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水戸黄門の印籠のように懐から取り出したそれ。
彼は本当に愚かだ。その反応こそがまずいと理解していないところが。
「これが何か…わかるな?君がリコから借りたCDを借りたんだ」
模造品だとしても揺さぶるには充分過ぎるその品。
「それにしてもおかしいんだよ。音が鳴らないんだ。…何か知っているんだろ?」
少しとぼけて、中身がわからないフリをすると幾分安堵の表情を浮かべた。…リコ。君はひとつだけ間違いをしたね。彼を相方に選んだことだ。
『元々コピーですからね。イカれたのかもしれません。治せるかもしれないから、それをもらえますか?』
そう来たか。まあ…予想通りだけど。本当に彼はわかりやすい。
「いや…俺の友達に相当できる奴がいてね。そいつに頼むことにするよ。中身の解析を仕事にしている奴だから」
また動揺。明らかに顔色が悪い。もう一押しで崩れ去るであろう脆い壁。
『いや俺ならすぐに治せますよ。裏にパソコンもありますし』
「…もう友達に送ってあるんだよ。これのコピーもな…。すぐに中身がわかる。その前に本当のことを話してくれないか?」
『だから俺は何も…』
「知らないなんて言わせない」
カウンターを叩き、強い口調でじっと彼を見た。
「俺は警察でもなければ、君たちの邪魔をする気もないんだ。…ただ、彼女を救いたいんだ」
ふう、と一つため息をついて、彼はポーカーフェイスを崩し、髪をかきあげ、顔を撫でた。
『あんた、勘違いしてるよ。俺は誘われた方だ。アイツにな。あんたが救いたいと思うのは自由だけど、アイツは…悪魔だ』
悪魔…。
あの裏切りを悪魔の仕業と呼ぶのならそうなのかもしれない。
意識を失うまで、まったく無警戒だったから。
だけど、最後の涙は…嘘でも幻でもないと…信じたい。信じたいんだ。
「悪魔とは?」
『自分で確かめればいい。あの顔の下に隠された真実をな』
「…頼むリコの居場所を教えてくれ」
『なあ…諦めることはできないのか?あんた、どう見たって普通のリーマンだろ?住む世界が違いすぎるだろ。アイツが消えたなら、きっとそのままの方が、幸せになれるぜ?』
シンの口から思いがけず漏れた幸せという言葉に、少しおかしくなった。
ただ迷いなく思うことは、俺の幸せはリコのそばにしかないってことだけだ。