泣きの一回
背の高い男は更に腕を高く上げ、急に見えないものを叩きつけるように腕を振り下ろした。
男の動きに合わせるように、炎は高く上がり、突然消えた。
残ったのは灰。骨も残らない灰だった。
私は、身体が動くようになり、その場にへたり込んだ。隠れなければ、と分かっているのに足の力が抜けて動けない。
「おい、そこで腰を抜かしている女」
男は私に背中を向けたままだが、気づいていたらしい。
「な、なぜっ…ここまでする必要が?」
私は震える声で問う。殺す理由がわからない。
「次が控えてる」
男は灰を足で蹴ちらす。
「次…」
「次の勇者がもうすぐここに来る」
ーー何を言っているの、この人は
「おいおい、余計な事は言うな」
私に気づいた神官長が寄って来る。
「君は…ユーリさんだったか、何故ここにいるのか分からないが、聖女のスキル絡みかな?なんだろう…先読みか何かか…どちらにせよ聖女は死んだ」
神官長はブツブツ言いながら難しい顔をしている。
「それはもういい…悪人のような言葉だが、知ったからには生かしておくわけにはいかないのでね」
「…つ、次の勇者って何の話ですか」
「これから死ぬ人間が知る必要はないよ。エギ、もう1人頼まれてくれるか」
「俺は弱った人間しか焼かない。他をあたれ。俺は帰る。」
エギ、と呼ばれた背の高い男は既に歩き出していた。神官長は舌打ちし、残った3人の神官を呼び寄せた。
「私も戻らなければならない。お前たち、この娘は私を殺そうとした罪人だ。処分しておけ」
彼らは小さく頷いた後の行動は早かった。
1人が私を羽交い締めにし、
1人が勇者様の剣を拾い鞘から抜いた。
もう1人は私の前に立ち、何やら呟いている。
ーーたす…助けて…誰か助けて…
私は剣から放たれる光を見つめたまま涙を流す。
ーー助けて……
「最後に言いたい事はあるか?」
彼は先ほど女神に祈りを捧げていた。何もしていない人間を殺すのに、神に許しを得ようとしている。
ーー賢者様たちも、殺された。助けは来ない。
「……戻して」
涙が溢れる。もう、涙しか出ない。
ーー賢者…シュンヤ様は笑っていた。彼らは死んで、もう何もできない。私はまだ、泣ける。私はまだ、願える。私はまだ、生きている。
「会いたい。もう一度会いたい。」
言葉に力がこもる。
神官が私の首に剣先を当てた。
「祈りは終わりましたか」
私は息を吸い込む。
「女神様!こんなふざけた終わり方を許すのですか!! 」
神官は口の端を上げ、女神様を冒涜するとは、と剣を振り上げた。
「もう1回戻してよ!!!」
ーーーーお願いだから……
〈スキル、泣きの一回が発動されました〉
無機質な女性の声が聞こえてーーーー
ーーーーーーーー「ここで待つように」
私はまた小部屋に立つ事ができた。




