彼は3回あきらめた
「俺はまだ、何もしていない」
エギや神官長、あと私を前に殺そうとした神官3人が後ろ手に縛られ、憮然とした表情で私達を睨みつけている。
今の言葉はエギが放った。
「まだ、な。確かに前にやったからといって、今度もやるとは限らないな」
シュンヤ様がエギの言葉に納得する。
「お前たち、魔王はどうした。」
神官長は勇者様たちを敬うのをやめたらしい。
「倒す必要がなくなった。対話したら解決した」
「いやいや、俺たち死にかけたじゃねーか!」
戦士様がシュンヤ様の言葉を即否定する。
「王都に魔獣使いのスキルを持った奴がいて、そいつが魔獣を操って村や町を襲わせてたらしいぞ?」
神官長の顔色が一気に悪くなる。
「魔王はずっと対話を求めていたのに、そんな事されたら戦線布告もするよなぁ」
私は不謹慎にも、シュンヤ様がたくさん話している…と彼の話す姿を眺めていた。
「次の勇者…」
その言葉で神官長の肩が跳ねる。
「気の毒にな」勇者様が顔をしかめた。
「あの腐った国に呼ばれて、おかしな魔術で身体強化されて、何も気づかずここまで連れてこられていた」
「お前たち!勇者様に何をした!」
神官長にとっては既に次の者が勇者様らしい。
「何もしてねぇよ。ここは聖域なの忘れたか?魔術で身体強化された奴が入れるわけないだろ。」
神官長が目を見開く。
「裁くのは私たちの仕事じゃないから。ドーリスさんよろしくね」
「俺は何もしていないが?」
再びエギの声。
「お前はどうせ国の不始末の後処理係だろ。
ユーリの村を焼いたのもお前だろ。それだけで極刑に値する」
「焼いた村などいちいち覚えていない」
彼は自分の行いを、あっさり認める。
私は燃えさかる村、炎の中のシュンヤ様の姿が脳裏によぎり手に力がこもる。
震える手を、誰かに握られた。
見ると、いつのまにかシュンヤ様が隣にいて、私の手を握っていた。
「俺は生きていて隣にいる。家族は戻らないが恨むべき奴らは裁かれる…それでいいか?」
私を握る手に力がはいる。
私はまだ答える言葉が見つからず、彼の顔をただ眺めていた。
*****
ユイは、シュンヤのスキルの発動が魔王討伐の鍵だ、と最初から考えていた。
シュンヤは幼い頃に父親を病気で亡くし、召喚される少し前に母親も病気で亡くしていた。
どうでもいいという気持ちが常に表に出ていた。
魔王に3回瀕死の状態にされた時も、死ぬことを受け入れていた。
ハチマキには、
ひらがなで 《 すきです 》 と縫わせた。
好きな子が同じ想いだと分かった時の気持ちは、今すぐ会いたい、しかないだろう。
シュンヤは絶対に死を受け入れない理由ができた。
彼は文字を見つけて、スキルを発動した。
(やっぱり最後は愛の力っていうのが定石よね)
ユイはユーリとの会話を思い出す。
『聖女様、この文字はなんと書かれているのですか?』
『すきです、だよ。』
『あ、なんだ、てっきり愛していますと書いてあるのかと思いました! 好き、なら伝えやすいですね!!』
『え?ユーリちゃん、愛していますだったとしても縫おうとしたってこと!?』
思ったよりユーリの気持ちも重くて、思い出すたびに笑ってしまう。
あの恐ろしい記憶はなかったこと。悪夢だと思おう。今からが私たちの今、だ。
次で最終話です。




