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タバコを取り出して、火をつける。煙に目を細めながら。


「…もう泣くなよ」


すすり上げる音がこだまする室内。


『巻き込みたくなかった…』


それも本音だろう。小さく彼女はつぶやいた。


「もう…今さらだろ?」


煙と共に吐き出して。


『…信じていいの?』


それは真摯で重大な問い。この答えで全てが変わってしまうような、重みがある。


「俺は臆病だし、強くもない。だけど…きっとリコを…笑顔にしてみせるから」


『ごめん…ありがとう』


今まで生きてきた中で、何度も何度も使ったであろう言葉だけど、他のどんな言葉よりも胸を打った。それほどにたった二つの言葉に、想いを込めて。


「夜はこれからだ。笑って?」


泣き濡れた顔の口角を持ち上げ、にこりと笑う彼女。それがとても美しく見えたんだ。


『あーあ、泣いてばかりだなぁ…』


「俺のせいかな?それとも最初から泣き虫だったんじゃないの?」


リコは軽く笑って、きっとそうね、忘れていただけで…と目尻に残った涙をキュッと拭き取った。



『ねえ、お願いがあるの』


「なに?」


『やっぱり歌ってよ。英語でいいから。聞きたいんだ。あなたの声で』


「…マジで?」


『マジで』


「なに系?」


『今の心境を、表す歌で』


…少しだけ迷って、俺はリモコンを操作した。


流れ出すイントロ。重厚なストリングス。そこに入ってくるベースが疾走感をつけて。軽やかに音を彩る。ギターはあくまでシンプルに。



緩やかに歌い出す。BONJOVIの【IN THESE ARMS】


…今夜もし君が俺の腕の中にいてくれるのなら、すべて上手くいかせてみせる。そんな決意の歌。



Cメロのハイトーンはフェイクでかわして、大サビを決める。


歌い終わると、拍手と笑顔で迎えてくれたリコ。


しっかりと化粧が直っているあたりはさすがというか…。



『カッコいいね。誰の何て言う曲?』


心の説明を繰り返す。


「決意の歌だよ」


『へえ…、こうやって口説いてるわけだ?』


「違うよ、俺はモテないし…」いつも"いい人"どまり。それはきっと、都合の"いい人"だろうし。


『怪しいなあ?』


「本当だよ。それこそ信じてよ」



結局、そんなやり取りをしながら、終了のコールがくるまで歌いきった。

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