3回目の今日は静かに始まる
私は今、聖女様と向かい合っている。
彼女は表情もなく、つまらなそうに裁縫道具を眺めているように見える。
本当なら泣き叫び、怒り狂い、逃げ出したいはずだ。
私は再びここへ戻った時に、パニックになりかけたが、聖女様が現れ、顔を見た途端に急激に心が冷えた。
ーー彼女の前でパニックになってはいけない
私の予想が正しければ、彼女は2度死んだ。命からがら逃げてきた聖域で殺された。
きっと1度目の死の直前に聖女様がスキルを発動させたのだろう。
彼女の恐怖を思えば、私が平静を装うくらいできなくてどうする。私は生きていて、痛い思いも怖い思いもしていない。
私は震える手をおさえるように、手を組み合わせ、力をこめる。
「で、ではハチマキを作りますね」
聖女様は興味なさそうに頷いた。
「アッちゃん様とタケヒロ様の2人の仲が怪しいって侍女達が噂をしているのですよ。おかしいですよね」
私は努めて明るく噂話をする。
私に出来る事はない。前回は終始無言だったけれど、今回は少しでも気持ちを他に向けてほしい。彼女はまた、戦わなければならないのだから。
ハチマキに縫い付けをしましょうか、と聞くと、
必要ありません、とメモ書きされた。
今回は作業が早く終わり、早めに大広間へと向かった。
ーー私が関われるのはここまでだ
私は賢者様の前に立ち、彼の顔を見つめる。
彼は変わらず、不機嫌そうに目線を下に向けたままだ。
ーーあ、寝癖ついてる。今まで気がつかなかったわ。
ハチマキをまた奪われた。
「………」
今回は何も言われない。
彼は黙ったままハチマキを頭に巻く。
「あ、あのシュンヤ様」
彼の事を考える事も多かったし、何か言わなければ、と焦ったせいもあり、咄嗟に名前を呼んでしまう。
賢者様は、ハチマキを巻く手を止め、真っ直ぐ目を合わせてきた。
「何?」
今回は私の名を呼ばない。少し心が痛い。
「む…無理はしないでくださいね」
なんとなく気まずくて、私の方が目をそらしてしまった。
彼は「ああ」とだけ答えた。
彼らの背中を見送る際、呼び止めたくて何度も口を開きかけたが、聖女様の真っ直ぐ伸びた姿勢を見ると、ただ黙って見送るしかなかった。
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時間を合わせたつもりはなかったが、今回も小部屋から出てきたドーリスに会った。
同じようなやり取りをして、またドーリスの横に並ぶ。
「ドーリス様、例えば他言無用のスキルの内容を本人以外が知っていたらどうなるのですか」
「…そのお方を害したいなら公にすればいい。」
ドーリスは今まで聞いた事の無い低い声をだした。
「本人が公にしたのと同じ扱いになるということですか?」
「制限のつくスキルは、大事なものを担保にして発動するものが多い。発動させたなら相当の覚悟の上だ」
ドーリスも私が聖女様の事を話していると分かっているのだろう。言葉を選びながら説明をし、君は自分の仕事をすれば良い、とその場を後にした。
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彼らは魔王城からは生きて帰ってくる。
虫の息だったのに全員が帰還できたなら、それもスキルだったかもしれない。
ーー私じゃ助けられない…あの場に私が行っても何の役にも立たないわ。 誰かに助けを求める為には全て話さなければならない。聖女様のスキルを話す必要が…
そこで私は我に返って頭を振る。
ーー何を考えてるの。まだ何も終わってない。
賢者様達は命を賭けて戦っているのに、私が諦めてどうするの。
「どうしたの、怖い顔して」
イリスが洗濯カゴを私の頭の上に乗せる。
「ううん。賢者様たち、大丈夫かなって考えていたの」
「賢者様たち…ね。勇者様たち、ではないの?」
ーーあぁ!またイリスにからかわれる流れだわ
案の定、私は賢者様に一目惚れした事になっており、洗濯場は前回以上に盛り上がっていた。
「楽しそうね。何の話?」
新たに食堂担当のマーゴが加わる。彼女は前掛けを山ほど手にしていた。
「今日は多いわね」
「ニホンのカレーの次の日はいつもこうよ」
皆の視線が私に向かう。
「なになに。今日はユーリが中心?」
マーゴがドサッと洗濯物を私の横に置く。じっくり聞かせてもらいましょうか、と心の声が聞こえる。
「ち、違うわ!みんなが勝手に言ってるだけよ。」
その後、私のしどろもどろの説明を、うんうんと聞いていたマーゴは「惚れる要素はないけど好きになるのが恋よ」と言い、また盛り上がっていた。
その後は、賢者様はズボラだ、甘いものが好きでクッキーを隠し持っている、キツイ言葉を言った後に実は気にしててチラチラ見てる、戦士様よりたくさん食べる、と皆が知る賢者様情報を教えられ、私は困った風な顔をしながらも少し嬉しかった。




