-68-
ブゥンとディスプレイが唸り、開いた画面には、パスワードとログイン認証。
ただじゃ渡せないということか。
俺はハッカーではないし、ワームソフトもクラックソフトも、持ち合わせてはいない。ただ…思考レベルを読み取れば…そこまで難しいものでもないのだろう。
おざなりに作られたあの画像ファイルが、それを物語っている。
どうせログイン名は名前だろうし、パスワードは…近いものだろう。
おおよそ勘は当たっていたらしく、数回のチャレンジでファイルは開いた。
パスワードは『other side』ログイン名は『sin』
特に捻りもなく、強制ロックもなく、彼の短絡さだけが強調されていた。
但し、中には思いもよらない内容。言うなれば切り札。彼の保身。警察もブンヤも喜んで飛び付く中身に、少しだけ言葉を失った。
中でも【アザーサイド計画】というのは…想像を絶するものだった。こんなことが現実で起こりうるのか、すぐに理解はできずにいた。
街で酔いつぶれている人間をキャッチして、デートクラブのように金を巻き上げる。金が底をついたら…見込みのある人間には、薬の密売。ここでいう見込みのあるとは、素直に言うことを聞く人間であるということなのだろう。
リコは…その手先なわけだ。
こんな巨大な組織に、俺みたいな一個人が…敵うはずもない。救うには…力が必要だということを何も考えていなかった。
考えなしの理想論ならいくらでも言える。ただ、これを警察に持ち込んでも…彼女はきっと捕まるだろう。
一枚のメモには、彼女の住所が書いてある。
止めたい。でも、どうやって?
具体的な方法など何一つ見つかるはずもなく、ただ時間だけが過ぎていく。
手元にあるのは3枚のディスク。それと…俺の身体だけ。戦争に出かけるには軽装過ぎる。時間がない。
迷っていてもリコが戻ってくるわけではない。…行くしかない。意を決して、俺は外へ飛び出した。
フロントにいるヤツにメッセージを添えて。
これがダイイングメッセージにならなければ…いい。まさに決死の覚悟で、タクシーに乗り込んだ。