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第五十話 新しいダンジョンその八

 それからお昼を挟んで、オレとユーシンによるゴブリンとの戦闘を何回か行った。棍棒ゴブリンが居る場合は三匹との戦いだ。


 ケイトさんのアドバイスは参考にはなったのだが、全部を考えながらというのは難しい。


色々と考えながら動くようにはしているけれど、あまり考えすぎると動きが悪くなってしまうし、敢えて隙を作るのは怖くて無理だ。


ケイトさんの言う、ゴブリンの「ちょっとにやけた顔」というのも分からない。


そんな顔を見せた時は、オレ達にとって危険な場面なんだろうから、判別出来るようになりたいけれど、いつでも常に、にやけて見えるし、あまりまじまじとは見ていたくない顔だ。


 そもそもケイトさんなら、警戒の糸を出しておけば、背後のことも手に取るように分かるのだから、それを手掛かりに、ゴブリンの「にやけ」が読めたということなんじゃないか? と思う。


 しかし、ゴブリンの群の中には、確かに序列みたいたものはあるようで、身体が一番大きなものが、大抵は群のリーダーになっているようだ。


 強いから大きいのか、大きいから強いのかは分からないけれど、リーダーが棍棒ゴブリンであることはない。片手剣か槍だ。そして、そのリーダーらしき個体を倒すと、その後、スムーズに討伐が終了する。


 ユーシンとお互いの動きの反省点や改善点などを指摘し合い、ケイトさんや、シニフィエを介して王子の意見を聞いたりしつつ、ゴブリンとの戦いを続けた。


 片手剣ゴブリンと槍ゴブリン、棍棒ゴブリンの三匹との戦闘は、武器を失った槍ゴブリンに抱きつかれたオレが、あわやと言う所で、シニフィエの作ったらしき突風と、王子の弓に助けて貰うという、色々と反省点の多いものになった。


 オレが戦いを振り返り、槍ゴブリンとの間合いへの配慮が足りなかったことについて、次はどうしようか? いっそ踏んづけてしまおうか? などと考える。


「お前達はこの場所でちょっと待機していろ」そう言ってケイトさんが突然走り出した。


 その横顔を見ると、先程よりも獰猛そうな笑顔が浮かんでいる。


 王子とユーシン、そしてシニフィエとその場で待機していると、通路の先からケイトさんの「ボア肉ゲットー」との叫び声が聞こえた。


 このダンジョンに稀に出現するというイノシシの魔物、ボアのドロップアイテムの肉をゲットしたらしい。


 そのまま待っていると、ケイトさんが笑顔で帰ってきた。そしてオレ達に向かってニヤリと笑う。


「ドロップしたボア肉だ。マジックバッグに収納しておいてくれ。今夜にでも皆で食べよう」


 そう言って、オレに竹の皮のようなもので包んである肉の塊を差し出してきた。


 両手で受け取った肉の塊はずっしりと重く、横から見ると、スーパーマーケットのショーケースの中にある、切り分けられる前の豚ロース肉のように白い脂肪が付いた肉の塊で、厚さが二十センチくらいあった。


 とんかつだったら十人前以上になりそうな大きさだ。


「ダンジョン肉だね。美味しそうだね」


 オレの隣で包みを覗き込んでいたユーシンが、にっこり笑っている。


「ボアはイノシシの魔物だから、豚肉っぽい味なのかなあ?」


 オレが聞くと、ユーシンは食べたことがないらしい。


 ケイトさんと王子の二人はダンジョン産のボア肉を食べたことがあるらしく、ケイトさんの「ダンジョンの魔物の肉は美味いぞ」の言葉に、王子もにっこり笑って頷いていた。


 そうして午後三時半過ぎに、九階層の地図がすべて埋まった。王子に地図を見せて貰ったところ、新しい発見は泉が一カ所、小部屋が五カ所だ。


 そこで少し早いが今日は戻ろうということになり、安全地帯である十階層へと引き返した。


 ゴブリンの魔石は五十個くらいになった。


 棍棒ゴブリンの魔石の最低買い取り価格、一つ銀貨二枚(二千円相当)で計算すると、全部で金貨一枚(十万円相当)くらいだから、一人あたり二万五千円くらいになる。


 今日討伐したゴブリンの多くは上位ゴブリンなので、最低でも銀貨三枚(三千円相当)、その一・五倍の三万七千五百円くらいにはなりそうだ。


 放出魔素が少ないとは言え、稼ぎとしては悪くないと思う。それにボア肉まであるのだから、午前中に色々とあったけれど、今日の冒険は大成功と言って良いんだろうと思う。


 十階層のキャンプ地に着くと、サイエンさんたちのパーティー同様、十階層の冒険者たちはまだ時間が早いからか、誰も戻ってきてはいなかった。


 ケイトさんに紅茶を淹れて貰い、お茶を飲みながらサイエンさん達の帰りを待っていたのだけれど、王子は魔法を使わない普通の弓の訓練を始めた。


 矢を射る姿はそれなりに様になっているように見えるのだけれど、やはり弓は難しいらしく、的にしているらしい立木に当たらず、左側に逸れてしまったり、手前の地面に刺さったりしている。


