終わりは悲劇だった
ーー最後は私の話で終わってしまった。スキルの事を詳しく聞きたかったのに自己嫌悪だわ…
「何、サボってんのよ」
イリヤが笑いながら洗濯カゴを私の頭の上にのせた。
「もう!イリヤったら」
イリヤに怒るフリをしながら、こんな場面も前回はなかったな、と冷静に考える。
同じ日をやり直している、とは思うが使用人はそもそも毎日同じ事の繰り返しのようなものだ。
ーーこの信じ難い状況を私が知っていても私に出来る事はない…聖女様はきっと何かお考えがあるのだわ。
1度負けた相手にまた立ち向かう為にスキルを使ったのなら、きっと大丈夫。前回も生きて戻ってきた。大丈夫よ。大丈夫。
大丈夫大丈夫と、自らに言い聞かせ、私は洗濯場に足を向けた。
勇者一行が出発したこともあり、彼らに付いていた侍女や使用人も時間が空いたようで、洗濯場に顔を出した。
「今朝は本当に大変だったわよね」
「急に魔王討伐が決まったから準備しろ、だものね。朝ごはん抜きでつらかったわ」
「ああ、戦士様は寝起き悪いし大変よね」
侍女達が、私達がそばにいるのも気にせず話し始める。
「それはいいのよ。剣士様をお呼びすればいいだけだから」
「剣士様をなぜ呼ぶの?」使用人が口を挟む。
「お二人は幼馴染で、昔から剣士様に頭が上がらないのですって」
「あの大きな戦士様が身体を小さくして怒られているのを見ると可笑しくって」
彼女達は思い出したのかクスクス笑う。
「〝アッちゃん〟は1番大きくて見た目も怖いのに皆さんに可愛がられていて…」
「あっちゃん?」何人かが同時に聞き返す
「戦士様の愛称です。殿方には皆さんからアッちゃんと呼ばれていましたわ」
ーーあ、名前。
「あの、賢者様のお名前はご存知ですか?」
私は戦士様と剣士様が仲睦まじいと下世話な話題になっていた会話に割り込む。
「え、賢者様?」
彼女達は眉をひそめたが、会話を邪魔した事は咎められなかった。
「名前で呼び合っていたから聞いた事はあるはずだけど、忘れたわ」
「私も覚えてない」
「ユーリ、なんで賢者様?」
イリヤが肘で小突いてきた。
「ちょっ…ちょっと気になっただけよ。今日初めてお会いして、名前も知らなかったから」
ーー今さら名前を知ったところで意味ないかもしれないけれど、知らないままでいるのも彼に申し訳ないわ
「ユーリは賢者様かー!」
私とイリヤの会話を皆聞いていて囃し立ててくる。
「これはお姉様が人肌脱ごうかな」
「賢者様は実は可愛い顔をしてるのよ」
「でもいつも不機嫌だし、口は悪いし私はパス」
「一人で本ばかり読んでつまらなそうよ」
彼女達は好き勝手に話し続ける。
彼は嫌われているのかと思っていたが、彼女達の表情を見ているとそんな感じでではない。
その時、懐かしい顔が頭をよぎる。
生意気ばかり私に言っていた懐かしい声。
ーー 弟。きっとそんな感じね。近しい所で接してきた方たちにとっては賢者様は弟みたいな存在だったのですね…
****
夕食前、洗濯場で話した侍女の一人に呼び出された。
「賢者様はシュンヤという名前だそうよ。
ライバルもいないから頑張りなさいよ!」
彼女はそれだけ言って走り去った。
「…シュンヤ様…か」
私が忘れないよう、繰り返していたところで、男達の慌てたような声が聞こえてきた。
ーーきっと勇者様たちが戻ってきたのだわ。
転移門はここから近いし行ってみようかしら
彼らは瀕死の状態で魔王城から逃れてきたと聞いた。
何も出来ないけど、彼らの無事は確認したい。
私はイリヤにお腹の調子が悪いから、と告げ夕食を食べずに転移門へ向かう。
転移門は結界が施されているので近寄ることはできない。
私は遠目に見えるくらいの岩陰に身を隠して彼らが出てくるのを待つ。
突然、神官長が現れて声を張り上げた。
「勇者様達の状態は酷い。これより王都に転送するのでお前たちは全員神殿に戻りなさい」
神官達はこの言葉に従い、皆引き上げて行く。
私は岩陰で動くに動けずジッとしていた。
辺りが静かになった頃、ガチャガチャと音がして、私はそっと様子を見る。
勇者様たちは酷い状態だった。
何故帰還できたか分からない程に。
私はあまりの有様に息が止まる。
でも違和感しかない。
彼らはこれから治療するのではなかったか。この扱いは何?
彼らは無造作に積み重ねられている。
唸り声が聞こえるので生きている。
まるで村が焼かれた時みたいーー 手の施し様のない傷を負った人もそのまま火をつけられて…
私は震える身体を抱える。
そこへ異様に背が高い男が現れた。
男が手を広げると、火柱が上がる。
勇者様たちは一瞬で燃えあがりーーーー
ーーーーーー「ここで待つように」
私はまた小部屋に立っていた




