第5話 俺が恋愛不感症になったわけ。(5)
そして付き合って1か月半が経つ頃には、俺は「夏美」と。
夏美は「修斗くん」とお互いに名前で呼び合うようになっていた。
休日には水族館や映画館に行ったり(地元じゃ誰かに見つかるのでもちろん隣町だ)、みんなの目を盗んでお互いの家に遊びに行ったりもした。
流行りの恋愛映画を見て、
「ううっ、いい話だったよぉ……」
夏美が涙を浮かべながらを目を真っ赤にする。
「夏美ってかなり涙もろいよな」
「だっていい話だったんだもん。修斗くんだってドキドキしたでしょ?」
「うん、ずっとドキドキしてた」
「ほらぁ! ほらぁ!」
まるで鬼の首を獲ったかのようにはしゃぐ夏美だが、俺が言いたいことはちょっと違っていた。
「だって途中で夏美が手を握ってきたからさ。映画よりもそっちのがいっぱいドキドキしてた」
「あ、えっと、えへへ……。見てたら胸がキュンてしちゃって、そしたら無性に手を繋ぎたくなっちゃったの」
涙を浮かべながら、嬉しそうに顔をほころばせた夏美は、人気アイドルよりも誰よりも、それこそ世界の誰よりも一番ってくらいに可愛かった。
バレンタインには人生初となる「彼女の手作りチョコ」もプレゼントして貰った。
というか女の子からプレゼントを貰うこと自体が、そもそも俺にとっては初めての経験だった。
「はい、バレンタインチョコ」
放課後。
学校のみんなにバレないように、遠回りをしてこっそりと俺の家へと来た夏美が、ピンク色の包装紙&赤いリボンで綺麗にラッピングされた箱を差し出してきた。
「ありがとう、嬉しいよ! マジ嬉しい! 俺は世界一の幸せ者だよ!」
テンション爆上がりの俺に、
「喜んでくれるのは嬉しいけど、ごめんね。実は料理ってあんまりしたことなくて。ちゃんと型を使ったんだけど、思ったような綺麗な形にはならなかったの……」
夏美が申し訳なさそうにつぶやいた。
もちろん俺はそんなことは気にならない。
気になるわけがない。
世界で一番可愛い俺の彼女の手作りバレンタインチョコが、美味しくないわけなどないのだから。
「夏美が作ってくれたんだろ? そんなの絶対美味しいに決まってるから! 早速、今から食べてみてもいいかな?」
「もちろんいいよ。でもほんと、期待しないでよね?」
可愛らしい上目づかいで念押しするように言う夏美に、俺は笑顔で言った。
「それは無理な話だな。むしろ期待しかしていないから」
胸をハッピーと興奮で高ぶらせながら、ラッピングをゆっくりと紐解く。
箱を開けると、中にはちょっと歪なハート(だと思う)の形をした、一口サイズのチョコレートが綺麗に並んで入っていた。
思わず「わぁっ……」と感嘆の声が漏れる。
まるで宝石のようだと思った。
「うぅ~! どうして私はこんなに不器用なのかなぁ」
「俺は夏海が手作りチョコを作ってくれたことが何よりも嬉しいから、形はそこまで気にしないよ」
「私はぜんぜん気にするのー。悔しいから、来年までにちゃんと練習してリベンジするから、首を洗って待っててよねっ!」
「うん、期待して待ってるな。でも今年はこれが最高のプレゼントってのは、譲れない評価だから」
俺はそう言うと、早速チョコを1つ摘まみ上げた。
夏美の真剣な眼差しに気恥ずかしさを覚えながら、大事にそっと口に入れる。
「どう、かな……?」
手作りのチョコは形は少しいびつだったけど、味はすごく美味しかった。
なにより夏美が作ってくれたってことが、もう本っっ当に嬉しくて。
「人生で一番おいしいチョコだよ。ありがとう、すごく嬉しい」
俺が幸せいっぱいの想いを告げると、
「えへへ、うん!」
夏美は満面の笑みを浮かべてくれたのだった。
◇
この頃の俺は、人生最高に幸せな時間を過ごしていた。
だけどそれからさらに1ヶ月ほどが経ち、ホワイトデーの季節を迎えた頃。
俺の幸せな時間は、唐突に終わりを告げた――。




