第九章 その5
さて、こうやってデートをしてみると。
積極的なところもあるものの、予想よりはまともな感じだった明石さん。
では、なぜ彼女は彩にいきなり告白したのか――。
【第九章 その5】
「――と、色々やったけど、今日は楽しかったねー」
今朝、待ち合わせした広場の側にある「マダム・ブラヴィ」という喫茶店で珈琲を飲みながら僕と明石さんは今日のデートについて振り返っていた。
「うん。学校で明石さんに初めて会ったときは、正直こんなに面白いデートができるとは思っていなかったよ」
僕はそのことを正直に言う。
「ああ、まあねー。あたしもあのときはちょっとやり過ぎたっていうか……」
「ちょっとね」
「まあ、あたしとしては藤若君のこと聞いたときから運命かなって思っちゃってたし」
「運命って……ずいぶん大げさな」
まだ会ってもいなかったのに、一方的に運命の相手にしたのだろうか?
それはまあ、そんな考えだといきなり抱きついたりもするかもしれないが。
なんて、僕が思っていると、明石さんは、
「実はあたしがソキウスの正体を普通に明かすようにしているのって、この学校に転校してからなんだよね」
と言ってきた。それは何か意外だったので、
「そうなの?」
と僕は聞き返す。すると明石さんは「うん」と頷いてから、
「前の学校では正体は隠していたの。まあ、おかげで周りを常に観察しているから、人とどうすれば上手く付き合えるかは色々学べたけどね」
と言った。
正体を隠しながら人付き合いをしたら普通、人と上手く接することができなくなりそうだが。
そうならなかったのは明石さんの元からの性格のためなのか、それとも観察力が高かったためなのか。
なんて、僕が推測していると明石さんは、
「で、前の学校である男子に告られたことがあったんだけどね。そのとき、流石に正体を隠したままじゃあ悪いと思って、正体を明かしたら……『ごめん、ちょっと考えさせて』って言われてうやむやにされたってわけ」
と話を続けた。
「うわ……それは酷いな」
思わず僕はそう言う。
確かに、ヒトではない者と付き合うのは抵抗がある人間は多いらしいが。
自分から告白しておいて実はヒトではなかったからという理由でなかったことにするとか、あんまりだろう。
しかし、明石さん。
もしそうなら、むしろより一層正体を隠しそうなものなのだが。
なんでまたこの学校に来てからは正体を隠さないようにしているのだろうか?
僕は不思議そうな顔をして明石さんを見る。
すると、明石さんは、
「その件があってから色々考えたんだけど、もうこういう目に遭わないためには最初から正体を明かして人と接しているしかないかなって決心して。だから、新しい学校では正体を隠していないってわけ」
と説明してきた。
なるほど。いくら隠しても秘密はいつかばれるだろうし。
ならば最初からばらしてしまった方が良いと判断したのか。
それはなかなか賢い考えだと思う。また勇気も必要な選択だっただろう。
「だから、この学校に来てソキウスの女子の方がむしろ好きだっていう人がいたってのはこれは何かの縁かなって思っちゃったりして」
「なるほどね」
これでどうして明石さんが人付き合いが上手いのかとか、何で正体を明かしているのか。
そして何故僕に一目惚れに近い反応を示したのかということには納得がいった。
しかし、
「でも、まだ僕は明石さんと河勝さん、どっちと付き合うかってのは考えていないんだよ。だから縁だとか言われても……」
今回のデートの目的であった、明石さんと河勝さん、どちらを選ぶのかということに僕はまだ結論を出せていないのだ。
そのことを隠さずに僕は明石さんに告げる。
すると明石さんは、少し考えてから、
「迷ったなら両方取っちゃえば?」
と言ってきた。
なるほど、両方か……って、
「両方?」
「うん、両方。駄目かなー?」
