑わしそうにケイトさんを見ている。


 仕方が無い。折角切り分けたのだから、ここはオレが一肌脱ごうと、小皿の渋柿を一つ取って口に入れて食べる。


「あれ? そんなに渋くない……というか何だか甘いような気がする」とオレが驚いたようにユーシンに言うと、

「えーっ」と言いつつ瞞された。


 甘さを期待して食べたユーシンは、凄い顔で固まっている。覚悟して食べたオレの心頭滅却も長くは続かず、その渋さに顔を顰めた。記憶以上の渋さだ。


 そして小皿の上には最後の一切れが残った。ふと視線を感じて横を見ると、王子がさっとオレから視線を外した。


 そこで、最後の一切れの乗った小皿を、ユーシンに釣られて渋そうな顔をしてる王子へと差し出す。オレは笑顔を作っているつもりだけれど、絶対に断りを入れたくなるような、凄い顔をしていると思う。


 もちろん王子には拒否された。


 王子は眉をひそめて、ふるふると首を横に振っているが、オレが指を一本立ててケイトさん、ユーシン、そしてオレを順番に指さしてから小皿の一切れ、そして王子を指さすと、オレを見て、えーっと言うように口を開いて、固まっている。


 そしてちょっと考え込んでから、ケイトさんとユーシン、オレを見て、覚悟を決めて食べようとしたところで、シニフィエから待ったがかかった。


「そのまま小皿を持っていろ」シニフィエがオレにそう言うと、魔法を使った。


 小皿の上の渋柿がくるくるとその場で回り浮かび始める。何だか茶色っぽい光の粒が、渋柿から放出されては消えているように見える。


 風で木の葉が回るように、くるくると渋柿は回り続け、出てくる茶色い粒が段々と少なくなっていき、そして最後に冷たい風がさっと通り過ぎた後、回転が止まり、渋柿を見ると白い粉が吹いていた。


 確か最低でも二週間くらい干すものだと聞いていたけれど、どうやら干し柿を即席で作っちゃったようだ。


「それを二つに切り分けろ」と言われて、その言葉に従って二つに切り分ける。

シニフィエはすぐに食べ始めて、「ハクブンの言う通り、甘いなあ」と呟いている。


 王子は恐る恐ると言った感じで元渋柿の半切れをまみ、ぱくっと一口で食べると、ぱっと笑顔になり、嬉しそうに、もぐもぐと食べている。凄く美味しそうだ。

 思わず口の中の渋みを忘れた。


 シニフィエはオレの干し柿製造計画の救世主様らしい。


 そんな思惑で、ちらっとシニフィエを見ると「まあ、そのうちにな……」と言うことなので、次の機会を待つことにした。



 そんなお昼を食べつつ、王子に地図を見せて貰ったところ九階層の地図の空白は、半分くらいが埋まっていた。この分だと今日中に九階層の地図が完成しそうだ。


 そうして、少し休んでから九階層の探索を続行した。


 二十分ほど歩いたところで、ケイトさんが、この先の小部屋にゴブリンが居るな。四匹だ。弓が一匹、槍二匹に片手剣一匹だ。ちょっと手本を見せるから付いてこい。とオレ達に指示を出した。


 ケイトさんが歩きながらオレ達に説明を始めた。


 一人で戦う場合、一匹のゴブリンよりも二匹のゴブリンが危険なのは間違いないし、お前達の力量ならば、その危険は二倍とか三倍という倍数ではなくて、「危険がある」と「危険がない」くらいに違う。


「数の暴力」という言葉があるが、相手が武器を持っている以上、手数で負けるとジリ貧になりかねない。


 まず重要なのは、総合的な戦力の要諦ようていとなっている数を減らすことだが、状況にもよるんだが、早さを重視するなら一匹ずつ仕留めていくよりも、戦闘不能にするほうが効率が良いこともある。


 例えば弓ゴブリンの弓を壊してしまえば、ただのゴブリンだ。


 太ももを切りつけたり、足なり腕なりの骨を折ってしまえば、それだけでゴブリンの攻撃力は激減する。もちろん手負いにされたゴブリンも悪あがきをしないわけじゃあない。

 こっちの服や髪の毛なんかを掴んできたり、足にしがみついたりしてくるから注意は必要だが、反撃の可能性を見極めて、間合いさえ取っていれば問題はない。と言って、にやりと笑った。



 王子の光の魔法で、小部屋の天井に明かりが浮かび、ゴブリン達がオレ達に気付いて、ぐぎゃぐぎゃと騒ぎ始めた。


 ケイトさんが、まず弓だ。此奴等は後方に居るから、その射線に前衛のゴブリンを挟む形で位置取りをする。と言って、前衛、左に居る槍ゴブリンへと突っ込んで行った。


 ケイトさんは槍ゴブリンの前で、左側へと回り込みつつ、セオリーとしては左側に回り込むように動く。すると、正対するために身体を開く必要が出てきて攻撃が遅れる。こっちの動きを観察しつつの動作となるので、すぐに攻撃は出来ない。と大きな声で続けた。


 弓が射線を確保するために動いたな。片手剣が右から近づいて来た。片手剣は槍が攻撃されたら切り込んでくるつもりのようだ。もう一匹の槍は様子見だ。


 つまり正解は片手剣だ。と言って、今度は右に動いて、近づいていた片手剣ゴブリンの武器を横殴りにした。

 ケイトさんが、隙が出来た。腕を折る。と言い、片手剣ゴブリンの肘の辺りに打突を決める。ぱきっという乾いた音がして、片手剣ゴブリンは剣を落とした。


 弓が狙いを付けようとしている。射線を塞ぐ。と言って、前屈みになり、今にもうずくまろうとしている片手剣ゴブリンを弓ゴブリンのほうへと蹴り跳ばした。弓ゴブリンは慌ててそれを避けようとするが、足にぶつかり転んだ。


