07-24_名も無き炎
【超変身フレイムフォーム】
灼熱の炎がナナシを包む。目も開けられないほどの眩い光。
それが晴れた瞬間、皆が目の当たりにしたものは・・・・・・
紅蓮の少年。其れは人にして炎そのもの。
「龍…毅…なのか?」
純は絶句した。その姿は12年前に『されこうべの丘の十字架』を択捉諸共焼き尽くした炎そのものだった。紅蓮の少年が純に微笑む。それは純がよく知る、気弱で控えめで、でもとても優しい微笑みだった。
『純くん、久しぶり。本当は表に出る気はなかったんだけど、ナナシさんがどうしてもって言うから出て来たよ。』
「龍毅…ゴメン……俺、あの時酷い事……」
『うぅん、仕方ないよ。誰だってお父さんが亡くなれば辛いから。』
純は目の前にいる少年がナナシとは別物である事をすぐに悟った。そして謝らないといけないと思った。
記憶を取り戻した純の心に最初によぎったもの。それは龍毅に対する罪悪感。あの時、怒りと悲しみに任せて龍毅に酷い言葉で八つ当たりしてしまった。それが別れの前の最後の言葉になるとも知らずに。後悔で俯く純を炎の少年は抱きしめ、頭をやさしくポンポンと叩き、背中をさする。それは人と同じ温もりだった。
『純くん、これが最後だから後悔しないようにちゃんと伝えるね。
………純くん、僕ね。ずっと君の事が好きでした。』
「エッ?」
『真っすぐで、正義感があって、かっこよくて、男前の君は僕の憧れでした。』
「りゅう…き。なんだよそれ。今更そんなの…ずりいよ……」
震える声で必死に涙を堪える純。
『ただ一つだけ、アドバイス。君はもっと素直になった方がいいよ。そうすればナナシさんもきっと君の事を好きになるから。』
「う、うるせぇ!!余計なお世話だよ!つか、この会話、フレイムに聞かれてないだろうな!!」
おどけた様子の龍毅に顔を真っ赤にして地面を踏み抜きながら抗議する純。隣で黙って見ていたアリエルもこれには苦笑い。
『大丈夫、僕はそこまでお人好しじゃないから。自分の色恋沙汰は自分でどうにかしてね。それに……』
「なんだよ?」
『何が悲しくて自分が好きになった女性の告白を手伝わないといけないんだよ。』
「す、好き!!」
『ハハァ、これは先が長そうだね。』
顔を真っ赤にしながらフリーズする純。だが状況は待ってはくれない。少し離れた位置から緊迫した声。
『龍毅様、そろそろ限界です。早く『名前ある者の神』を…』
「フレイム君!お姉ちゃんも限界だよ~!早く~~~!!」
「はぁはぁ・・・僕も・・・ちょっとマズいです・・・」
「ふん!若いモンがだらしない。最後の言葉くらいゆっくり言わせてやれ。」
龍堂以外のヒーロー達は限界間近。疲労の頂点に達した彼らに天使達が攻勢を強める。
『いけない!急がないと!そうだ、最後にアリエルさん。』
「エッ?あたし?」
『アリエルさん。もしよければ、これからもナナシさんの事、宜しくお願いします。あなたはナナシさんにとって、とても大切な人ですから。』
「はぃい~~!?それってつまり……」
『その答えは本人に問い質して下さい。それじゃ…』
最後に茶目っ気タップリに爆弾発言を投下する龍毅。辛気臭いのはヒーローらしくない。それが彼ら地球のヒーローの信条なのだろう。
気付けば龍毅の気配は消え、炎の少年は炎の青年へと姿を変えていた。
「すまない。気を利かせたつもりだったのだが、負担を掛けたみたいだな。」
「戻ってきましたか・・・フレイム兄さん。」
「ちょっと!フレイム君!遅いよ~~~!!」
「いや、すまない。もう少しゆっくりさせてやりたかったんだがな。」
『聞いてはいましたが、龍堂様は無尽蔵なのですね。』
「話は後だ!さっさとこのウザったい天使共を片付けるぞ!!」
「了解した。葉山、アリエルを頼む。」
「分かってる。さっさとブチかましてこい。」
「ナナシ君。しっかりね。」
仲間達の声援を受け、名も無き炎『ナナシのフレイム』が動き出す。
『やらせせせせせん…今度こそ………世界の全てに……永遠の命の安息ををををををををを…』
それに呼応するように『名前ある者の神』も動き出す。その姿は火響氷華のモノではあるが、壊れたラジオかブリキ人形の様で、ナナシが知るアイとは程遠かった。
その雑音が混じる無機質な声に反応して、天使達がナナシに殺到する。
【超必殺フレイムエンド】
炎の青年はその姿を無くし、炎そのものへと変じる。
それは言葉で表すなら【炎という概念そのもの】。それが遂行するは、ただ焼くという行為。
その炎に温度は存在しない。その炎に耐火、耐熱は無意味。その炎はただ触れたモノを灰燼と帰す為だけにある。それは『名前ある者の神』が持つ不死という概念すら焼き尽くす。
それはまさに最終審判の炎。
『われは…メシア……おんちちよ……どうしてあなたは…われを…みすて……』
漆黒の闇を埋め尽くす紅蓮の業火。
無機質な断末魔を上げ、出来損ないの救世主が天使諸共燃え尽きる。
そして残ったのは真っ暗で何もない空間と疲労困憊で倒れ込むヒーロー達の姿。
「ふぅ~・・・何とか終わりましたね。」
「そうだね!これも全てお姉ちゃんのおかげだね!!」
「篝ちゃん。余計な事言わなきゃ、みんなの好感度も上がってたのに。」
「まったくだな。お前さんは腕はいいのに調子に乗り過ぎるのが玉に瑕だ。」
「ハハァ…でもその方がカガリさんらしいね。」
「…そうだな。」
弛緩した空気の中、軽口交じりにお互いの健闘を讃え合うヒーロー達。
その光景を遠くから見守る小さな影が二つ。
『どうだったかな?アリス。僕の願いで生まれた僕のヒーローは?』
『素晴らしかったです。これならきっとマスターと雷電様にもいい土産話になるでしょう。』
『そうだね。これで僕らも心置きなく父さんと母さんのところに行ける。』
『はい。案内の方は任せて下さい。転生までの僅かな時間、どうかご家族と安らかに過ごし、魂に休息をお与え下さいませ。』
ひと時の平和と安息を享受するヒーロー達。
黒髪の少年と金髪の少女は彼らに微笑みながら背を向ける。彼らを待つ大切な人達の元へと向かう為に。




