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ヒトではない彼女を  作者: 窓井来足
第九章
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第九章 その4

さて、同人誌などが売っているお店から次に二人が向かったのは――。

 【第九章 その4】


 さて、おそらくはお手洗いか何かに行っていたはずの明石さんが、目的の漫画を買った僕のところに戻ってきてから、僕は同人誌を扱った店を出た。

 そして次に向かったのは、アニメや漫画、ライトノベルなどやその関連グッズを多数扱った店だった。

 さっきの店もある意味ではそういう店だったのだが、こっちの店はさっきの店と違い、主に同人ではないものを扱っている店である。

 で、ここに来てすぐに明石さんは、


「そういえば、さっき別の店であたしの読む漫画を紹介するっていったよねえ」


 と言い始めた。

 そういえば、そんなことを言っていた気がする。

 僕はてっきり、ここの前の店で紹介してくれるのだと思っていたが、どうやら明石さんはこっちで紹介するつもりらしかった。

 いや、あるいは。明石さんの計画だとさっきの店の年齢制限の設けられたコーナーで紹介するつもりだったのかもしれないが……それが実行されていたらこっちとしてはかなり、困ったことになっていただろう。

 まあ、実際にどうだったかは気にしないことにして。

 明石さんがどんな作品が好きなのか、多少興味がある僕は、


「うん、言っていたね。で、どんなのが好きなの?」


 と訊ねた。

 すると明石さんは、並べられているライトノベルや、漫画を次々と指さして、


「これも好きかなあ、あとこっちも好きだし……それから、これもいいよねえ」


 と言い始めた。

 ふむ。かなりの数だ。

 この中で僕が知っている作品は……ああ、この小説は結構好きだな。かなり独特な世界観で書かれた小説で、社会風刺とか寓話的な内容が多いやつ。

 それとこっちの小説。作者の代表作として、世間ではアニメで有名になったシリーズがよく挙げられているけれど、自分はデビュー作を含めたこっちのシリーズの方が好きだなあ。

 あと漫画は……この作者は、確か有名な深夜アニメのキャラクターデザインをしていた人だったな。可愛い絵柄だが話はダークな方に進んでいくやつ。

 後は、僕は基本的に少年漫画の方をよく読むから、別のコーナーに行けば色々話せるかもしれないんだけど。

 なんて、僕が考えていると明石さんは、


「後は、あっちのコーナーにあるようなやつかなー?」


 と言って、そのコーナーに進んでいった。僕も後を追いかける。

 するとそこにあったのは、特撮関連の商品だった。


「明石さんって特撮ヒーローとか好きな人なわけ?」


 僕は気になったので、訊ねる。すると明石さんは首をかしげて、


「ん? 藤若君はあんまりヒーローは見ない人?」


 と訊き返してきた。


「いや、そこそこは見るけど」

「そうだよねえ。最近の特撮は大人のファンも多いし、面白いよねえ」


 まあ、明石さんの言うとおり、最近の特撮には大人のファンも多いのだが。

 しかし、明石さんが特撮も好きだとは思っていなかった。

 だが、ちょっと考えてみると、特撮ファンにはイケメン俳優のファンとか、あるいは登場する怪人の声優のファンとかもいるし、女性に人気のあるような内容の作品もあるから、明石さんもそういう方向で特撮に興味を持ったのかもしれない。

