第四十話 ダンジョン都市
街道からT字路が伸びていて、ダンジョン都市へと続いていた。
ダンジョン都市はダンジョンの存在が前提で出来た都市だからなのか、三方を山に囲まれた谷間のような所にあった。
城壁が街を囲み、背後は山で、今歩いている道の他に道などはなさそうだ。
おそらく城門はひとつだけで、外部の敵ではなく内部の敵を外に出さないための城塞なのだろう。
城門の前まで歩いて行くと、閉じられている城門の大扉は外側に開くタイプではなく、内側に開くようになっているようで、四箇所ある頑丈そうな太い閂は、門の外側についていた。
大扉の両脇に小さめの扉が二つ、入り口用と出口用があって、歩行者や荷馬車は、こっちを通って出入りしている。
門衛らしい兵士二人が入り口の方の小さめの扉の前で、冒険者プレートや差し出された書類などのチェックをしているので、その列に並び、チェックを受けた後、無事ダンジョン都市へと入ることが出来た。
入市税のようなものはないとのことである。
門衛の兵士の人に冒険者ギルドの場所を聞いて行ってみると、かなり大きな石造りの三階建ての建物で、夕方ということもあって混雑していた。
ドロップアイテムの買い取りをしているらしい受付に並んでいる人が多い。
それとは別の総合受付の方に並び、冒険者ギルドからの依頼書を見せると、こっちにも連絡が来ていたようで、早速冒険者ギルドに隣接する倉庫での引き渡しとなった。
冒険者ギルドの職員の人に、マジックバッグから取り出したお酒や武器を、輸送品のリストと照らし合わせてチェックして貰い、破損などないことも確認して貰った、
その後、冒険者ギルドへと引き返してサイエンさんたちと合流、その後別室で報酬を受け取った。
報酬の金貨八枚(八十万円相当)を受け取り、その重さに驚きつつ、にまりと笑う。無事に任務完了である。
ギルド長の言う通り、ばーんと運んでどーんと儲かった。あれ? どーんと運んでばーんとだったかな? などと思う。
ともあれ借金生活がらの脱出だ。王子とケイトさんへの借金を返しても大銀貨五枚(五万円相当)くらいは残るはずだ。
ユーシンに山分け分の金貨四枚を渡し、ユーシンはその金貨の重さを確かめるように持って、にこりと笑った後、武器防具の立て替えをして貰ったケイトさんに、お礼と共に渡していた。
オレも王子とケイトさんに、後で精算してから借りていたお金を返します。との話をした。
その後、まずはギルド職員の人に聞いたユーシンの叔父さん、ハクシンさんのクランの拠点となっている建物――宿を貸し切りにしているとのことだ――に行ってみることになった。
ユーシンによると、ハクシンさんが所属するクランは「黎明の暁光」という名前で、クランメンバーは五十五人の大手クランだ。
ハクシンさんはそのサブマスターとのこと。因みにクランのマスターはライガさんというAランクの冒険者とのことだ。
拠点には、ユーシンが叔父さんへの手紙を預けた時に知り合ったクランの人、カトーさんが居た。
ハクシンさんは難航している七十階層のボスモンスター、オーガキング攻略のために、ライガさん達主力メンバーと東のダンジョンに潜っていて、不在とのことだった。
カトーさんは二十代後半のDランク冒険者で、今回のダンジョン攻略のサポート担当をしているとのことだ。
攻略階層である七十階層までは、途中で何カ所かのワームホールを使っても三、四日は掛かるので、ダンジョン内に集積所を作り、前線への物資の補給などを行っているらしい。
本来ならば七十階層の攻略はとっくに終わっているはずだったのだけれど、七十階層のボスモンスター、オーガキングは形勢不利となると、転移魔法を使って逃げるのだそうだ。
追い詰めると逃げる。そんなことが何度も繰り返されていて、経費ばかりが嵩んでしまっているらしい。
「ボスモンスターなのに逃げるとか、聞いたことがないよ。往生際が悪いというか、何と言うか……」と、憤懣遣る方無い様子だ。
そして、新しいダンジョンが出来たことで、この街の宿はどこも満員に近いと言う話でもあるため、サイエンさんたちのパーティーも一緒に、クランのゲストルームに泊めて貰えることになった。
食事はバイキング形式で、温かい肉やパスタ、サラダやフルーツなどがトレーで提供されていて、各自好きなものを好きなだけ食べても良いとのことだったので、ユーシンとオウルさん、そしてベルさんは大喜びしている。
夕食を皆で食べながらカトーさんにダンジョンの話を聞いた。
ダンジョン都市の東西の両ダンジョンは、ともにフィールド型のダンジョンで、各階層の構造は双子のように同じだが、出現するモンスターに違いがあって、西のダンジョンはゴーストやファントムなどの実体を持たない魔物も出現する。
低い階層のうちは、こうした実体のない魔物からの致命的な攻撃というのはないけれど、ラップ音で注意を逸らされたり、活力を吸い取られたりと厄介な攻撃があるので、聖水とか神聖魔法での対応が必要となり、その上、魔物が落とすドロップアイテムが少ないので人気がない。
東のダンジョンと連動して階層が開放されるので、現在七十階層まで行くことは出来るはずだけれど、西のダンジョンの実際の到達階層は四十階層くらいじゃあないか? とのことだった。
ダンジョンの内部は、階層によって地形が異なり、森や山、草原などのフィールドがあるとのことだ。
昼だったり夜だったりと、階層毎に時間も異なり、東西では逆転している。東のダンジョンの一階層はいつも昼間だが、西は真夜中になっている。
