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朦朧としているリコを早く落ち着かせたいから、財布から札を抜き取り乱暴に手を引いて降りた。


エレベーターが降りてくる時間さえ煩わしいほど、なぜか焦っていたんだ。


身を焦がすほどの焦燥感の正体は、きっと寂しさのせいだろう。



あたりをぐるりと見渡す。いつもと変わらない景色が広がる。


なのに…拭えない違和感は増していくばかり。リコの発言の意味がわからないからなのか、それとも未知なる不安のせいなのかは…自分でさえ見えない。




但し、あながちそのカンも間違いではないことを知らされる。



『…素人にしてはいいカンしてやがる』


『さすがアイツが選んだ、だけはありますね』


立ち並ぶマンションが作り上げるわずかばかりの死角。そこに並ぶ二つの影。


一人は屈強な、もう一人は細身のシルエットが、外壁に映り込む。



開いたエレベーターに飛び乗って、すぐに『閉』のボタンを押す。


ぺたりと床に座り込んだ彼女の手は離さないけれど、不安は募るばかりで、消せやしなかった。


…ひどい汗だ。ぬるりと手にまとわりつく嫌な感じが、いっそう不快感を強調する。



音もなく開くエレベーター。迷うことなく、一直線にドアの前に向かう。鍵を差し込んで捻る。


毎日繰り返している当たり前の行動…のはずが結果は違っていた。



開けたはずの扉が開かない。と、いうことは…鍵が開いていたということか?


そんなはずはない。毎日の習慣。鍵をかけ忘れるなんてあるはずがない。


一気に緊張感が高まる。


だけど…手を離す方が不安で。こんな時まで、感情に左右される自分が少し情けなくなる。


もう一度鍵を捻り、ロックをはずす。



「…リコ、俺から離れないで」


どうせ聞こえていないだろうが、一声かけて気持ちを奮い立たせた。



ゆっくりとドアノブに手をかける。


悪い想像が脳裏を横切る。


もう一度手を握りしめ、静かにドアを開いた。



玄関は変わりのないように見える。靴の位置、数、すべて出ていったそのままだと思われる。


なら…なぜ鍵は?


慎重に歩を進めていくと、荒らされた室内が目に入る。



内側に散らばるガラスの破片。床に散乱するCDの群れ。吹き込む風に、カーテンがただ揺れていた。

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