第九章 その2
地元の駅周辺でデートをすることにした彩と明石さん。
さて、最初に二人が向かったのは……。
【第九章 その2】
さて、歩きながら今日、何をするか考えることにした僕たちだったが、これがすぐには何も決まらなかった。
これは原祭田にはあれこれ遊べる場所があるのでかえって迷ってしまったためだ。
で、僕たちはとりあえず次に何か気になったところがあれば、そこに入ろうということにしたのだが。
その結果、明石さんがゲームセンターに目をつけたのだった。
「明石さん、ゲーセンってよく来るの?」
「まあねー」
そう言いながら、僕を引っ張るような形で先に進んでいく明石さんは、
「藤若君はあまり来ないの?」
と逆に訊ねてきた。
「まあ、僕はゲームは家でやるタイプだからね」
僕は正直にそう答える。するとそれを聞いた明石さんは、立ち止まって多少考えたものの、
「大丈夫だよー。色々面白いゲームあるし」
と言って、再び歩き始めた。
面白いゲームっていわれても、僕はあまり人前でゲームをやるのは慣れていないし、そもそも何があるのかすら分からない。
なので、どうするべきかと考えていると、明石さんは、
「あった、これこれ」
と言って比較的大きめな、同じような大きさのボタンがいくつかついた筐体の前に立ち止まった。
「これはあれだよ。音ゲーってやつ」
「ああ、音ゲーね」
音ゲーというと、これは音楽に合わせて何かするものなのだろう。
筐体の様子からするとおそらく、指示されたボタンを押すタイプのゲームだと推測できる。
なんて、僕が思いながら、筐体の側にあった解説を読んでいると、明石さんが、
「何? 藤若君、音ゲーとか得意なの?」
と訊ねてきた。
「いや、あんまり得意じゃないな」
僕は多少、嘘の入った事実を述べる。
嘘というのは、応援団が出てくる熱血な音ゲーにはまったことがあり、それならば最高難易度のをクリアできる程度の実力はあるからである。
まあ、とはいっても。
あれと目の前のゲームはジャンルこそ同じであれ、操作方法などが全く違うようだし。おそらく僕がやっても大した結果は出せないだろう。
そう、僕が推測していると、明石さんは、
「じゃあ、あたしがやってみるから見ててねー」
と言い出した。
「うん。参考にさせてもらうよ」
と言っている僕の目の前で明石さんは、おそらくはゲームで最高難易度っぽい曲を選び始めた。
いや、そんな難しいのをやられても、こっちは参考にならない――と、突っ込もうかと思ったが、その前に曲が始まってしまった。
そして、明石さんはその高難易度の曲をミスをせず、一流のドラマーかと思うようなリズム感で見事にコンボを繋いでいき、このゲームセンターでの最高記録を叩き出したのだった。
――ヒトの腕に、触腕を加えた合計十本の腕で。
「……あの、明石さん?」
「何?」
「なんか、やってやったというか、ドヤ顔? みたいな顔しているけど、あれ反則じゃないの?」
僕は思わずそう訊ねる。すると明石さんは平然とした顔で、
「ううん。自分の力でやっているからね。ズルじゃないよ」
と答え、更に、
「第一、あれはあれで難しいんだよねー。仮にあたしと同じオクト属でも素人さんにすぐできる技じゃないし」
と続けた。
なるほど。僕にはよく分からないが、あれはあれでありのようだ。
そういえば、このゲームセンターでは新記録だったけれど、全国記録の方にはもっと上の得点を出している人もいたしな――もしかして、そのプレイヤー達も全員オクト属だったりするのだろうか?
僕が、オクト属だらけの音ゲー大会とか、凄いことになりそうだと想像していると、明石さんが、
「藤若君もやってみる?」
と勧めてきた。
正直、あんなプレイを見せられてその後に初心者の僕が遊べる気がしないので僕は、
「いや、やめておく」
と断る。すると明石さんは、
「そっかー。じゃあ次行こうか」
と言って、今度は触腕で僕の手を握ってから、別のフロアへ移動しようとする。
僕もここにはもう用はないと思ったので、それに付き合い一緒について行くことにした。
☆ ☆ ☆
で、明石さんに連れられてきたフロアにあったものは、何やら四角く、大きい筐体だった。
「デートといったらプリクラだよねー」
「え? プリキュ……」
「それじゃあ、女の子向けのアニメになっちゃうよ? プリクラだってば」
どうやら、この箱のようなものはプリクラらしかった。
しかし、そんなもの今までの僕の人生には、並行世界の宇宙の果てを目指す事くらいに何の関連もないものだったのでどうするべきか僕が迷っていると、明石さんは先に筐体の中に入っていき、
「せっかくだから撮るでしょ?」
と誘ってきた。
仕方がないので、僕も筐体の中に入る。
「で、どうすればいいの?」
とりあえず、勝手がわからない僕は明石さんに問う。すると明石さんは、
「あたしに任せてくれるかな?」
と言ってきた。
「うん。まあ、僕はよく分からないし」
「じゃあ、好きにやってもいいよね?」
好きにやる? 一体何をするのだろうか?
