22 魅了の血
次回間が少し開きます
今日は昨日先触れを出したお屋敷へやってきた。エミリヤの腕でブレスレットが揺れる。
「ワイムール子爵御令嬢、主人から話は聞いております。どうぞ屋敷にお入りください」
難なく門番に通され執事に案内されると応接室に通された。
「では、主を呼んで参りますのでお待ちください」
執事が部屋を出て行こうとした時、扉が勢いよく開いた。
「エミリヤ!!!久しぶりでは無いか!!会いたかったぞっっ!!!」
「旦那様、私めが呼びに行くまで待つ事は出来ませんでしたか?それと、婚約者でも無い男性が呼び捨てになさってはなりませんよ」
「良いでは無いかっ!!!お前が来るのが遅すぎるのだ、待ちきれるかっ!!まだ婚約しているだけであろう?婚姻結ばぬ限りは呼び捨てにする!!ーーふんっ、どうせ公の場所で私に注意出来るものは兄しかおるまい。なぁ?エミリヤ」
そう彼は王の弟でセルリート・アンフィロード。彼を公の場所で注意出来るものは国王以外はいない。
彼との繋がりは私が10歳の頃色んな貴族のおじ様達に、ちょっとしたアドバイスをしている事を知ったセルリートが私を公爵邸に呼んだ事から始まる。
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ただイケオジ達と交流を持ちたいが為に、お茶会抜け出して家の主や執事長にアドバイスしていたらこんな所に呼び出されるとは思いもしなかった。背中に冷や汗が流れる。
豪華な作りの応接室に通され、待つ事数分私を呼び出した張本人が現れた。
「キミがエミリヤ・ワイムール子爵令嬢か」
王弟の登場に慌てて立ち上がるもののドストライクのイケオジに立ち尽くしてしまう。セルリート・アンフィロード、王弟でアッシュゴールドの髪で青い瞳の素敵な年の重ね方をした優しい雰囲気のおじ様である。招待状を貰って事前に調べた情報では、御年52歳で国王様より10歳年下である。政略結婚で子を成した後、夫人は産後の肥立ちが悪く2人目を産んだ後亡くなっている。
その後政略結婚を周りに何度も勧められるが、王家に野心があると思われたくないセルリートは再婚していない。
「ふぁぁ・・・・・・イケオジ・・・眼福・・・」
返事をする前に余りにも素敵なおじさまだったので、心の声がダダ漏れている事に気付いていなかった。
「やだ、格好良過ぎるっ!抱き締められたいっ!ふぁぁっ!首も素敵っ首の匂い嗅ぎたいっ!その声で耳元に囁いて貰いたいっ!あわわわわ・・・格好良過ぎて死ねる好き過ぎるっっっっ・・・」
「キミの様な可憐なレディにそこまで好いてもらえるとは、この歳になって初めての事で面映いな・・・」
イケオジの照れる姿はご飯何杯でも食べられるなぁと、エミリヤは公爵の顔を潤んだ瞳で見つめていた。
「変わった感性の持ち主という噂が本当だとは思いませんでしたな」
「?・・・え・・・」
ここで自分の心の声がダダ漏れている事にやっと気がつき全身真っ赤に染め上げた。
「もっ申し訳ございませんっっっ!!!後生ですから今のは全部聞かなかった事にしてくださいませっっっ!!!お願いしますっっっ!!!」
「いや、ならん。政略の絡まぬ恋愛等した事なかったのでな、当分忘れられそうには無いな。今の事誰にも知られたく無ければこれから月に2度はここに参れ。そして私の茶の相手をせよ。良いな?」
「ふぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!月に2回もご尊顔拝見できるんですか!?なんたるご褒美っっっ!!イケオジが優し過ぎて死ねる」
まだこの頃前世の記憶が強く、相手が分からない単語をや令嬢らしからぬ発言をたびたびしていた。一二も二にもイケオジ最優先にしていた黒歴史の時期とも言える。
セルリートはエミリヤの側まで来ると屈み、正面からエミリヤを抱きしめた。いきなりの事に落ち着き始めていた全身の熱は再び沸騰しどうして良いか分からずわたわたし始めると耳元で囁かれた。
「ーー先程お前が望んだのであろう?」
「ふぁい・・・」
魅了にかかったかの様にセルリートの操り人形状態となってしまった。何も考える事が出来ずふわふわと夢心地で全てを捧げたいほどに。
「私の首の匂いを嗅いでも良いのだぞ?」
「ふぁい・・・」
「ここまで気を許したのだから名前で呼んでも良いな?」
「ふぁい・・・」
落ち着いた安心する香りがする。幸せな気分に浸っていると抱えられセルリートの座った膝の上に座らせられた。
「良いのか?エミリヤ、嫁入り前の娘が私の様な悪い男と部屋に閉じこもってはよからぬ噂を呼ぶやも知れんぞ?ん?」
とろんとした目のエミリヤの頬を撫でながらセルリートは問う。
「ふぁい・・・すきにしてくあさい・・・」