「もっと大きく引かないと、あと弓を持つほうの左手、弓手ゆんではしっかり伸ばさないと、矢が左に逸れてしまいますよ。まずは左右のブレを無くしましょう」


 ケイトさんが王子にアドバイスをしている。


 オレ達と一緒に、そんな訓練を見ていたシニフィエ、未来の干し柿製造機様にビスケットを差し出す。


「今日は助けてくれてありがとう」


 そうお礼を言うと、鷹揚おうように頷いてクチバシで受け取り、歩道を歩くハクセキレイのように、てけてけと王子の近くまで歩いて行ってから、ビスケットを食べていた。



 サイエンさん達は、五時十分前くらいに帰ってきた。ベルさんを除き、皆笑顔だ。今日の十一階層の探索は順調だったらしい。


 ベルさんの第一声は、「肉がなかった」だった。


 サイエンさんが笑いながら、「ベル、今日は何回『肉』って言った?」と聞いている。それに対してベルさんが「百回くらい?」と答えているが、その横からジョウンさんが「さっきので八百七十回だな」と苦笑いをしつつ言っていた。


「ベルさん、ケイトさんが手に入れたボア肉がありますよ」


 オレが言って、マジックバッグからボア肉の塊を取り出すと、頬摺ほおずりしそうな勢いで喜んでいた。


 そんなベルさんとオウルさん、そしてケイトさんの三人が、どう調理するか? の話し合いを行って、ボア肉の塊は二センチくらいにスライスして、ソテーして食べることになったようだ。


 肉料理はオウルさんが担当らしい。


 肉を切り分けてから肉と脂身の間の筋を何カ所か切って塩胡椒をした後、小麦粉をまぶす。なんて作業を、大きな身体に似合わず、まめまめしく行っている。


 ベルさんはサラダの担当だ。大皿の上に盛られた、青菜――クレソン――とプチトマト、マッシュルームの大盛りサラダは、マッシュルームは包丁でスライスせずに、手で裂いている。


 ドレッシングも目分量で作って、味を見てからまた油を加えたり、お酢を入れたりして、作り始めた当初よりも大分量が多くなってしまっている。


 こう言っては何だけれど、男の手料理みたいな感じがした。


 鋳鉄製のフライパン、スキレットは各パーティーにひとつずつ、二つしかない。


 ボア肉が大きいので一つのスキレットで二枚焼くのは無理そうだ。そこで肉が焼けたら順次食べていくこととなり、まずはケイトさんと王子の分だ。


 肉の脂とバターの少し焦げた匂いが食欲をそそる。


 蓋をして蒸らしている時間がもどかしい。


 ケイトさんが出来上がったボアソテーを食べて、「美味いぞ」と、にやりと笑いながら言うと、オウルさんが嬉しそうに笑っていた。王子も目を見開いて笑顔で食べている。


 次はオレとユーシンの分だ。二人でナイフとフォークを持って、肉が焼けて、蒸らしが終わるのを待ち構える。


「待たせたな」と笑いながら言うオウルさんから肉を貰い、切り分けてから食べると、肉がしっとりとしていて、すごく柔らかくて美味しい。


 思わず噛むのを止めて、目を瞑って堪能する。


 隣でユーシンが「うまい、うまいですー」と感激している。


 目を開けると、ベルさんがちょっとジト目でオレを見ていたので、笑顔で答える。


 そしてベルさん、ジョウンさんの分が焼き上がり、「美味しいわね。生憎あいにく今日は手に入れられなかったけど、明日は必ずゲットするわよ」一口食べたベルさんが笑顔で言う。


 それに対してオウルさんが「通算八百七十一回だな」と呟く声に笑いが起きた。


 きょとんとしていたベルさんもすぐに気付いて照れ笑いをしている。


 ベルさんのサラダも、しゃきっとしていて、甘酸っぱいドレッシングと相性がぴったりで美味しい。気付けば皆、御代わりしていて、山盛りだったサラダはきれいになくなっていた。


 オレがサラダの味を誉めると、ドレッシングはベルさんの母親に教えて貰った秘伝の味で、キノコは包丁で切ると、見た目は良いけど味が染み込みにくくなるのよ。と、ベルさんが笑顔で教えてくれた。


 そんな食事をしつつ、お互いに情報交換をした。


 オレは九階層の地図が完成したことを話した。


 サイエンさん達は十二階層への階段は見つからなかったけれど、明日には見つけることが出来そうだとの話だ。

 

 十一階層の魔物はコボルトで、ベルさんが言った通り、動物系の魔物は発見出来なかったらしい。


 コボルトの討伐数は三十匹くらいとのことだ。因みにコボルトは犬系の魔物ではなく、ゴブリンよりも上品? な人型の魔物らしい。


 一匹から二匹で行動していて、身長もゴブリンと変わらないくらいなので力は弱いが、暗視能力がある。


 土魔法、金属製の武器を腐食させて、なまくらにしてしまう魔法や、迷宮の通路に壁――と言っても厚さ一センチもない見せかけだけのもの――を作ったりする魔法を使うので厄介な相手らしい。


 持っている武器は、棍棒のような杖というか、杖のような棍棒だけとのことだ。


 古い言い伝えでは、鉱山で道に迷っているところを助けて貰い、鉱脈まで見つけて貰った。なんて話があり、善良なコボルト、というのも居るらしい。


 魔石を見せて貰ったところ、ゴブリンの魔石よりも赤味が増していて気持ち大きい。ジョウンさん曰く、一つで銀貨五、六枚(五、六千円相当)になるだろうとのことだった。



 夕食後、サイエンさんと十一階層近くのキャンプ地を訪ねてみた。ケイトさんは、今回はパス。とのことだったが、オレの知り合いに、刀と居合いについて詳しく聞いてきてくれ。と言われた。


 キャンプ地にそれらしい姿は見当たらなかった。


 そこでサイエンさんの顔見知りの冒険者の人に、西の王国の調査団について聞いて貰ったところ、早朝大荷物で出発し、ダンジョンの十三階層あたりで野営の予定らしく、今夜と、そしておそらく明日も帰ってこないだろう。とのことだった。


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