ああ、そういえば。
ネットで読んだ話だと、プリクラというものは撮った後の写真を加工したりできるものらしいのだが、おそらくそこを明石さんが好きにやるのだろう。
ならばそれは任せよう。
僕はそう思ったのでとりあえず頷く。
それを受けて、明石さんはマシンを慣れた手つきで操作していった。どうやら明石さんは結構撮り慣れているらしい。
おそらく今まで何度も撮っているのだろうが、果たして一体誰と撮影したのだろうか?
なんて僕が気にしていると、撮影する場面となった。
そして、その時。
明石さんは僕に触腕を巻き付け、更に吸盤で吸い付いてきた。
いや、明石さん。この状態で撮るのはまずくない?
と言う間もなく、そのまま撮影される僕。
「よし、上手く撮れた。ラクガキしたり、顔とかいじったりできるけど、何かこれはあんまりいじらないほうがいいかなー?」
「あんまりいじらないね……」
うーん、どうやら。
明石さんの好きにやるというのは、撮った後のことではなく、撮るときのことだったようだ。
明石さんの今までの様子を考えればそれぐらい予測できたはずなのに、プリクラという慣れないものに気を取られて警戒を怠ってしまった。
これは反省しなければいけない。
なんて思ったが、一方、撮り終えたプリクラを見るとこれはこれで悪く無いなとか思えてきた。
よく考えれば河勝さんとは手を繋いだ写真を撮っているし……まあ、おあいこだろう。
僕はそう、自分に言い訳して、僕はこのプリクラを記念にすることにしたのだった。
☆ ☆ ☆
プリクラを撮り終えた僕たちはゲームセンターを出ることにした。
のだが、その途中で明石さんの足が止まった。
「いいなあ、これ」
そう言って明石さんが見ているのはUFOキャッチャーの中にある景品のアニメのフィギュアだった。
あ、そういえば。
さっき明石さんがやっていた音ゲーの曲も何かのアニメの主題歌だった気がする。
もしかして明石さんはそういう方向の趣味があるのだろうか?
そう推測した僕は、
「明石さんってアニメとか好きなの?」
と訊ねる。すると明石さんは、
「まあねー」
とUFOキャッチャーに硬貨を入れながら言った。どうやら取るつもりらしい。
さて、ゲームセンター慣れしているみたいな明石さんだが、果たして取れるのだろうか?
なんて思いながら僕はUFOキャッチャーに挑戦している明石さんの様子を眺める。
一回目。
惜しいのだが景品は取れなかった。
二回目。
今度も惜しいのだが、やはり景品は取れなかった。
三回目。
またしても惜しい……ん?
あれはもしかして、取れそうで取れないようになっているのではないか?
僕がそう気がついたとき、明石さんは四回目のプレイに挑戦していた。
「ええと、明石さん?」
「なあに?」
「それって本当に取れるの?」
「多分取れるよー。あたしは取ったことないけどねー」
……取ったことないのかよ!!
もしかして、明石さんはUFOキャッチャーは下手というか、取れる景品とそうでないものの区別ができないのかもしれない。
ならば早いところやめさせた方がいいのだろう。
そう思った僕は、五回目に挑戦しようとしている明石さんに、
「明石さん。そろそろやめようよ」
と提案した。
が、明石さんは、
「大丈夫だよー。今日は藤若君の前でいいとこ見せちゃうからねっ☆」
などと言って、やめる気配を見せなかった。
しかもこれはフィギュアが欲しいから続けているというのもあるが、僕にカッコをつけるためにやっている節もあるようだ。
そうだとすると「取れないからやめよう」と言ってもそう簡単には聞いてくれないかもしれない。
じゃあ一体、どうやって止めれば……あ、そうだ。
「明石さん、明石さん」
「ん? どうしたの?」
「デートにそんな大きなフィギュア持ち歩いたら邪魔になるよ」
「え? ああ、そうだね」
どうやら。
明石さんはカッコつけるためにフィギュアを取りたかったためか。
取った後のデート中にそれをどうするかは考えていなかったらしい。
おかげで、彼女は僕の言う事を案外素直に聞いて、
「そうかー、じゃあ今日はやめておこうかな?」
と言って、六回目のために硬貨を入れようとしていた手を止めた。
どうやら僕の計画通り、明石さんのプライドを傷つけないでゲームを止めることに成功したようだ。
が、明石さんの気が変わってまたUFOキャッチャーを再開する可能性もある。
そう思った僕は、
「もう時間だし、ここは終わりにして食事にでも行こうよ」
と提案することにした。明石さんはそれを聞き、腕時計を見て、
「そうだねー。じゃあ、あたしがよく行くカフェにでも行こう」
と口にした。
「うん、そうしよう」
明石さんの意見に同意した僕は、今度は僕の方から明石さんの手を取り、そしてそのままゲームセンターの出口へと向かったのだった。
(続く)
こうして、ゲームセンターでしばし過ごした二人。
どうも明石さんのペースに巻き込まれているような感じもしますが、果たしてこの後どうなるのか?




