第九章 その1
ついに、明石さんとデートをすることになった彩。
さて、待ち合わせの場所に来た明石さんは……。
【第九章 その1】
NR線の祭田駅には改札口が二つある。
この前、河勝さんとの待ち合わせに使ったオブジェ「光子乱舞」のある広場に接している方は中央改札口。
これは原祭田の賑わっている地域の真ん中辺りにあることや。
小田鉄線との乗り換えに利用されることもあり、かなり賑わっている改札口である。
一方、バスのターミナルに続いている改札口はかなり小さく、人気もあまりない。
が、こちらはこちらで市立中央図書館や衣料品店が多く入ったビル。
あるいは休日にライブなどが行われる屋外ステージなどにすぐに行くことができるため、便利な改札口だったりする。
そして、そのターミナル方面改札口から出てすぐのところに、「サイタシティゲート」という名前の銀色をした巨大なアーチ状のオブジェがある。
まあ、このオブジェの名前を知ったのも、この前の「光子乱舞」と同じでゲームの影響だったりするのだが。
それは、さておき。
この「サイタシティゲート」のある広場というのはあまり一般的には待ち合わせに使われたりはしていない。
が、そのためかえって待ち合わせ相手をすぐに見つけやすく、個人的には結構待ち合わせに利用したりもする場所である。
で、四月二十六日、日曜日。
僕はその「サイタシティゲート」のある広場で明石さんと待ち合わせの約束をしていた。
待ち合わせ時間は九時半。今は九時二十分である。
僕は前回と同じで今回も時間十分前に待ち合わせ場所に到着したわけなのだが。
しかし、そこには既に明石さんが来ていた。
今日の明石さんはやはり制服ではない。
この服装はなんというものなのか。
前にもいったように僕は女子の服装に関してあまり知識がないため具体的に何を着ているとかいうことができないのだが。
それでも説明してみると。
その服装は「明石さんの積極的なイメージからすると意外な、ひらひらとした部分の多い、可愛いけれどちょっと動きにくそうな服装」だった。
やっぱり絵を描いてみる身としては女性の服に関しても知識が欲しいかな。
なんて思って、明石さんを眺めていると。
「やあ、藤若君。早いねー」
などと明石さんが挨拶してきた。
「おはよう。明石さんこそずいぶん早いね。もしかして待たせた?」
明石さんがいつから待っていたのか知らないが、雰囲気からして今到着したという感じはない。
ので、僕はとりあえず訊ねる。すると明石さんは、
「いやいや、待ってないよ。あたしも今来たばっかりだし」
と笑顔で答えた。
「そう? ならいいんだけど」
僕の推測だと、明石さんはそれなりにここで待っていたように思えるのだが。
彼女が自ら待っていないというならそれを信じることにしよう。
などと僕が考えていると、明石さんは、
「ところで藤若君。さっきあたしのことじろじろ見てたでしょ?」
と指摘してきた。
「え? いや、別に」
本当は言われたとおり、じろじろ見ていたのだが、ここは誤魔化すことにする。
すると明石さんは、服を見せるためなのか、僕の前でくるりと一回転してから、
「結構気合い入れてお洒落してきたつもりなんだけど、どう?」
と訊ねてきた。
「うん。似合うと思うよ」
実際、どちらかといえば格好いい女性の方に惹かれる僕でも、明石さんの服装は「可愛くていいかもしれない」と思うぐらいに似合っていたので僕は頷きながら答える。
僕に褒められた明石さんはそれが嬉しかったのか笑顔を浮かべ。
そしてその後、正体の方に変身した。
「こっちはどうかな? 似合ってる?」
訊ねてくる明石さん。
言われて僕は明石さんの様子を観察する。
なるほど、触腕の状態になった時はこうなるのか。これはこれで似合っているな。
ん? 触腕の模様が変化しているが、これは――
「あ、腕の模様が制服の時と違うのは服の影響だよー」
「そうなんだ」
