今を生きる
最終話です。
「キャーーー!」
洗濯場に使用人たちの叫び声が響く。
「それでそれで?」
皆が目を輝かせて話の続きを催促する。
ユイ様がハチマキに見立てた布巾を手に持ち、シュンヤ様の真似をしていた。
「…魔王にヤバイ一撃もらって、シュンがハチマキを外して気合い入れようとした時に…」
「…した時に?」イリヤの合いの手が入る。
「ユーリが日本の言葉で、すきですって縫った文字を見つけたのよ!!」
「キャーー!!!」
「シュンのずっと発動しなかったスキルがね、その言葉を見て発動したんだけど、その時になんて言ったと思う?」
「なになに?何て言ったの?」
「シュンの大きい声なんて初めて聞いたんだけど…」
「なになに焦らさないでよ!」
皆がユイ様に詰め寄る。彼女は息を吸い、
「おれも好きだーーーー!くらえ起死回生の1発だーーーー…って言ったの」
皆が顔を見合わせ、1人がプッと吹き出すと、それが合図のように爆笑が響き渡る。
「そんなに笑う事ないじゃない」
私は口を尖らせて彼をかばう。私も最初に聞いた時は笑ってしまったけれど。
「だっ、だってあんな無愛想な賢者様が…」
堪え切れないようにまた笑い出す侍女たち。
彼のスキルは、彼が叫んだとおり【起死回生の1発】というものらしい。絶対に戻って私に想いを伝えると決めた時に発動したと聞いた。
彼のスキルは魔王の魔力を無効化するもので、勇者様たちが戦いではなく対話を求めたら応じてくれたそうだ。
対話が早く終わり、帰還のために転移門を使えばバレると気づき、魔王に他の出口を作ってもらって夕方前には戻っていたのだそう。
そこで眠りこけている私を見つけ、ドーリス様に私を任せ、彼らは作戦を練ってあのエギの言う茶番になったらしい。
国の荒廃を正すのは俺たちの仕事じゃない、と勇者様達は王都には戻らず、まだ聖域で過ごしている。
神官長達は、思ったよりすぐに関わった者の名前を挙げ、捕らえられた。
スキルを悪用する者、強すぎるスキルは抑制されるかスキルを封印された。
「ユーリ」
背後で小さく私を呼ぶ声。
「シュンヤ様!」
振り向くと、彼はシーッと人差し指を立てる
私がコクコクと頷き、皆に気づかれないよう、
彼のそばに寄る。
「どうしたのですか?」
「ちょっとユーリを補給に来た」
「私をほきゅうとは?」
私が首を傾けると、緩く私に手を回す。
彼は思いのほか背が高い、と上を見上げた瞬間ー
「そこはキスでしょー!!」
ユイ様のからかう声と使用人達の悲鳴。
シュンヤ様は腰に巻いた手に少し力をこめた。
「クッソ!お前が邪魔したんだろうが!」
「まださせないよ!」イリヤが笑う。
彼は笑って、言い合いをしている。
私はこの賑やかな雰囲気に幸せを噛みしめる。
*****
それから少しだけあとの話
戦士様と剣士様は、荒らされた村や町の復興の手伝いをしている。
力を抑制されたエギを連れて。彼らの監視のもと、ゴミや瓦礫を灰にしているそうだ。
勇者様とユイ様は各地の治療院をまわり忙しそう。
1つ驚いたのは、勇者様の名は侍女達はクロだと思っていた。聞けば姓がクロセだからクロらしい。彼の名前はレンで、聖女様だけにしか名前を呼ばせないのだという。
シュンヤ様はあっちも大概だな、と笑っていた。
私とシュンヤ様は変わらず聖域にいる。
シュンヤ様は魔王と和解の褒賞として聖域に家をいただいた。
すぐに私と一緒に暮らそうとして、皆に止められた。まだ早いという話になり、18歳になったら暮らすことになった。
彼らはニホンに戻れない。
でも彼らはどこにいても生きるしかない、と明るく笑った。
「ユーリと一緒ならどこでもいい」彼は言った。
私も彼となら。
私は思い出す時に痛みが少なくなった、家族の顔を思い浮かべる。
ーーシュンヤ様とも家族になれますように
私は願える幸せをまた噛みしめ、今日を始める。
終




