ようやく
聖女様の後に続いて大広間に行くと、4回目も同じ光景だった。
神官長も穏やかな顔で立っている。
ーー 私を殺せと命じたとは思えないくらい、優しそうな方なのに…
聖女様が振り向いて、賢者様を小さく指差す。
私は大広間に入った時から、意識して賢者様を視界に入れていなかった。
今、こんなにドキドキしているのに、彼の姿を見たらきっと心臓がビックリする。
私は俯いたまま、彼の前に立つ。
1回目は怒られた。
2回目は名前を呼ばれた。
3回目は目をまっすぐ見てくれた
彼は私の事を以前から知っていて好意をもっている、と聖女様は教えてくれた。
あの最後の日の彼を見なかったら信じられなかっただろう。
私は3回分しか知らない。
でも、伝えよう。今日が最後かもしれないからではなくて、もっと彼を知りたいから。
私は気持ちを落ち着かせるようにフゥと息を吐く。意を決して顔を上げると、賢者様の強い視線とぶつかった。
お互い目をそらさず、しばらく見つめ合ってしまった。
「ブッ」
聖女様が吹き出した。
大神官様が勇者様に言葉をかけている最中だったため、聖女様は慌てて咳き込むフリをして「失礼いたしました」と顔を真っ赤にして肩を震わせる。
ーー聖女様に遊ばれているような気がするけれど、本当に想いを伝えても大丈夫なのでしょうか…
少し不安になりながらも儀式に意識を戻すと、大神官様の言葉に続いて勇者様が、必ず成し遂げてみせます、と力強く答えていた。
皆、真剣な表情だ。皆にとっては最初だから当然だ。私は気まずい思いを抱えながら儀式の進行を眺めていた。
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最後に、と神官様がハチマキを配り、出立者の頭に巻くように、と告げた。
私は文字を縫い付けた部分を隠すように持つ。
いつもは、彼に奪われていた。
今回は奪われないように、握りしめる。
「わ、私に巻かせてもらえますか?」
目を合わせられず、俯いてしまう。
「お願いします。」
彼の穏やかな声は初めて聞いた。声につられて顔を上げる。彼は少し目を伏せていたが、いつもの不機嫌そうなものとは違った。
その声音に勇気をもらい、彼の背後にまわる。
ふと、気がついた。
ーー巻いたら文字が見えないのでは?
私はどうしようかと動きを止める。
すると、斜め前にいる聖女様が振り向き、小さく頷いた。
ーーこれでいいってこと?
私は訝しく思いながらも、ハチマキを伸ばす。
他の皆は、巻き始めていて、ご武運を、とひと声かけている。
私も彼の額にハチマキを合わせる。
彼が深く息を吸った。
ーー緊張してる…これから魔王と戦うのだから当然よね。
私は手早くハチマキを縛る。思いのほか柔らかい髪の感触に、一瞬撫でるように触れてしまい、 彼がピクリと動いた。
ーーいけない。余計な事したらまた叱られてしまう
私は彼から一歩下がり、戻ろうとして、言葉をかけていない事を思い出す。
言葉は決めている。先程の聖女様のやり取りをした時に決めた。
私は、彼の前に立ち、視線を合わせる。
彼は少し上目使いに私を見る。
「あの…シュンヤ…くん、いってらっしゃい。早く帰ってきてね」
母が父によく言っていた言葉だ。彼は友人ではなく、特別な人だから、特別な言葉をかけたかった。
あと、彼をシュンヤ君、と呼んでみたかった。
返事がなく、彼を見ると固まって動かない。
ーーせ、聖女様っ…話が違いませんか?怒らせてしまったようですが!
ジッと様子を見ていると、彼の両手がピクリと動き、 前に伸ばしかけて、そこで固まった。
「ブフゥ!!」
吹き出す声は周囲から。ハッと周りを見れば皆が私と賢者様に注目していた。
「激甘すぎ!見てられない!!」
聖女様が叫び、笑いだす。それに釣られるように神官様や勇者様たちが声を上げて笑う。
「そこはガバッといけよ!!」と勇者様。
「そういう事は戻ってからにしなさい」と神官様達も肩を震わせていた。
赤面した私達を皆がはやし立て、和やかな雰囲気で彼らは出立した。