明石さんは僕が触腕に注目しているのに気がついたのか、そう説明し、そして更に、
「そう。まあこれ、あたしの意思で結構自由に色を変えることもできるんだけどね。今の色は服の影響なの」
とも付け加えてきた。
そういえば、ゲームなんかだと場面によってソキウスのヒロインの身体の模様が変わったりしていたけれど、あれはそういうことだったのか。
僕はてっきりゲームの演出上そうなっているのだと思っていたのだが。
ふむ。実際にソキウスの人と付き合ってみるとまだまだ僕の知らないことがあったりするものだな。
あ、ということは。
河勝さんもやっぱり鱗の模様が変わったりするのだろうか? ちょっと気になるところだ。
なんて、僕が考えていると、
「藤若君。あたし以外の女の子のこと考えているでしょ?」
と明石さんに指摘されてしまった。
「え? そんなことは」
僕は咄嗟に否定する。しかし、明石さんはそんな僕に、
「いや、考えていたよね? 多分、河勝さんのことを」
と言ってきた。
確かに明石さんの言うとおりなのだが、彼女がそれを推測できた理由が分からない僕は、
「何で、このタイミングで河勝さんのことを考えるのさ」
と訊いてみる。すると明石さんは特に迷った様子もなく、
「だって、河勝さんもソキウスだし。きっと藤若君、河勝さんが別の服着たらどんな模様になるのかなとか想像してたんじゃないかって」
などと口にした。
「え? 河勝さんってソキウスなの?」
香とのやりとりで口を滑らせた経験から、僕はそう言ってとぼける。
すると明石さんは、目を丸くして、
「え? ちょ、ちょっと、知らなかったの」
と慌て、そしてその後、
「今の嘘。冗談だから気にしないでね」
などと無茶なことを言い始めた。
この様子だと、僕に口を割らせるためにブラフを仕掛けたわけではないようなので僕は、「ごめん、知ってた」と断ってから、
「でも、なんで明石さん、河勝さんのことを知っていたの?」
と訊ねる。
すると明石さんは、ほっとした顔をしてから僕に、
「ヒトとヒトに擬態したソキウスは動きが少し違うからね。ソキウス同士なら多少見れば分かるんだよー」
と返答する。
なるほど、ソキウス同士だとそういったこともあるのか。
なんて僕が感心していると、明石さんは、
「それにソキウスにしか興味のないはずの藤若君が河勝さんとは親しそうだったし、これはやっぱり彼女もソキウスなのかなーって」
と付け加えてきた。
どうやら今回も河勝さんの正体がばれたのは僕のせいでもあるようだ。
これはやっぱり河勝さんに謝らないとならないかもしれない。
だが、そもそも僕が河勝さんの正体を知っていることを彼女は知らないわけだから謝るにしてもどうするべきか?
などと僕がちょっと悩んでいると、明石さんは、
「ま、藤若君があたし以外の女の子のこと考えても別にいいけどね。あたしはそういうの許すし」
と言いながらヒトの姿に擬態し直し、そして僕の手を掴んで、
「じゃあデートにしますか」
と言い始めた。
「デートって、これからどうするの?」
僕が訊ねると、明石さんは、
「原祭田ってあたし、転校前から何度も来ているけど、大抵のものがあるじゃん。だから歩きながら何するか考えるってことにしようよ」
と提案してきた。
僕は今回のデートの関して、前回の河勝さんのと比べたときフェアになるようにデートコースは明石さん任せなのでそれに「そうだね」と言って同意する。
それを聞いて、
「じゃ、デート始まりー」
と宣言した明石さんは、手を繋いだまま歩き始めた。
どうやらデート中は手を繋ぐタイプの人のようだ。
僕はすぐに絵を描いたり写真を撮ったりできるようにしたいので、デートだとしても手を繋がないタイプの人間なのだが、今回は明石さんの意志を尊重することにしよう。
そう決めて、僕は明石さんと一緒に歩き始めたのだった。
(続く)
こうして、原祭田駅付近で遊ぶことにした二人ですが。
一体、どんなところに向かうのか……。




