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細かく震える指先を、開いて握りしめ、自分のものか確かめるようにもう一度伸ばす。
あと数ミリ。見えない壁に阻まれる。まるで結界。間違いなく作り出しているのは自分の心。
わかっているのに届かない距離。俺は結局声をかけた。
「…タイムリミットだ。出よう」
その声に促されるように立ち上がりはしたものの、平衡感覚を失ったようにフラフラと歩く。海中を泳ぐみたいに。
だけど、ここは陸地。しっかりと地面もある。
危うい。だけど…怖い。
結局、臆病さと守りたい気持ちの戦争は…守りたい気持ちが勝って。足取りのおぼつかないリコの左手を握りしめ、手を引いてエレベーターのボタンを押した。
この先のことを考えると、見えない不安に押し潰されそうだ。手はつながっていても、心はつながっていない。それが一番の不安材料で。リコの言う『失敗』とは一体どういうトラブルを引き連れてくるのだろう?
グングンとめまぐるしく続く数字のカウントダウンを見つめながら、漠然とそう考えていた。
スッと音もせずに開く地上への扉。
虚ろなリコを促すようにして一歩前へ踏み出して。
しっかりと握りしめた手だけが、二人のバランスを保っていたに違いない。
エレベーターホールからエントランスに進むと、少し眠そうにして友人が手を上げる。俺もそれに手だけで返し、唇だけで「またな」と伝えた。
すぐさま目の前に停まっていたタクシーに乗り込み、自宅の住所を告げた。
ジロジロとなめ回すように、こちらを見つめる視線に苛立つ。
お前の下世話な想像なんて一つも正解じゃねえんだ
…と、たとえ怒鳴ったところで何も変わりはしない。ただの八つ当たりにしかならないのが目に見えて。それは自分の余裕の無さを痛感させる。
…ひどく疲れている。日差しが目に痛いぐらい。暖かな車内は、快適さより不快感を上げる。
バックミラー越しの視線を外すようにして、残った左手で頬杖をつき、窓を眺めた。
ガラス越しに反射して映るリコの表情は未だ失われたまま。
出口のない深い森に迷い込んだみたいに、一人もがいていた。
リコ…答えが欲しいよ。傷つくのなんてかまわないから。だから…一人で抱え込むなよ。
伝えたい思いが、浮かんでは言葉にならないまま、霧散していく。
ため息を一つついて、もう一度右手に力を込めた。




