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…話せないこととは、きっと…あの"黒い画像"につながる部分なのだろう。
そんなことを聞きたいんじゃない。…救いたい。
そうか。俺はきっと…彼女の寂しさに惹かれたのだろう。ちょうど寂しかったからね…。同じ匂いがする同士が惹かれ合うのは、よくある話で。"共感"は、他人を近づけるから。
「俺さ…最初から遠慮してたんだ。あまりにも不思議な出会いだったから」
『誰よりもあなたは紳士だったわ…。欲望に流されず、あたしを普通の女として扱ってくれた』
「臆病さだよ…。どうしていいかわからなかっただけだ」
『…それでもあたしは、信じたくなった』
「…ありがとう」
『酔いつぶれた夜も、あなたは指一本触れなかったでしょ?』
「…そうだね」
不意に罪悪感が湧いてくる。確かに彼女には触れていないが、秘密には触れた。しかもたぶん…重大な秘密。
一呼吸置いて、静かに問う。
「リコを救いたい。そのためにどうしたらいい?」
寂しく笑って、ありがとう、と声を漏らしたが…でも無理よ、と続けた。
「どうして?」
一瞬にして表情から温度が消える。有機質から無機物に。…まるで人間からアンドロイドに。あの冷たい表情。すべてを凍らせるような瞳。
感情の全てを殺して吐き出す。
『理由が必要?あなたの知らない世界では"絶対"は"絶対"なのよ』
…絶対なんてない。そんな青臭い幻想なんて言えるはずもない。
絶対は絶対なのだ。
彼女の冷たさは他人を守るためだったのだろう。排他的に振る舞うことで、それ以上近づけさせない。
…それは危険にも、そして真実にも。
「確かに絶対はあるだろう。だけど…こうして今、現在進行形で俺とリコは一緒に存在してるだろ?」
『…確かに、今はね』
一緒にいる時間より、話せない時間の方が長いのだろう。ため息混じりに、彼女は言った。
「リコの時間を束縛したい。それには…いくら必要になる?」
『無理よやめてよこれ以上優しくしないであたしは…あなたに何も返せない』
涙と共に感情が爆発する。
「…別に見返りが欲しいわけじゃない」
『じゃあどうして』
本当のリコは、こんなにも感情豊かに跳ね回る。泣いて、怒って…。
「どうして?決まってるだろ?リコを救いたいんだ」
その場で顔を塞ぎ、泣き崩れる彼女。それを黙って見ていた。ただ黙って見ていたんだ。