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『…そうなんだ…』


だからカラオケは嫌いなんだ。好きなだけなのに"カッコつけ"とか"空気読め"とか無言の圧力で、歌本をめくられた経験は何度もある。薄っぺらな流行歌なんて聞きたくもない。


下を向いて塞ぎ込む俺の顔を覗き込むリコ。


…見るな。余計に惨めな気持ちになる。自分が"マイノリティ"側にいると自覚してしまう。


ネットで共感してくれる奴らがいるから、つい勘違いしてしまった。現実はとても狭いということを…忘れていた。


叱られた子どものように、ただ黙って下を向いていた。


【話せ。疑われる前に】


脳からの命令もむなしく、こだまするだけ。



「…ごめん。トイレに行ってくる」


携帯を手に立ち上がろうとする背中を、彼女はギュッと捕まえる。


『イヤな思いさせた?ごめんなさい…でも、一人にしないで』


震える声で言われたら、座るしかないだろう。俺はまた腰を降ろした。



また響き渡るエアコンの音。重苦しい雰囲気にため息をつく。



「なあ…?教えてくれないか?どれが本当のリコなんだ?最初に泣いていた君か?酔いつぶれた君か?それとも今…震えている君か?」


『…どれもあたしで…どれもあたしじゃない。人間なんてそんなものでしょ?』


「確かに…ね。だけど、俺は知りたいんだ。本当の…君を」


知りたい。深くまで君を。


『自分語りは苦手なのよ』小さく苦笑いして、下を向いてしまう。汗をかいたグラス。水滴が玉になりコースターにシミを作る。


「俺はどうすればいいのかわからないんだ。正直ね。リコといるのは確かに楽しい。楽しいけれど…」


『信じられない。そうでしょ?そうよね。それが普通の反応よ』一息に話を結論づけてしまう。


「そうじゃないんだ。…リコを俺だけのものにしたい。そうするにはどうしたらいいのか…教えてほしいんだ」


思わず漏れる本音。



『…ごめん。そのごめんじゃなくて…。悩ませてごめん。あたしも…あなたのものになりたいよ…』


顔を手で覆う。溢れる感情を隠すように。



『これから先は…話せない。ごめん。でも…一緒に居たくて…あたしもどうしたらいいかわからなくて』


「何も言わなくていい。君は…何も言うな」


そこにあるのが当たり前のように、彼女はすっぽりと腕の間に収まった。


涙で濡れるのも厭わずに、強く強く抱きしめた。


ゴウゴウと温風だけが吹きわたる音だけが響く中、ただ二人、抱き合っていた。

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