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…失敗した…。
その力なく吐き出された小さな呟きが、その場の空気を支配した。
リコにとっての失敗。
それはきっと、いや確実に二人には良くない知らせ。
音を立てるのはもちろん、息をすることさえためらわれる重い沈黙。冷たい汗が背中をつたう。
一人爪を噛むリコ。悔しさなのか、クールなポーカーフェイスを崩し、渋面をつくる。
その初めて見る表情が、事態をより深刻化していく。
鬼気迫る表情に声すらかけられず、ただ心配でずっと見つめていた。
どれほどの時間が流れたのだろう。結局、沈黙を破ったのはチェックアウトの時間を知らせるコールだった。
『起きてるか?』
「…ああ」
『どうした?昨日は頑張りすぎたのか?』
下世話な友人の声が余計に神経を尖らせる。
…いや、悪気はないんだ。ただ何も知らないだけで。
「想像に任せるよ」
受話器をフックにかけ、振り返っても、何も変わらない形でリコはベッドの端に座ったままで動かない。
「リコ…?」
不安げな問いかけにも答えるはずもなく。思い詰めた表情を一つも変えずに、ただ脱け殻のようにそこにいる。
…一つ大きなため息をつく。きっと今のリコはそれすら気づかないだろう。
昨日、あんなにわかりあえたと思ったのは何かの幻だったのか?
またリコは一人で全てを抱えている。
チェックアウトまであと5分。刻一刻と腕時計が時を刻んでいく。
このままではお節介な友人が乗り込んでくるのも時間の問題だろう。
肩に触れようとするも、手を振り払われた記憶が邪魔をする。
怯えるな。自分の心に言い聞かせる。
手を伸ばせば…届くはずだろ?
そう、現実に手を伸ばせば、確実に触れられる距離。なのに…。
何度も何度も追いかけて、やっと手に入れたと思っても、腕の中をすり抜けていく。
人と向き合うのがこんなにも怖いって気付いてしまった。人を好きになるのがこんなにも怖いって気付いてしまったんだ。
だめだ。溢れてくるのは思い出の洪水。フラッシュバック。婚約者に捨てられた夜。リコがいなくなった部屋。
心の震えは頭では止まらない。いくら脳でストップをかけても、感情の波は止めることができない。
どんどんと冷えていく指先。この冷たい手で、触れてしまっていいものか、じっと考えていた。
ちらりと時計を見る。残りは1分。
折れそうな心をもう一度奮い立たせる。
―届け―




