21 平行線は交わる事なく離れていく
向こうで無かった王妃のパーティーの話に入ります。
今週末は王妃様の誕生日祝いのパーティーがある。
昨日のヴィルヘルムの事を思うと気が滅入ってくる。前世では男性と関わり合いを持たなかった為、暴力でどうにかしようという人に会ったことが一切なかった。小学校もクラスメイトは乱暴な児童はいなかったのでヴィルヘルムの事を思い出すだけで手に汗が滲む。そして、今彼を目に前にするとギルベルトに助けられた舞踏会の夜の恐怖が蘇り上手く喋られる自信がない。
そして今回は婚約者なのでヴィルヘルムにエスコートして貰わなければならない。
「(ーーーどうしよう・・・。ちゃんと出来るかな・・・)」
家庭教師が来るまで時間があったので香水研究部屋に行こうと思ったけれど足が重い。先の心配に思考を囚われた私は自室のベッド端に座り中々腰を上げる事ができない。どんよりと気持ちが沈み込んだまま自分の指に嵌められたギルベルトが買ってくれた指輪を撫でた。
「(ーーこんな事を思ってはダメだけれど、ギルベルト様をパートナーとして出席したかったな・・・)」
気持ちは晴れることはなく、勉強にも身が入らず先生方に心配されてしまう。気持ちをなんとか切り替えないとと焦れば焦るほど上手くいかなかった。
「お嬢様、気分転換に明日は勉強をお休みされて外出でもされますか?」
「・・・そうね、明日は出掛けて来ようかしら」
侍女にも心配されてしまっては明日の一日で気持ちを持ち直さなくてはならないと思い、侍女の提案に乗る事にした。
朝から私の心を写した様な雨の降りそうな曇り空。
出掛ける支度が終わって家から出る時に、仕立て屋のリックが訪ねてきた。
「おはようリック。今日はどうしたの?」
「え?この間公爵様が選ばれたお嬢・・・様のドレス採寸合わせて出来上がったので持って参りました」
普段通りに話そうになったが執事や侍女が目に入って気を引き締めた様だ。表情も外面モードに切り替わったのがおかしくて吹き出しそうになるのを堪える。
「まぁっ!!楽しみだわっ!!試着してみたいけど今から街をお出掛けするの。帰ってから試着するわね?ーーーそうだわ、リックこのまま戻るの?それとも他の依頼が?」
「え?もう戻りますけど・・・?」
「良かったわ!!工房の途中まで一緒に行きましょう?」
リックと侍女を連れて街に馬車で出かけた。街に着くまでは雨は降らなかったが、着いてから小雨が降り始めた。街中で馬車は速度を落とす。ゆっくり動く街並みを眺めていたら知っている顔を見つけた。向かい席に座っていた侍女も見つけたらしい。
「ーーおっお嬢様っっ!!今日はどこに行かれてみますか??」
不自然な侍女が何を見つけたのか侍女の隣に座っていたリックが、私達が少し前まで見ていた窓の外を見た。
少し離れた場所に貴族と思われる男性と貴族と思われる女性がいた。両方とも知り合いだ。
「・・・もしかして、あれが婚約者か?」
「ち、違いますわよねっっ??お嬢様!!」
「ーーーそうよ。あの方がヴィルヘルム・ゼスター様でイグリール公爵の御嫡男よ」
「お嬢様っっっっ!!!」
男は女を傘に同じ入れ、女は男の体にべったりとくっ付いている。この様子ではあっという間に醜聞が広がる事だろう。ここは公爵家の品位を落とさない様に注意しに行くべきなのだろうか?別にヴィルヘルムが他の女を好きだろうが全く構わないけど、あの伯爵令嬢はダメだ。私がギルベルトの側に居られなくなってしまう・・・。
でも女性を毛嫌いしていたヴィルヘルムが何故彼女にくっ付かれているのを許しているのだろう?取り敢えず今回は断れない理由があったと思う事にした。
「きっとお仕事なんじゃなのかしら?」
「婚約者でない御令嬢の不用意な接触をする事が仕事ですかね・・・」
「リック!口を慎みなさい」
「本当に良いんですか?お嬢・・・」
「2人共今回の事は誰にも言わないで頂戴ね」
「・・・俺達が言わなくてもすぐ広まっちまうだろ」
「私達が言ったら実際に起こった事になってしまうけど、第三者の話なら噂の領域を出ませんから」
「お嬢様が宜しいのでしたら私は何も申しませんけど・・・」
微妙な空気のまま何か言いたそうなリックを仕立て屋の前で降ろし、エミリヤと侍女も同じ場所で降りそこでリックとは別れた。
気分転換で外出したにも関わらず、益々気が滅入って何を見ても楽しいと思えないまま無駄な1日を過ごしてしまう事になった。
この時何も言わなかったのがいけなかったのか、翌日ヴィルヘルムから手紙が届き更に憂鬱にさせた。
『
申し訳ないが他の御令嬢をエスコートする事になったから、
今週末のパーティーは他のパートナーを連れて行ってくれ。
』
謝罪する気の無いエスコートを断る内容・・・あからさま過ぎて笑えてくるわ。婚約して初めてのパーティーに婚約者と一緒で無い事は十分醜聞となる。遠方にいて来れないならばいざ知れず、他の御令嬢をエスコートするなどとのたまってきた。
ヴィルヘルムの事は嫌いでは無いけど好きでも無かったけれど、私を馬乗りにした事や今回の手紙で嫌いよりに大きく舵をきった。けれど結婚しても公でしか関わらない存在だと思えば気が楽になる。他の貴族の女性は私の様に上手くはいかない。相手を嫌いでも後継ぎを親族にせっつかれ子を成さねば離縁される。私の感覚では拷問だと思ってしまう。
しかし、今から新しいパートナーを探すのはかなり厳しい。ギルベルトに相談することも悩んだけれど、どちらにしても婚約者では無い男性をパートナーにすれば両家の醜聞となる事は免れない。御嫡男ともあろうものが何故そこに思い至れなかったのかが気になるところではある。もしかして、本当に家の品位を落としてでも私と婚約破棄したいのかも知れないが、それならそれで公爵を説得するべきである。ヴィルヘルムがこんなにも浅慮な人間だとは思っていなかった私は落胆する。公爵家の品位を落とさない為にもどうにかしないといけない。
「(私が違うパートナーで問題ない相手を探すって、かなりの難題じゃない!?公爵家より上って王家の血を引いている王族公爵か王族、後は他国の王族・・・。うーん・・・商売上いない訳じゃないんだけど、急に頼んで了承してくれるかしら?ーー考えていてもしょうがないわね!!先触れ出して明日にでも伺ってみましょう!!)」
エミリヤはギルベルトとの未来を守る為に動く事にした。