「・・・困ったなここまで掛かる者がおるとは思っても見なかったぞ・・・」
「そうですな、余程旦那様の事を純粋に想ってくださっているのでしょうな。しかし、本当に困りましたな・・・」
セルリートの胸の中に収まっている泥酔した様にでろでろのエミリヤを、セルリートは猫の様に頭や背中を撫でながらたまに耳やエミリヤの指に自身の指を絡ませている。
エミリヤは自分で歩く事も出来ない状態でセルリートがエミリヤを馬車に乗せ子爵家へ送ってくれた。しかし、エミリヤは途中から記憶があやふやで覚えていない。美味しい所を記憶していない自分に絶望し枕を濡らした。
後日セルリートから詫び状と紅茶が5缶届いた。
手紙には『毎日この紅茶を飲み続ける事』と『次にお会いした際に伝えねばならん事がある』という事が書かれてあった。よく分からないがそれから毎日その紅茶を飲み続け、月に2回の訪問の日が訪れアンフィロード公爵邸に赴いた。
通された応接室では既にセルリートが待っていた。
「・・・相変わらずアンフィロード大公閣下素敵過ぎる・・・」
あった瞬間に再びふわふわした気持ちになり、ふらふらとセルリートの元へと足が向かう。セルリートの足にすがる様に蹲る。
「あの薬でもダメでしたか・・・」
「その様だな・・・爺、あれを」
「かしこまりました」
執事長は豪華な作りの宝石箱をセルリートに蓋を開け差し出した。中から青い石の宝石が付いた細い3連のブレスレットを取り出しエミリヤの手首に装着した。
「・・・ん・・・ふぁっっ!?なんて事!!!イケオジの御御足に下賤な私の手で触れてしまった!!!申し訳ございませんっっっっ!!!お許しくださいっっっ!!!」
「まさか宝石でも解けぬとはっっ!!」
「・・・爺、これは標準のエミリヤの様だぞ?」
「まさか、その様な・・・」
『さっきの感触忘れないように今のうちに脳に刻まないと』とぶつぶつ言っているエミリヤを、執事長はなんとも言えない顔で見ていた。目を閉じて脳内に刻み込んでいるらしいエミリヤをセルリートは面白いと観察している。異様な空間と化していた。
「魅了ですか!?私が!?」
ソファーに座り落ち着いたところでセルリートに話を切り出された。
「そうだ。王族の血筋は魅了の血が流れていて普段は封印されておるのだ。緊急時のみ承認されると封印が解かれ国の統率力を図るのだ」
きっと戦になった場合の事を言っているのが言わずとも分かり返事に困る。
「そんな重要な事私に言っても大丈夫なんですか?」
「これは王家の秘密だ1人にでも口外するような事があれば・・・」
ごくりと唾を飲み込む。
「エミリヤの事を心底憎んでしまうやもしれんな」
「そ、それだけですか?」
「エミリヤは私に憎まれるのは平気か?」
「それは無理!!!」
「では十分な罰であろう?」
「優しいイケオジが意地悪イケオジに変わってしまった・・・」
「嫌いか?」
「どっちも大好物です」
エミリヤは間髪いれずに真顔で返す。
「はっはっは!それは良い事を聞いた!!
その腕にあるブレスレットは私が気に入ったエミリヤへの贈り物だ。私に会う時は必ず付けるのだ。決して忘れてはならんぞ?今日はそれを伝えたかったからだ。これで間違いも起きんだろう」
立って挨拶を交わすとセルリートはエミリヤの額に口付けた。真っ赤に染まったエミリヤは逃げるように帰って行った。
「旦那様、余りご自身に好意を持っている御令嬢を揶揄うのはおやめになった方が宜しいかと思われます」
「だがなぁ・・・あんな可愛い娘が私に好意を寄せているのだぞ?手折らぬ代わりに愛でる位良いであろう?女ひでりの日々を送っておるのだ、たまには潤いを欲して何が悪い」
「それでしたら高級娼婦を手配いたしますが?」
「金銭の関係など、とうの昔に飽きたわ。私が欲しいのは恋焦がれる様な恋愛関係だ。死ぬまでに一度はしてみたかったのだ。エミリヤを手折らぬから爺、目を潰れ」
「でしたら年齢に見合う女性を探して参りましょう」
「王弟である今から私を損得感情なしに思ってくれる様な女性など探せぬぞ?私の王家で劣等と蔑まれ続けた程に微弱な魅了に、完全に掛かった者はエミリヤしかおらんぞ?あれ程純粋に私の事を想う者を爺は探せると申すのか?」
「・・・本当に手をお出しになさいませぬか?」
「あぁ無論だ、二言は無い」
「承知致しました。しかし、あの方の婚約の話などに影響を出しません様に邸内でのみになさって下さいませ。あの方はまだ10歳ですから、それを頭の隅に何時も置いて下さいませ。それから無理強い等なさいましたら王家に報告致しますので、お忘れなき様にお願い致します」
「分かっておるわ」
聞き飽きたとばかりにセルリートはソファーに身を沈めた。
本人の知らぬ所で話は勝手に進み、婚約するまでの数年間月2回の訪問は続いた。




