魔法が秩序となる大国で起きた悲劇の観測記録 Part1
「この辺は大体片付いたか……」
世界の王から貰った力……黒炎の力で辺りを焼き尽くし、俺は仲間との合流を待っていた。
そして、黒炎を消し去ると毎日聞くあの声が後ろから聞こえてきた。
「お疲れ~
こっちも2人程応援に来てもらって終わったよ
いやぁ~、それにしても……異国の魔法って凄いねぇ……」
この男はアレクと言う。
傭兵としてこの国に雇われているが、傭兵としては物腰が柔らかく、優しい男だ。
その性格が兵士として良いのかと言われれば頷く事はできない。
少なくとも接していて嫌な思いを抱くことはなかった。
そしてこのアレクと俺は雇い主からセットとして扱われており、二人で行動するのが基本となっている。
「まぁな……
とりあえず、このまま街のパトロールに行くとしよう」
「街の外の魔物は片付けたし、持ち場に戻るのが良さそうだね
よし、行こうか」
そう、この国の外には魔物と呼ばれる大きな四足歩行の獣が徘徊している。
この近くの森の中には魔物の巣があり、そこは立ち入り禁止となっている。
生活環境を奪うと、街の近くに出てくる魔物の数が増えるので森の伐採や破壊は厳禁となっている。
しかし、それでも餌を求めて街の近くを徘徊する魔物は出てくるので、そう言った魔物の討伐を傭兵は行っているのだ。
「それにしても、前のパートナーがちょっと……色々あって、いなくなっちゃったんだけど
その代わりに君が配属されてきたのが1ヶ月前だったよね
あっと言う間だったなぁ」
「ああ、そうだったな……」
1ヶ月前この国に辿り着くとこの地域には魔物が発生しており、魔法の技術が発展している国である事が分かった。
俺は自分の身を守るこの黒炎の力売り込んで、しばらく傭兵として国に雇って貰う事にしたのだ。
科学技術の発展している国よりも、余所者であっても能力があれば職を得る事は容易いところがこの様な地域の良いところだと言えるだろう。
世界の王の作り出した世界は、現実世界を映しだす鏡の様によく似た地域もあれば、SFを連想するような地域もあるのが不思議な所である。
◇
「街に戻ってきたね……いやぁ、ずっとパトロールしていたくらいだよ」
アレクは少し疲れた様子だが、パトロールに戻れた事を喜んでいる様だ。
討伐に行く足取りよりも多少ではあるが軽くなっている事が見ていてよく分かった。
「おまえ、傭兵には向いてないな」
「自分でもそう思うよ……皆、血の気多いからねぇ」
とは言え魔法のセンスは他の傭兵の水準と比べても高い事はよく伺える。
RPGのパーティーではないが、素直に剣で殴る血の気の多い男も大事だが、この様な男もバランスを取る意味でも必要なのだろう。
「ああっ!? アレク兄ちゃんだ!」
「討伐から帰ってきたんだー?」
パトロールをして5分と経たないうちに、子供たちに見つかりアレクは囲まれてしまった。
俺は多少なりとも子供に好かれる柄ではないので、アレクに子供が近づきやすいようにそっと距離を置いてその様子を見守る事にした。
「アレク兄ちゃんは魔物どれだけ倒したのー?」
「いやぁ動きを止めたり、怯ませただけで
僕自身で倒してはいないかなぁ……」
アレクはヘルムを外して、金髪の髪の毛を照れくさそうにかきながら子供達と会話していた。
「なんだよー!? やっぱりアレク兄ちゃん弱いな!」
「俺なら10匹くらい倒せるぜー!」
「言ったなー? ならまずは僕を倒してみなよ」
「おい! 皆! アレク兄ちゃんが調子に乗ってるぞ!