時間と共に昼になったり夜になったりはしないから、本来、昼の階層は灼熱、夜の階層は極寒になりそうなものだけれど、そういうことはないらしい。
東のダンジョン一階層の扉を潜り抜けると林が広がっていて、ゴブリンと上位ゴブリン、そして稀に魔鳥や魔犬などの動物型の魔物が出現する。広さは直径十キロくらいのほぼ円形だが、階層によって広くなったり、逆に狭くなったりもするとのことだ。
塔の中にフィールドがあるのだから、時空魔法のようなもので、どこか別の場所、ステージのような所に飛ばされているはずだけれど、そのあたりは他のダンジョン同様に不明だが、塔ということでなのか、上へと登っていくタイプとのことだった。
そんな話を聞いた後、オレ達とサイエンさんたちのパーティーは、ダンジョン都市に一泊した後、この街から歩いて一日半ほど北にある新しいダンジョンに行く予定だったのだけれど、折角の機会だからこの街の東のダンジョンの低階層を体験してみないか? と、カトーさんからの誘いがあった。
二パーティー八人で四人がEランクでレベルアップ済み、しかも騎士の指南役という、実力的にはAランクでもおかしくはないケイトさんが居る。
一階層や二階層などの低階層でガイド役が居れば、まったく問題ないだろうとのことだったので、サイエンさんたちと相談して、お言葉に甘えて東のダンジョンの探索を実体験することになった。
翌朝、ベーコン、ソーセージと目玉焼き、そして焼いたトマトがワンプレートになっていて、付け合わせがトーストしたパンという、イングリッシュ・ブレックファースト風な朝食を食べた。
焼いたトマトというのは初めて食べたけれど、甘くて美味しかった。
お昼のお弁当、サンドイッチも用意されていて、オレのマジックバッグは一応秘密となる為、各自が自分のカバンに仕舞った。
その後、カトーさんとクランの若手Eランク冒険者、ユータスさんの二人の案内で東のダンジョンへと向かった。
本来、ダンジョンに入るのには、ダンジョンを管理している国に対して入場料金、一人大銀貨一枚(一万円相当)を支払う必要があるが、クランとして一括で契約をしているので、オレ達八人はクランの客人待遇で無料で入れるとのことだ。
入り口も別で、行列の隣の誰も並んでいないほうの扉が使えるとのことで、四、五十人くらいが並んでいる行列の脇を通って、建物の中に入る。
行列が出来ている理由だが、ダンジョンの入り口を開放してしまうと冒険者がなだれ込んで、それがトラブルの原因にもなるので、時間を空けてパーティー単位でダンジョン内に入れているとのことである。
建物の中に、ダンジョンの第一階層へと入るための扉があって、その扉の前で、カトーさんから改めて注意事項などの説明をしてもらった。
東のダンジョン第一階層は森林フィールドで、出現する魔物は攻撃魔法や弓などを使う上位ゴブリンを含むゴブリングループで、三匹から五匹が群を作っている。
二つの群が一緒に行動していることもあり、最大十匹程度と遭遇する可能性があるとのことだ。
前衛のゴブリンと戦闘している時に攻撃されることもあり、攻撃魔法や弓などを使う上位ゴブリンの攻撃は、レベルアップをしていない王子やユーシン、そしてオレには致命傷になりかねないので、注意するように言われた。
弓矢の攻撃についてはユータスさんとベルさん、そしてケイトさんが、魔法の攻撃についてはカトーさんとベルさんと王子、シニフィエのコンビが対処出来るとのことなので、この六人とシニフィエに任せ、下位の棍棒を持ったゴブリンはオレとユーシンが担当。
棍棒以上の武器を持っている上位ゴブリンはサイエンさんたちのパーティーが担当することになった。
とは言っても、五匹、ことによっては十匹すべてが上位ゴブリンというケースもないわけではないらしいので、そうした場合はオレ達は待機で、カトーさんとユータスさんにも参戦して貰うことになった。
そしてダンジョンへと侵入した。
第一階層の森林フィールドは、ぱっと見は長閑な感じなのだが、鳥の声などは聞こえてこない。振り返ると今入って来た扉があって、その周りの壁があるべき場所は灰色の霧が掛かったような感じだ。
カトーさんに聞くと、触っても問題ないと言うことなので、手で触ってみると霧のなかに弾性がある壁のようなものが感じられた。
カトーさんによると、霧のようなダンジョンの外周壁からは魔物が出現するようなことはなく、安全な壁になる。とのことだ。
ユータスさんがマップを確認しながら、二階層の階段の方向を指さして、
「今日はダンジョンの攻略ではなく、体験をしてもらうことが目的なので、外周沿いに二階層へと上がる階段まで行って、逆側を回って戻って来る予定です」とオレ達に説明があった。
ダンジョンフィールドの外周沿いならば、魔物との遭遇が前方と片側からに限定され、魔物に囲まれる危険性が少ないためで、一階層の直径が約十キロなので、今日は三十キロちょっとの道程となるとのことだ。
森林と言っても、入り口近くは木が疎らに生えているだけで、見通しは悪くない。他の冒険者パーティーも遠目に見えて、魔物の気配はない。
低階層は狩り場としての魅力があまりない為、探索を行う冒険者は、二階層の階段を目指して真っ直ぐ歩いて行くらしいが、オレ達はカトーさんとユータスさんの案内で、ダンジョンの左側の外周沿いを進んだ。
2024.4.5 ダンジョン都市から新しいダンジョンまでは一日半に修正しました。




