魔法が秩序となる大国で起きた悲劇の観測記録 Part2
「昼休憩か~
今日は魔物が出てこなくて平和で良いね」
「ここの所毎日だったからな」
次の日の事だった。
俺達は朝のパトロールを終えて、アレクの行きつけのレストランで昼食を取っていた。
特に魔物が街の周りに出たと言う情報もなかったので、魔物討伐は業務にはなく、パトロールだけで1日の半分を終えた所だった。
「こんな毎日出るとよほどの戦闘狂でない限りうんざりするでしょ……
キリザキもうんざりしてるでしょ?」
「まぁ、そうだな……」
「だよね! だよねぇ!
いやぁ、やっぱりキリザキは話が分かるな~」
アレクはやはりパトロールをしながら子供たちの遊び相手を務めたり、お年寄りのお手伝いをする方が性に合っているに違いない。
それを上が分かっているのか、そこまで魔物の数が多く出現していない時はアレクと俺のチームには仕事が回ってこない事もある。
最も組んだ相手の俺はどうやら異国の強い魔法使いとして認定されてしまった様で、そのせいでアレクにもとばっちりで仕事が回ってくる事も多くなったのは事実だろう。
そこに少しだけ申し訳なさを感じつつも、後少しすれば俺はこの街を出ていくので辛抱してくれと心の中で謝った。
ふと会話が途切れた時、アレクは首にかけたペンダントを開いてじっと見ていた。
「それは……?」
「うん? 写真さ!
かっこ良く言うなら僕の守るべきもののかな」
そう言って魔力によって焼き付ける事で現像した妻と息子とまだ赤子の娘の写真を見せた。
妻は赤茶色の髪の毛をした美人で、アレクと違ってしっかりとした女性である印象を受けた。
息子はアレクの子供時代を想起させる様な金髪で物腰の柔らかそうな子供だった。
まだ赤子の娘はアレクの妻に抱きかかえられているが、きっと妻に似た美人になるに違いない。
「ふふふ……どうだい?
うちのサーシャは自慢の妻なんだ!
エリックとエリーも可愛いだろ~」
「ああ……」
のろけと親馬鹿を同時に発動されて俺は多少の困惑を覚えたが、とりあえず頷き返した。
こちらから話題を振ったのが悪いのだが、これはアレクの何時もののろけと親馬鹿トークを引き出してしまっただけかもしれない。
昼休みが終わるまでアレクのトークは絶える事がなく続いたのだった。
◇
「今日は本当にこのままなら何事もなくパトロールだけで帰れるね」
「それはどうかな……仕事の時間が終わる直前に魔物が出たりしたらどうする?」
「そういう事言うのやめてくれよ!
本当に出たらどうするんだよっ!
それになんか……キリザキが言ったら本当になりそうなんだもん」
アレクは頭を抱えながら俺の言った事に対して怯えていた。
実際俺が配属された日は終業時間5分前に魔物が発見されて、魔物の退治に行った事もあった。
その時のアレクのうんざりした顔は今でも覚えている。
しかし、今回はそんな事はなく全てが順調に終わろうとしていた。
そう……全てが順調に……行っていた日のはずだった。
「さて、報告も終えてもう帰るだけだな……」
「いやぁー今日は何もなくて本当に良かったよ」
アレクは心底安堵した顔をしていた。
「何もなかったうえに1時間早く上がれたからな
アレク……今日は飲みに付き合え」
「ええっ!? 別に今日は何もイベントないでしょ」
「冗談だ……真に受けるなよ」
他愛のないやり取りをしているとアレクは少し考えてこう言った。
「そうだ! キリザキ!
そんな僕と飲みたいなら家にきなよ!
どうせ男の独り暮らしなんて、健康の悪い食事してるんでしょ
なら、うちに来て一緒に食事すれば良いよね」
アレクは唐突にこの様な提案をしてきた。
しかし、妻に確認を取らなくて良いのだろうか。
「俺は良いが、おまえの妻に確認はとらなくて良いのか
一人分多めに食事を作る事になるんだぞ?」
「はははははっ! 食事は皆で取った方が美味しいに決まってるからね
キリザキが良いなら行こうか!」
アレクに答えになってない答えを返されて、どうやら俺はアレクの家で夕食を食べる事になった様だ……
まぁアレクと妻の意思が一致していなければ出ていけば良いだけの事だろう。
俺はアレクの言葉に甘えてアレクの家に行くことにした。
「それじゃあ行こうか」
アレクが笑って家まで先導しようとしたその時だった。
「あ、アレク兄ちゃん!!」
唐突に一人の子供が大慌てでアレクに駆け寄ってきた。
「どうしたんだい、そんな慌てて?」
子供は半泣きになりながら、落ち着きが取れていない様子だった。
アレクはその姿を見てしゃがんで子供と目線を合わせた。
「まずは落ち着いて、何があったのか話してくれるかな?
大丈夫だよ、お兄ちゃんに任せればすぐに解決するから」
そう言ってアレクは子供の頭を撫でながら落ち着かせる。
「あのね……あのね……
エリックがね……た、たたたた倒れて……
う、ううう動かなくなっちゃったの……」
その言葉を聞いたアレクの顔は子供と接している事を忘れるくらいショックを隠し切れない表情をしていた。
エリック……それは昼休憩の時、散々聞かされたアレクの息子の名前だった。
アレクの何事もなかった1日は最悪な形で壊されたのだった。
続く




