第十三章
さて、友人の香に恋愛相談をした彩は。
相談についての答えは出なかったものの、どうするかについては決めたのですが。
果たして、その結論とは……。
第十三章
さて、ついにやってきた四月三十日。
ホームルームが終了すると僕はまず、河勝さんに人気のないところで話をしようと誘われた。
人気のないところなんていっても僕は部室である生物室ぐらいしか思いつかなかったので、河勝さんとそこに向かうことにする。
そして、生物室につくと、河勝さんは、
「で、メールの件なんだけど、あれについて答えは出た?」
といきなり訊ねてきた。
「ええと……まあ」
僕は曖昧に返事をしながら、河勝さんの顔を見る。
すると河勝さんは僕ではなく、何故か生物室の入り口を見ていた。
そして、
「明石さんと、古部君、それから編美。そこにいるでしょ。出てきなさい」
と言う。
え? 人影なんて一切見えないのだが、どうしてその三人が、生物室の入り口付近にいることが分かるのか。
なんて僕はちょっと思ったが、そういえばラミア属にはピット器官を持つ蛇と同じように、やろうと思えば赤外線を感知できる能力があるんだったということを思い出す。
おそらく、その能力を使って三人がいることに気がついたのだろう。
なんて、僕がラミア属の能力について考えていると、河勝さんが言った通りの三人が入り口から入ってきた。
「もう、カガッチ。抜け駆けなんてずるいよー」
というのは明石さん。
いつの間にか河勝さんにカガッチというあだ名をつけているのだが、二人の間に何かあったのだろうか?
それとも明石さんが一方的につけたのか? ちょっと気になるところである。
「ごめんなさい。でも気になったから……」
「わりぃ、彩。俺も気になったんで。つい」
謝っているのは八雲さんと香。
いや、気になったからって人が告白しようとしているところを覗くのはどうかと思うんだが。
まあ、今はそれを責めたりはしまい。
「抜け駆けじゃないわよ。ちょっと質問があったから先にそれを確認していただけ」
河勝さんは明石さんに対して、そう言う。
「でもそれって今日の告白に関係あることだよね? だったら抜け駆けって言ってもそんなに間違ってはないんじゃないかなー?」
「いや、だから違うって」
「いやいや、抜け駆けだよー」
「ちょっと二人とも。やめてよ。今からちゃんと僕が選んだ答えを言うから」
二人が言い合いを始めそうだったので、僕は二人の注意を僕の方に向けて、それを止める。
「本当に言うんでしょうね?」
「ちゃんとどっちか選んでよー?」
「ああ、分かった。じゃあ言うよ」
僕はそう言ってから河勝さんと明石さんの顔をそれぞれ見る。
そして、
「まず、昨日河勝さんからもらったメールで指摘された通り、僕はソキウスだったから二人に興味を持ったというのはある。で、ソキウスであることを抜きにして二人を好きになったかと言われたら、それは分からない」
と正直に明かし、
「何故なら、どっちとの出会いもソキウスでなければ成り立たないものだし、それに二人の内面だって今までソキウスとして生きてきた人生が作っているところがあるんだから、それをソキウスという要素抜きで考えるってのは無理だと思う」
と続ける。
「なるほどね、ソキウスでないあたしってのはあり得ないってわけか」
僕の話を聞いて、すぐに河勝さんは納得をした。
「あたしは別にソキウスだから好かれたっていうのでもいいけどねー」
一方の明石さんは最初からこの件に関してはあまり気にしていなかったためか、特に迷う様子も無くそう答える。
「だから僕はソキウスである二人が好きなわけだけれど、それでも二人の内どちらかを選べといわれたら――」
「言われたら」
「どっちにするの?」
「僕は――」
そう言ってから僕は少し間を空ける。
この先、オチがあるとは言え、告白をするわけだし。
正直胸の鼓動が早くなってきていたりするのだ。
だが、しかし、ここまで来たら言わないわけにはいかないだろう。
そう思って、僕は覚悟を決めて、
「僕は、河勝さんを選ぶ」
と宣言した。
僕のその一言を聞いて、驚いた表情を浮かべる河勝さんと、困った表情を浮かべる明石さん。
