第6話 俺が恋愛不感症になったわけ。(6)
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その日、俺は来たるビッグイベントに向けて期待に胸を膨らませながら、地元の駅前を歩いていた。
「ニズディーのペアチケットの日付指定はしたし、ファストパス関連もオッケー。後はどのアトラクションに乗ったりショーを見るか、細かい予定を立てるだけだな」
ホワイトデーの少し後に、学校が春休みになる初日の平日のタイミングで、俺は夏美と「夢の国ニズディーランド」に行く約束をしていた。
今日はそのための軍資金を作るべく、駅前にある中古ゲーム屋でPS5やゲームソフト、周辺機器などをまとめて売り払ってきたのだ。
夏美と付き合い出して以降、俺はまったくゲームをしなくなっていたので――やってもオタク仲間の付き合いでスマホのソシャゲをチョロっとやるくらいだ――長年の愛機との別れにも未練はちっともなかった。
むしろ部屋が広くなってハッピーまであった。
しかもまぁまぁの金額になったし。
「ほんの数か月前まではあれだけ熱中していたってのに、人間ってのは変われば変わるもんだなぁ――って、自分で言ってりゃ世話はないか。ははっ」
思わずセルフツッコミをしてしまう。
最近の俺ってやつは、どうにも浮かれ気分が抜けないから困る。
「ともあれ。軍資金をゲットしたと同時に、今日で俺は名実ともにオタク男子を卒業だ。だって俺には夏美がいるしな。もうゲームなんかしてる時間はないんだよなぁ。ふふふふ……」
ヤバい。
独り言と思い出し笑いが止まらない。
今の俺は客観的に見たら「ニヤニヤしながら独り言を言う」ヤバい人だと思うが、夏美以外からなんて思われても構わないんだよなぁ、などとこれまたアホなことを思ってしまう俺である。
つまり今日の俺はいつにも増して浮かれていた。
「当日のプランだけど、帰る直前、最後の最後に観覧車に乗るのは外せないよな」
アトラクションを目一杯に楽しんだ後の、夕暮れの観覧車。
茜色に染まった園内を眼下に、喧騒と隔離された2人きりの狭い室内で、俺たちの関係はきっと大きく進展するに違いない。
「そ、それこそ、キスとかしちゃったりして──」
だって俺たち、もうすぐ付き合って3ヶ月だろ?
春には中学2年生にもなる。
き、キスくらいはありだよな?
「あり寄り」の「あり」だよな?
「ムードを盛り上げるためにプレゼントだって買ったしな」
悩みに悩んで悩み抜いた末に、ヘアピンとシュシュ、ハンカチを買った。
学校に着けてきても怒られないように、あまり華美でないもので。
だけどちゃんと可愛いアイテムを、お小遣いの範囲内で、厳選に厳選して選び抜いたのだ。
準備は万全。
観覧車の中でこれを渡せば、ムードが高まることはもはや必至。
俺はそこで男になる――!
なんてことを考えていたからではないのだろうが、俺は偶然バッタリと夏美と出くわした。
「よっ、夏美。今日は買い物か?」
俺が声をかけると、
「え? 修斗くん!? えっ、えっ!?」
なぜだか夏美はひどく困惑したような反応を見せた。
声が上ずっている。
と、そこで俺はハタと気付いた。
しまった。
ここは俺たちの地元、中学校の校区内だ。
つまり隠れ恋愛をしている俺と夏美が、「ただのクラスメイト」を演じないといけないエリアなのだ。
俺はあまりに浮かれていて、そんな基本的な約束事すら忘れてしまっていた。
正直言うと夏美ともっと話していたかったし、すごく名残惜しい。
けれど2人で決めた「隠れ恋愛のルール」は守らなくちゃいけないと思って、俺はすぐにその場を離れようとしたのだが――。
「どしたん夏美?」
夏美のすぐ後ろから、男の声が聞こえてきた。