 よし、ちょっと聞いてみよう。


「ところで明石さんは、どんな作品が好きなの?」

「そうだねえ、この辺りかなあ?」


 そう言って、特撮の主題歌集CDを手に取り、そこに描かれたヒーローを示す明石さん。どれどれ――って、


「明石さん。これかなり昔の作品じゃん」

「ん? 藤若君は昔のは駄目な人?」

「いやいや、駄目なわけじゃないけどさ。だって、明石さんさっき最近の特撮がどうとか言っていたでしょ?」


 そう言った以上、てっきり明石さんが好きなのはここ数年に作られた作品辺りかと推測していたのだが。

 明石さんが示したのは、二十年以上前のヒーローだったのだ。


「いやあ、特撮が好きになったのは数年前にテレビでやっていた探偵が主人公の作品がきっかけだったんだけどねー。その後、色々見ていたら昔のも悪くないかなって」

「そうなんだ」

「そうなんだよー。このCDに入っている曲も熱いし、昔の特撮ソングっていかにもな熱血っぽさがあるよね?」

「まあ、そうだね」


 最近の特撮の曲が熱血ではないかと言われると難しいが、それでもストレートに熱血なのは昔の方が多い気もするので、僕は明石さんの意見に同意する。

 すると明石さんは、


「藤若君はどんな曲が好きなのかなー?」


 と訊ねてきた。ここでいう曲って言うのはアニメや特撮の曲のことだろう。そう思った僕は、


「そうだね、例えば――」


 と好きな曲を紹介しようとした。すると、明石さんは、人差し指を使った「静かに」のジェスチャーをしてから、


「ああ、やっぱり折角ならカラオケで聞かせてもらうことにしようかな?」


 と言い始めた。


「うん……じゃあ、そうしようかな」

「よーし。それじゃあ決まり。そろそろカラオケに行こう」


 明石さんは、そう言ってから手にしたCDを買い物かごに入れて、レジの方に向かって行く。どうやらこの店での買い物を終えて、カラオケに行くようだ。

 正直、高校の芸術科目の選択授業では美術を取っている僕は、人前で、しかも合唱ではなく一人で歌うのなんて中学の音楽の授業以来なので、かなり緊張するのだが……。

 まあ、ここまで来たら覚悟を決めるしかないのだろう。


 ☆ ☆ ☆


 さっきの店と同じビルに入っていたカラオケ店に来た僕たちは、とりあえず一時間半ほどカラオケを楽しむことにし、店員に指示された部屋に向かった。

 部屋に入った後、これからどうすればいいのかと僕は考える。何せ初めてなので、どうやって曲を選べばいいのかさえ分からないのだ。

 そんな、僕に明石さんは、


「さて、これがカラオケだよ。そっちの大きな画面に曲の歌詞が出るわけ」


 と言って、僕にカラオケの機械を紹介。

 そしてそのまま大きな画面の横に置かれていた機械を手に取り、操作し始める。


「で、このタッチパネル付きのリモコンで曲を選んで、送信すると好きな曲が歌えるの。例えば、こんな感じで」


 明石さんは言いながらマイクを手にする。


「一時間半しかないからどんどん入れてねー」


 と言って明石さんはそのリモコンを僕の方に渡してきた。

 なるほど、この歌手名とか曲名ってので自分の好きな曲を探すのか。ん? ジャンルってのもあるな。どれどれ……アニソンとか歌うならこっちで探す方が早そうだ。

 なんて、僕がリモコンを操作していると、そんな僕の耳に明石さんが入れた一曲目のイントロが流れてきた。

 それは僕も知っている、女の子向けアニメシリーズ、その七作目のオープニングだった。


「明石さん。これって――」

「うん。さっきから歌いたかったんだよね」


 そう言ってから明石さんは、曲を歌い始める。へえ、明石さん、歌がかなり上手いな。しかし、なんでこの曲にしたんだろう。

 ……ああ、そうか。僕がプリクラを今歌われているアニメのタイトルと言い間違えそうになったから、そのせいか。

 しかし、七作目ね。あれは確か、かなり個性的な性格をした青いやつがいた作品だったな。

 僕個人としては一作目の黒いのが激しいアクションをしたりするから好きだったのだが、この作品の青も結構気に入っているから――

 なんて考えていると、明石さんの歌が終わった。僕は思わず拍手をする。

 すると、明石さんは僕にマイクを差し出してきた。


「次は藤若君の番だよー……曲入れた?」

「え? あ、いや……」


 そういえば、明石さんの歌を聴くのに夢中ですっかり忘れていたが、 曲をどんどん入れるように指示されていたんだった。


「まだなの? 早くしないと時間なくなっちゃうよ?」

「時間? なくなるの?」


 だって計算上、仮に一回につき四分の歌を歌っても、一時間半なら全部で二二曲程度。

 曲の切り替えがあるっていってもおそらく、一人十曲程度は歌えるはずだ。

 まあ、実際には四分より長い曲も入れるだろうから八曲程度になるだろうけど。それでも八曲である。


「僕の考えだと一人八曲ぐらいは歌えるんじゃない? 二人しかいないし」

「まあ、そうだけど。それじゃ足りなくなるんだよ」

「足りなく……?」


 よく分からないが、足りなくなるらしい。僕が入れないで迷っていると、


「入れないならあたしが入れちゃおうか?」


 と明石さんが提案してきた。


「うーん、じゃあ次までに選んでおくから、よろしく」

「よし、了解ーってわけで、はい」

「ん?」


 僕は何故か明石さんからマイクを手渡される。あれ? 次も明石さんが歌うんじゃ……。

 と、思っている間に曲が流れてきた。

 それは、僕の好きな漫画のアニメ版、その四曲目のオープニングだった。


「これなら知ってるでしょ? ってわけでよろしく」

「…………」


 ああ、あくまで歌うのは僕で、明石さんが勝手に入れるのね。


「明石さん、いきなり歌えって言われても……」

「エンディングで使われている洋楽を入れなかっただけ感謝してね? ほら、もう始まっちゃうよ」


 感謝ねえ。確かにエンディングだったら歌えなかったな。なんて思いながら、僕は試しに歌ってみる。

 歌う最初、恥ずかしかったのでやや声が小さかったのだが、歌っているうちにむしろ小声の方が恥ずかしいのではないかと気がつき、途中から結構大きな声を出して歌うようになった。