そしてしばしの沈黙の後に、明石さんが少し悲しそうな表情を浮かべて、
「あたしはやっぱり駄目だったかなー?」
と訊ねてきた。
「いや、デートはどっちが良かったか、甲乙つけがたいものだったよ。勿論明石さんとのデートも凄く楽しかったし。それから、二人ともそれなりの事情があって僕と付き合いたいと思っているってことも理解しているんだ……ただ」
「ただ?」
「何よ?」
僕の次の言葉に明石さんだけではなく、河勝さんも、いや、それどころか八雲さんや香も注目する。
さて。
ここから僕は二人を敵に回すようなことを言わなければならないのだが。
これはかなり緊張する。
正直、今さっき河勝さんに告白した以上に緊張しているといっても過言ではないぐらいだ。
だが、言わなければならない。
そうしないと明石さんを傷つけたままになるし、それに河勝さんとも中途半端な気持ちで付き合うことになってしまう。
よし、言おう。
もう、ここまで来たら最後まで突っ走るしかない。
まるで止まったら死んでしまう回遊魚のように僕にはもう、先に進むしか残されていないのだ。
そう決意して僕は、口を開き、
「二股を許している明石さんより、そうではない河勝さんを先に攻略した方が、この先両方と同時に付き合える可能性が高いと判断したんだ」
と、言った。
…………言ってやった。
とんでもないことを言った気がするが、言ってしまった。
すると。
さっきの告白の後とは明らかに別種の沈黙がしばらくの間、生物室を支配した。
そして――。
「ちょっと……藤若君? そんな理由であたしを選んだわけ?」
言いながらヒトの擬態を解いた河勝さんは。
その長い身体で僕を巻き付け……いや、締め付けてきた。
「少しは痛い目にあって――反省しなさいッ!」
「ちょ……え……い、いや待って、痛い、痛い、痛いって河勝さん」
「痛いって、痛い発言をしたのはあんたでしょーが!」
流石に本気で締め付けたら僕の命に関わるだろうから、その辺りは手加減してくれているのだろうが、河勝さんはかなり強めに締めつけてきているようだった。
これは長年の夢であるラミア属の女子に巻き付かれることが叶った――なんて言っている場合ではない。
何とかしなければ。
そう思っている僕に向かって、今度は触手が巻き付いてきた。
「藤若君。さっきのって別の言い方をするとあたしがチョロい女だってことだよねー? 何? あたしってチョロイン枠なわけ?」
目だけ笑っていない笑顔で、そう言いながら明石さんは僕にどんどん触手を巻き付け、そして河勝さんと同じぐらいの力で締め上げてきた。
こ、これは。
かつて僕の好きな漫画で、敵の髪の毛が主人公に巻き付いてきた時、その技をタコか蛇のようだと例えていたシーンがあったが、まさにそれを連想させるような攻撃力――って、
「だから、痛いって、ちょっ、ちょっと香。助けて」
僕は香にそう頼む。すると香は、
「いや、確かに好きな人のために悪役になるのも手だと言ったけどよ。流石にこれはないんじゃないか?」
と指摘しながら、自身のスマホを取り出し、
「ああ。そういえばお前、前からソキウスの女の子に巻き付かれたいとか言っていたな……よし、記念に撮影しておいてやるぜ。後でお前のスマホに送っておくから楽しみにしていろよ」
などと言いながら撮影してきた。そして。
「藤若君。私、河勝さんのことをお願いしますって言ったけど。これはないと思います……」
などと言いながら八雲さんもソキウスの姿を現し。
「えい、えい」と言いながらその足で僕を突いてきた。
……何気に巻き付いてきている二人より、脚で踏んでいる分、八雲さんのが一番酷い扱いな気もするが。
まあ、それはもう、こうなってしまっては些細な事だろう。
と、まあこうして。
僕の初めての告白は河勝さんと明石さんの、共通の敵となったことで幕を閉じたのであった。
勿論、全ては僕の計画通りである。
……ゴールデンウィークを全身の痛みと、湿布薬と共に過ごさなければならなくなったことを除けばだけれど。
と、こうして。
今回の一連の騒動は一応幕を下ろすことになったのでした。
……これで良かったかはともかく。