「いや、僕としてはいいけど、明石さんはそういうの嫌なんじゃあ……」
「ん? ああ、あたしの親父なんて七人と結婚していたからねー。いいんじゃない? 平等に付き合えるんなら」
「な、七人……」
それは……大変そうだ。
羨ましいとも少し思うが。
実際、美術部に入らなかった理由が「女子ばかりで居場所なさそう」だった僕としては、何となくだが、その親父ってのは七人のソキウスの女性の尻に敷かれているんじゃないかと想像できてしまう。
あ、でも好きな相手に尻に敷かれるならそれは別に悪くはないか。
じゃあ僕も二人同時に……いや、
「でも、河勝さんはソキウスだからって二股で付き合うとか、そういうの嫌だって言っていたんだよね」
「そうなの?」
「うん。だから例え明石さんがそういうのオーケーでも、結局は明石さんか河勝さん、どっちか選ばなくちゃいけなくなる」
「そうかー……そうなると藤若君、どっちにするか早めに決めた方が良いかもねー」
「何で?」
「だって、今回は許可もらっているからいいけど、この状態で何度もデートはできないでしょ? どっちかに決めないと」
「ああ、確かに」
個人的に、彼女がいるから他の女友達とは遊ばないっていうのは、人脈を狭めるしどうかとも思うのだが、そういうのを気にする女子も多そうだな。
すると、やはり早めにどっちか選ぶべきなのだろう。ええと……じゃあ、
「三日、三日待ってくれないかな? そしたら決めるよ」
僕は咄嗟に三日待ってくれるように頼む。すると明石さんは、
「三日だね。分かったそれで良いよ」
と返事をした。が、そのままスマホを確認し、
「あ、でも三日後は祝日だねー。学校休みだよ。あたしも予定があるしー」
と教えてくれた。そういえば三日後はみどりの日だった。
こういうどっちと付き合うとか、重要な話はやっぱり直に会って答えたいから、祝日だと困るな。
さて、どうするか。
「そうだね、四日待つことにするよー。それなら藤若君も困らないよね?」
明石さんはそう提案してきた。僕もそれでも構わないので、
「ああ、そうだね。じゃあそうしようか」
と返事をする。すると明石さんは、
「よーし、それじゃあ決まりだね。四日後はよろしくー」
と言ってきた。よろしくって、もう自分が選ばれるつもりなのだろうか? まあ、それはいいけど。
「珈琲も飲み終わっちゃったし、そろそろ帰ろうか?」
僕はそう明石さんに言いながら席を立つ。明石さんも、
「そうだねー。帰ろう」
と言ってそれに従う。こうして僕たちは今日のデートは終わりにすることにしたのだった。
☆ ☆ ☆
「じゃあねー藤若君。また明日学校で」
そう言って見送る明石さんを背にして、僕は駅の改札口を通る。
そして、駅のホームで僕は一人、今日のデートを振り返る。
このデート、河勝さんとのデートとはかなり方向性が違うものだったけど、中々面白かった。
もし今、このタイミングでどっちのデートがよかったかと聞かれたら明石さんの方を選びそうなぐらいだ。
とはいえ、それはあくまで「さっきまでデートをしていた」からであって、少し時間を置いてから平等に判定したらどうなるかは分からない。
そうなると……僕は明石さんと河勝さん、どっちを選べば良いのだろうか?
正直、もう少し二人のことを知ってから選びたいというのがあるのだが、明石さんと四日後にどっちか選ぶと約束してしまったし。
うーん。
……ま、まあこのことは、少し頭を冷やしてからじっくり考えるとしよう。
そう決めて、僕はとりあえずデートの余韻が残っている今日のところはあまり考えないことにした。
この時、僕は明日、明後日になれば落ち着いてきて冷静な判断ができるようになると想像していたのだが。
それがまた、そうはならなかったのだった。
明石さんの抱える問題も理解した彩は。
どちらを選ぶのかじっくりと考えようとしたの……だが、しかし。
次回に続く!!