 すると……あ、これは結構面白いかもしれない。高いところの声が出しにくいとか問題はあるけど、好きな歌を歌うってのは気持ちがいいというか。

 ついでに、曲の一部の、漫画作中で主人公が使うかけ声が歌詞になっている部分では、明石さんも一緒に歌ってりしたのだが、こういうのもまた面白いというか――なんて、思っていると曲が一曲終わった。


「じゃあ次はあたし」


 曲が終わるが早いか、そう言ってマイクを構える明石さん。

 どうやら部屋にあった二本目のマイクを使い始めたらしい。


「超有名少年漫画の曲だから知っていると思うし、知らなくても意味は分かると思うよー」


 へえ、超有名少年漫画ね一体どんな曲なのだろうか?

 と、思っていると曲が始まった。それは、非常にロックな激しい曲だった。僕の知らない曲のようだが、非常にノリはいい。そして歌詞の方は――あ、これは。

 あの有名漫画の悪役をモチーフにしているのか? 確かに、これは曲を知らなくても意味は分かる。

 いや、というか。

 最初は知らない曲だと思ったが、サビの部分は聴いた覚えがある気がしてきた。

 確か、劇場版の宣伝で流れていた曲だ。

 それにしても、明石さんがこんな曲を歌うとは。

 さっきの女の子向けアニメの曲とは全く違う雰囲気の曲、というかそもそも女の子が歌いそうな曲ではないので意外な感じだ。

 もしかして、明石さんの歌える曲のレパートリーは相当広いのだろうか?

 って、そんなことを考えている場合ではない、早く次の曲を入れなければ。

 そう思って僕は、何が良いかを考え――結局、最初に歌ったアニメの一番目のオープニングを入れたのだった。


 ☆ ☆ ☆


 さて、時は過ぎて。

 明石さんと僕はそれぞれ八曲程度歌い終えた。

 で、途中、リモコンで履歴を何気なく見たときに気がついたのだが。

 明石さんはどうも、ここまでのデートや僕が既に歌った曲から推測して、僕が知っていそうな曲を中心に選んでいたらしい。

 明石さんは結構、一緒にカラオケに来る相手のことも考慮しているようだ。

 なんて僕が考えていると、部屋に備え付けられているインターフォンが鳴った。明石さんは歌うのを中断してそれを取り、「はい、わかりました。大丈夫です」と受け答える。


「一体何?」


 僕が気になって訊ねると、


「うん。あと十分になると、その連絡をしてくるわけ」


 と明石さんは説明してくれた。


「そうなんだ」

「と、言うわけで後一曲ぐらいしか歌えないから、よろしく」


 納得した僕に、そう言う明石さん。僕は、何を頼まれたのか分からなかったので、


「よろしくって?」


 と聞き返す。すると明石さんは、リモコンを指さして、


「最後の曲は藤若君に任せるってわけ」


 と指示してきた。


「あ、そういうこと」


 言われて、僕は最後の曲を選ぼうとする。

 しかし、一体何を歌えばいいんだ?

 ここに来る前は同じ「何を歌えば」でも「歌いたい曲がない」だったのだが、今は「あれもこれもも歌いたい」に変わっていた僕は、カラオケ開始当初に明石さんが言っていた「足りなくなる」の意味を理解しながら、曲を選ぶ。

 そして、どうせなら明石さんと一緒に歌えるやつがいいなと思った僕は、さっきの店で明石さんが特撮を好きになったきっかけだと話していた探偵ものの作品のオープニングが、男女でデュエットにもなっているし、いいかと決め、それを選んだ。

 そして、明石さんが歌い終わった後、僕はその曲を歌い始める。

 僕の方が最初に歌い始めているため、歌詞の関係上、女性パートが僕に、男性パートが明石さんになってしまったが、明石さんは特に問題なく男性パートを歌ってきた。

 そして歌っている最中で、明石さんは僕の腕に触腕を巻き付けてきた。

 もし、今日のデート開始直後にこんなことをされたのなら僕は、抵抗したかもしれないが。

 今の僕は明石さんのことを結構気に入っていたし、なにより彼女は積極的でこそあれ、あまり無茶はしないとか、相手のことをなんだかんだで結構考えると理解していた。

 なので、僕は触腕を握り返して、そのまま歌い続けたのだった。


(続く)

こうして、なんだかんだでデートを楽しんでいる彩。

しかし、そろそろそのデートも終盤に差し掛かり……。

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