第8話 俺が恋愛不感症になったわけ。(8)
高揚感に胸を高ぶらせていた俺に、須藤が言った。
「付き合う? 夏美が? 加賀見と? ははっ!」
須藤の声には呆れたような、笑うような――なんというか、俺を小バカにするような響きがあった。
他でもない夏美の前で、男として見下されているように感じてしまい、俺のイライラは加速度的に増加していく。
「ああ、そうだけど?」
この時点でもう既に、売り言葉に買い言葉。
俺は挑発的に須藤に言い返した。
交際をつまびらかにした俺に、なぜだか夏美が焦ったような顔で「シュウ……加賀見くん、あの――」と何かを言いかけたが、
「だはははっ! 冗談はやめろってーの。夏美がお前みたいなオタクと付き合うわけないだろっ」
須藤がゲラゲラと大声を上げて笑い始めたせいで、夏美の声はかき消されてしまう。
須藤のその言いように、完全にカチンとくる俺。
見下すように笑う須藤の目を、俺は睨みつけるようにして、どうだと言わんばかりに言った。
「冗談じゃないさ。去年のクリスマスイブに夏美に告白されて、それが今も続いている。もう3カ月になるんだ」
「は? クリスマスイブ?」
「そうだ」
「――って、あれか? もしかして嘘コクの時か?」
「嘘コク……? なんだそれ?」
須藤の口から飛び出た聞き慣れない言葉に、俺は意表を突かれてしまい、戸惑いながらおうむ返しに問い返した。
すると、須藤はニヤニヤとそれはもうご満悦って顔で夏美を見た。
「なんだ、夏美、言ってなかったのかよ? 加賀見のやつ可哀そうに、今の今までずっと夏美と付き合ってるって思ってたみたいだぞ」
「あ、えっと――、あの――」
なぜだか焦ったような顔をする夏美。
おいおい、なんでそんな顔をしているんだよ?
「さっきから何言ってんだよ須藤。意味わかんないっての」
そう言いつつも、俺はなんだか無性に嫌な予感がしていた。
これ以上進むと取り返しのつかないことになるかもしれないって、なぜだかそんな気がしていたのだ。
だけど止まれなかった。
上から目線で見下してくる須藤から逃げたみたいになるのが嫌だった。
しかしちっぽけなプライドにすがりながら、妙な胸騒ぎを必死に押さえつけようとした俺に、須藤はニタニタと嫌らしい笑みを浮かべながら、致命的な一言を言い放った。
「わかんないなら教えてやるよ。あれは罰ゲームでやらされた嘘の告白なんだよ」
「……は? 罰ゲーム……? 嘘の告白……?」
その言葉に俺の思考は完全にフリーズしてしまう。
そんな俺を見て、須藤が失笑って感じで笑った。
「あのなぁ。夏美が本気でお前なんかに告白するわけがないだろ? 常識で考えろよ。これだからオタクはよ。自意識過剰過ぎだってーの」
「えっ? いや? 嘘の告白……? え、夏美……?」
俺はおおいに混乱していた。
混乱しながら夏美に視線を向ける。
さっきから須藤がどうにもわけのわからないことを言っている。
変な思い込みで喋っているみたいだから、夏美に否定してもらおうと思ったのだ。
それが何よりも手っ取り早い。
だって言うのに――。
夏美は須藤の言葉を否定しなかった。
否定することなく、
「あ……。えっと……。あの……」
夏美はイタズラがバレた子供が怒られる時のような焦った顔をしながら、スッと俺から視線を逸らしたのだ。