一斉に掛かってやっつけちゃおうぜ!」
「うわー! やめてくれー!」
アレクは飛びかかってきたり、蹴りを入れてくる子供達に対してやられた振りをしている。
俺はその様子を遠目で見ながら、近くの店でおやつでも買っておいて、アレクが解放されるのを待つことにした。
店に入ってアレクがよく舐めている飴を買うと、耳に入れようとしなくても入るくらい大きな声で話している貴婦人2人の話声が耳に入ってきた。
「3丁目のあの人……伝染病で倒れたんですって?」
「最近流行っている物ね……本当怖いわね……」
伝染病……当然ながら永遠の時を生きる俺には関係のない物だ。
そもそも風邪にすら掛かる事はない。
正体不明の伝染病の話……この街をパトロールしていて伝染病の事を聞かない日はなかった。
どうやら相当猛威を振るっている様だ。
元の場所に戻ると、ようやくアレクは子供達から解放されていた。
俺の姿を見つけると苦笑いをして少し申し訳なさそうにこう言った。
「ははっ……俺は傭兵の中でも親しみやすいらしくてね
何時もこんな感じなんだよ、暇にさせちゃってごめんよぉ」
「知っている……甘いもの買ってきたが食べるか」
俺はその土地では魔力回復にも効果のある飴の様な物をアレクに手渡した。
「やっぱり君は気が利くよねぇ、ありがとう!
何ていうか君もあれだよね、他の傭兵の人たちとは根本的に違うよね?」
「どうしてそう思う……?」
アレクは言葉を選んでいるのか少し考えた後、ただ一言こう言った。
「底が見えない……かなぁ……
他の傭兵みたいに非情な所はあるけど、別に戦闘狂ってわけじゃないしね
上手く説明できないんだけど、何だか違う気がするんだよねぇ」
「いや、全然伝わらないな……」
「そこはFeelで何となく分かってよ!
お願いだからさぁ」
冗談はともかく、アレクの言う”底が見えない”は正しい言葉の選び方だろうな。
最も不死の旅人などと当てられる人間は霊的であったり、魔術的であったり特殊な能力を持っている場合が多い。
その言葉を選べるだけ、勘の鋭い人間と言う事はできるだろう。
途中子供に絡まれたり、街の喧嘩の仲裁に入ったり、適当な話でもしながら歩いているだけで、あっと言う間にパトロールの時間は終わってしまった。
◇
「上にも今日あった喧嘩の事を報告したし、これで終わりだね
君は今西側にある宿屋に住んでいるし、そろそろお別れだね」
「ああ、そうだな」
アレクはこの街で生まれ育った兵士なので、宿屋ではなく一軒家を持って暮らしている。
まだ20代後半になって間もないくらいだが、妻子もいて子も長男が今年で5つになり、長女が今年で生まれて1年の時が過ぎた様だ。
「やはり、心なしか浮き足立っている様だ」
「そりゃそうだよ!
できるだけ早く帰って、家族と一緒に過ごすのが生きがいだからね
キリザキ(霧崎)はやっぱり旅人だから腰を据えて家庭を持った事はないんだよね?」
「まぁ……そうだな」
生前に家庭を持っていたかどうか定かではないが、少なくとも記憶のある内に家庭は持ったことはない。
観測者である以上、あまり長い期間一つの場所に腰を据えるわけにもいかない。
俺を観測者として仕立て上げた世界の王も、過度に同じ場所に留まるのは報告がつまらなくなるので禁止している。
最悪留まる原因となるものを取り除く処置すら行うらしい。
それが執着する原因となる記憶なのか、その物自身なのか……尋ねてみる勇気は俺にはなかった。
「キリザキもそれだけ旅してるんだから良い人見つかるよ
うんうん、家庭を持つって事は本当に良いよ」
「そうか……」
一応こいつから見ても俺は5歳くらい年上の男なはずなのだが……
そんな男に対しても上から目線で物を言える度胸は大したものだろう。
相手が違えば殴られていてもおかしくはない。
仕事のパートナーになると言う事で、年は上でも気軽に接する事を受け入れたのは俺だし、俺の事を考えて言った一切悪気なしの発言だろう。
「だから僕は特別な日じゃなきゃ、夕食には付き合えないよ
それじゃあ、また明日!」
別れの挨拶を交わしたその刹那、手を振って別れようとしたアレクが突然倒れそうになった。
「おい……大丈夫か?」
俺が声を掛けるとアレクは相変わらずの様子で自分の金髪をかきながら笑っていた。
「ちょっと立ちくらみがしただけさ!
心配ないよ、じゃあね」
そう言うとアレクは何事もなかったかの様に走って家路へと戻って行った。
続く
今回は一風変わったSF風の物語です。




