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ようやく


聖女様の後に続いて大広間に行くと、4回目も同じ光景だった。


神官長も穏やかな顔で立っている。


ーー 私を殺せと命じたとは思えないくらい、優しそうな方なのに…



聖女様が振り向いて、賢者様を小さく指差す。



私は大広間に入った時から、意識して賢者様を視界に入れていなかった。

今、こんなにドキドキしているのに、彼の姿を見たらきっと心臓がビックリする。




私は俯いたまま、彼の前に立つ。





1回目は怒られた。

2回目は名前を呼ばれた。

3回目は目をまっすぐ見てくれた



彼は私の事を以前から知っていて好意をもっている、と聖女様は教えてくれた。

あの最後の日の彼を見なかったら信じられなかっただろう。



私は3回分しか知らない。

でも、伝えよう。今日が最後かもしれないからではなくて、もっと彼を知りたいから。




私は気持ちを落ち着かせるようにフゥと息を吐く。意を決して顔を上げると、賢者様の強い視線とぶつかった。



お互い目をそらさず、しばらく見つめ合ってしまった。


「ブッ」


聖女様が吹き出した。


大神官様が勇者様に言葉をかけている最中だったため、聖女様は慌てて咳き込むフリをして「失礼いたしました」と顔を真っ赤にして肩を震わせる。



ーー聖女様に遊ばれているような気がするけれど、本当に想いを伝えても大丈夫なのでしょうか…



少し不安になりながらも儀式に意識を戻すと、大神官様の言葉に続いて勇者様が、必ず成し遂げてみせます、と力強く答えていた。



皆、真剣な表情だ。皆にとっては最初だから当然だ。私は気まずい思いを抱えながら儀式の進行を眺めていた。







****


最後に、と神官様がハチマキを配り、出立者の頭に巻くように、と告げた。


私は文字を縫い付けた部分を隠すように持つ。


いつもは、彼に奪われていた。


今回は奪われないように、握りしめる。


「わ、私に巻かせてもらえますか?」

目を合わせられず、俯いてしまう。



「お願いします。」


彼の穏やかな声は初めて聞いた。声につられて顔を上げる。彼は少し目を伏せていたが、いつもの不機嫌そうなものとは違った。



その声音に勇気をもらい、彼の背後にまわる。


ふと、気がついた。


ーー巻いたら文字が見えないのでは?


私はどうしようかと動きを止める。


すると、斜め前にいる聖女様が振り向き、小さく頷いた。


ーーこれでいいってこと?



私は訝しく思いながらも、ハチマキを伸ばす。


他の皆は、巻き始めていて、ご武運を、とひと声かけている。



私も彼の額にハチマキを合わせる。


彼が深く息を吸った。


ーー緊張してる…これから魔王と戦うのだから当然よね。


私は手早くハチマキを縛る。思いのほか柔らかい髪の感触に、一瞬撫でるように触れてしまい、 彼がピクリと動いた。



ーーいけない。余計な事したらまた叱られてしまう


私は彼から一歩下がり、戻ろうとして、言葉をかけていない事を思い出す。



言葉は決めている。先程の聖女様のやり取りをした時に決めた。




私は、彼の前に立ち、視線を合わせる。


彼は少し上目使いに私を見る。




「あの…シュンヤ…くん、いってらっしゃい。早く帰ってきてね」




母が父によく言っていた言葉だ。彼は友人ではなく、特別な人だから、特別な言葉をかけたかった。

あと、彼をシュンヤ君、と呼んでみたかった。




返事がなく、彼を見ると固まって動かない。



ーーせ、聖女様っ…話が違いませんか?怒らせてしまったようですが!



ジッと様子を見ていると、彼の両手がピクリと動き、 前に伸ばしかけて、そこで固まった。



「ブフゥ!!」


吹き出す声は周囲から。ハッと周りを見れば皆が私と賢者様に注目していた。



「激甘すぎ!見てられない!!」

聖女様が叫び、笑いだす。それに釣られるように神官様や勇者様たちが声を上げて笑う。


「そこはガバッといけよ!!」と勇者様。


「そういう事は戻ってからにしなさい」と神官様達も肩を震わせていた。



赤面した私達を皆がはやし立て、和やかな雰囲気で彼らは出立した。




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