 槍二匹は混乱している。ここは弓だ。と言って、槍ゴブリンの間を抜けて、そのまま弓ゴブリンへと突っ込むと、何とか立ち上がった弓ゴブリンの弓に、木刀を引っ掛けて絡め取り、それを手元に引き寄せてばきっと折った。


 ついでに転がっていた片手剣ゴブリンを、また蹴り飛ばした。腰骨の辺りに蹴りを受けた片手剣ゴブリンは壁まで飛んで行き、壁に激突した後、消えた。


 弓は素手ゴブリンになったな。あとは槍二匹だ。と言って振り返り、尻込みしつつ槍を構えている槍ゴブリンと対峙した。


 槍の顔を見てみろ、ちょっとにやけているだろう。つまり素手になった弓が後ろから襲おうとしているってことだ。と言って、木刀を片手に持って、ぐるりと背後をぎ払った。


 ケイトさんに近づこうとしていた元弓ゴブリンが、慌てて下がり尻餅をついた。



 槍は集団戦、戦争のための花形武器だ。密集方陣で運用をする。本来ならば槍と戦うのに両手剣や片手剣、刀などでは分が悪い。

 一般の兵士が野戦で使う普通の槍、パイクは四メートルから六メートルくらいある。間合いが違いすぎるから、一方的な戦いになるものだ。


 攻撃方法は叩くと突くになる。集団で使うこと、そして武器が長いことからスキルを身に付けるのに時間が掛かるが威力は絶大だ。


 それよりも短い戦闘用の槍にハルバードがある。騎士や従士などが使う。


 斧と槍が合体したような形状のハルバートは、長さが二メートルから二メートル半くらいで普通の槍よりも短いが、切る、突く、鉤爪で叩く、鉤爪で引っかける。と多彩な攻撃が可能だ。


 尤も、騎士は馬上では騎槍、ランスを使う。これは馬に乗った状態で、すれ違いざまに相手を突き刺すことを目的とした騎馬突撃用の特殊な槍だ。


 魔物が持っている槍は身長程度の長さしかない。謂わば短槍だな。屋内戦闘での取り回しが可能だ。


 これも厄介な相手だ。狭い場所であれば、攻撃方法は突くにほぼ限定されるが、短槍は突いた後の引き戻しの動作も速いから、通路のような狭い場所で、一人に対して二匹も並ばれれば、近づくことすら難しくなってしまう。


 しかしゴブリンなどの魔物であるならば、人間のように密集方陣を作ることはないから、戦いようはあるものだ。


 魔物、特にゴブリンは連携が下手だ。時間や余裕があればタイミングを合わせて攻撃してくることもあるが、大抵は一方の攻撃が先になる。


 それを見て他のゴブリンが追従することが多い。ゴブリンの中にも序列のようなものがあるんだろう。今の場合は右側がリーダーだ。と言って、右側のゴブリンに木刀を突き付けた。


 同じような体格のゴブリンだけれど、並んだところを見ると、少し小さい左側のゴブリンは、ほっとしたような気配で、わずかに身を引いている。


 攻撃方法が刺突に限定されることが多い短槍ではあっても、剣で二匹の槍ゴブリンと正対するのは上手くない。基本は左周りだが、今は左にも槍が居る。つまり右に回る。と言って、右側へとずれて行く。

 

 槍は相手よりも遠くから攻撃することを目的とした武器だ。攻撃力は高いが、その分防御には向いていない。懐に入られてしまうと、無力化する。


 間合いを殺す為、一匹の場合は先に攻撃させる。もちろん、こっちの攻撃させたい場所に対してだ。つまり「せん」だな。と言ってケイトさんが木刀の構えを解いて、右からすっとゴブリンに近づいた。


 ゴブリンが隙を見つけて攻撃してきたぞ。足ではなく喉元狙いだ。と言って左手に持った木刀を振り、突きかかってきた槍を弾く。


 ゴブリンの攻撃失敗だ。だが近すぎて刀は振れない。肘を使うぞ。と言って、右肘でゴブリンのアゴを打ち抜いた。


 べきっという音がして、ゴブリンが苦悶の表情のまま消えた。



 もう一匹の槍ゴブリンは、攻撃するタイミングが掴めず、尻込みしたままだ。そしてその隣に、弓ゴブリンだった素手ゴブリンが並んだ。


 ケイトさんがにやりと笑って、お前達と同じになったな。片方は武器無しだ。と言い、ハクブン・ゴブリンは投げるようなものは持っていないから、此奴が先行して攻撃してくることはない。つまり槍だ。と言って槍ゴブリンに近づく。


 じりじりと後ずさりをする槍ゴブリンには、もう戦意は残っていないように見える。


 ケイトさんが、本来ならば、こうなる前に逃げるのが正解だ。しかしダンジョンの魔物は基本的に逃げない。逃げるのは、東のダンジョンの七十階層のボスとかいう、オーガキングの奴だけだ。


 お前達も逃げる。という選択肢を常に頭に置いておけ。仲間を見捨ててではない。仲間と協力して逃げることだ。こっちが逃げれば追ってくる。そこに相手の隙が出来、反撃のチャンスを得ることもある。


 ダンジョンならば通路の角なんかが反撃に使える。と言って、槍ゴブリンと素手ゴブリンを目にもまらない連撃で倒した。


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