23 嫉妬
セルリートに促され隣に座ると侍女がお茶と菓子を出してくれた後は壁に控えた。婚約してから勉強ややる事が詰まっておりお茶の相手に来れなかったが、セルリートは相変わらず朗らかさの中に王族のオーラと人を惹きつける魅力を持っている。
「手紙を読んだが、困った婚約者であるのだな。私の可愛いエミリヤを困らせるとは灸を据えてやらねばなるまい」
セルリートは距離を詰めるのが早く数回会ってすぐに『私の可愛いエミリヤ』と邸内で呼ぶ様になった。婚約者・・・というよりギルベルトと恋仲になったので出来れば呼び方を変えて欲しいとお願いしたい。子爵令嬢と王弟では身分が違いすぎて伝えることが出来ずにいる。
「いっいえっ!!それはどうでも良くは無いですが今回は良いんですっ!!それよりもパートナーお願いって出来ませんか?」
「パートナーが婚約者で無い相手であっても他の者がとやかく言われぬ相手としては、私を選べば確かに問題ないであろう。しっかり考えたな、エミリヤ。将来有望な男と聞いておったが奴にお前は勿体ないと思うのだが?私が他の婚約者を探してやるぞ?」
「いいですっ!!間に合ってますっっ!!人間間違いの一つや二つあるものです、公爵夫人はそれくらい大目に見られないとやれないですよ!!」
「ーーーー寛容な様に聞こえるが、愛していないのであろう?」
顎を取られ全てを見透かす様な瞳でセルリートに顔を覗き込まれる。
「せっ政略結婚なんてそんなものでは!?」
「しかし、この縁談はイグリール公爵からもたらされていたであろう?公爵家の嫁に子爵家から選ぶなど、いくら嫡男が問題児としても中々無理があるぞ。しかも問題のある男であってもその権力欲しさに狙っておった令嬢がいたのにだ」
流石王弟といったところか、少しの情報をどんどん繋げて真実を導き出すのが早い。
「高位の爵位の者がかなり下の爵位の者を嫁に貰うなど、恋愛結婚しかありえん。しかしエミリヤは婚約者を愛していないし、相手も同じだ」
「気にし過ぎでは?」
「ーーーエミリヤ、私と結婚せぬか?」
「ふぁっっ!?・・・何を仰ってるんですか!!」
「ーーーそんなに公爵が好きか?」
「なっなんでそんな話に・・・」
「私は有力貴族の女性は娶る気が無かったがエミリヤならば問題なかろう。それに気心知れた中では無いか。エミリヤが私に好意を向けるのは一時の気の迷いかと思っていたが、イグリール公爵を好きになったのなら歳が離れていようが気にする必要は無いな」
確実にバレてしまっているので開き直る事にした。
「お断り致します。私はイグリール公爵様の事が好きなので!!」
「はっはっは、余程好いているのだな」
「相変わらず意地悪なんですね!」
「エミリヤにしかせぬからな?まぁ冗談と言うわけでも無いのだがな。エミリヤが良ければ愛人に立候補するぞ?」
セルリートはエミリヤの髪の毛を掬うと口付けし流し目を向ける。
「愛人が大公とか私、罰せられそうなんですけど?」
「私が許すのだから問題ない。イグリール公爵に飽きたら考えてくれれば良い。彼奴と息子の事はもう聞いているのだろう?一般の貴族令嬢よりもエミリヤの様な価値観を持った女性でないと、イグリール公爵に安らげる場所を提供できまい」
セルリートは遠くの記憶を掘り起こすように窓の外の庭を見つめる。
「公爵との関係を分かった上で受け入れてくださる事、誠に感謝いたします」
「数年で淑女になった様だな。しかし、こうやって私と密会しておるのは彼奴は知っておるのか?」
「え?いえ、知らないと思いますけど?」
私の髪の毛に指を通して弄ぶ。
「良いのか?彼奴は執着の塊の様な男だと思っておったが、嫉妬されぬのか?」
「嫉妬?どうなんでしょうか?今度聞いてみます。」
「彼奴が振り回されるのが目に浮かぶ。実に愉快だ!パートナーの件は引き受けよう。当日に馬車で迎えに行く」
「ありがとうございます!!」
「久しぶりに楽しめそうな事に加えてもらったのだからな。私の方がエミリヤに感謝するよ」
楽しそうに笑うと私の頭に口付けを落とした。セルリートは本当に昔からいい性格していると思う。まぁ楽しそうだからいいか。
無事にパートナーを確保する事に成功した私は意気揚々と家に帰ったのだが、玄関を開けると侍女が掴みかかる勢いで血相を変えて来た。
「どうしたの!?何かあったの!?」
今まで見た事の無かった侍女の様子に悪い事が起こったのかと不安に駆られる。
「おっお嬢様っ・・・お嬢様公爵様に何か無礼を働いたのですか!?」
「え?多分まだ何も・・・?」
「気付かない内にやらかした系でございますね・・・。分かりました、お嬢様の荷物はまとめてあります。裏の戸からお逃げ下さい。まだ公爵様はお嬢様が帰っている事に気づいていません。隣国に逃げ込めば恐らく大丈夫でしょう・・・お急ぎくださいっ」
何やら1人納得した様な侍女に急かされ裏の戸に急き立てる。侍女は道具入れの中に隠していた荷物を持ってきて渡してきた。よく分からないけれど、どうやらこの国から出なければならないらしい。侍女はギルベルトがどうのこうの言っていた様だけど詳細はよくわからないので、馬車に乗ってから聞けば良いかと思い裏の戸を開けた。
「ーーこんな遅くにどこに出かけるのだろうか?」
「ひぃっっっっっっっっっっ!!!!」
「え?ギ、公爵様?」
侍女は気を失った。
「彼女は心の臓が弱いのかも知れんな・・・。医者に見せねばな、スチュアート」
「はい」
「彼女を医者に」
「承知しました」
ギルベルトに呼ばれ、どこからかいきなり現れたスチュアートは侍女を抱えると去って行った。一体なんだったんだろう?それより何故うちに・・・??
「エミリヤ・・・。その荷物は私が持つから貸しなさい」
なんだか笑顔のギルベルトだけど目の奥が、全く笑っていない気がするのは気のせいなのか分からない。
「ダメですよ!!公爵様に持たせているのがお父様にでも見られたら、叱られますから!!」
「問題ない。先程子爵とは十分に話をしたから、見られてもエミリヤが叱られる事はない」
「?何を話し合ったんあですか??」
「今晩君の部屋に泊まるから、エミリヤの部屋に早く案内してくれないか?」
「ふぇっ!?わ、私の部屋ですか!?」
「あぁ。君の家にだから他所の貴族も余計な詮索はせんだろう」
「えっあ、そのっでもっ!!」
いきなり初夜でもないのに2人で夜を過ごす事に心の準備が追いつかない。耳まで真っ赤に染め上げたエミリヤの顎を持ち上げ目を合わせる。やはり目の奥が笑ってない様に見えるギルベルトが耳元に顔を寄せてきた。
「ーー昔の男との逢瀬は楽しかったか?」
かなり低い声で囁かれ、ゾクゾクして思わず身体が震えた。




