うつとぼく26
今回予約したのはぼくの母校から電車で下った先にある旅館だった。最寄駅に着いてからさらに送迎バスで旅館へ向かう。窓から外を眺めてみると、一面に鮮やかな緑の田んぼと青い空が広がっている。綺麗な景色を見ると心が動く。ぼくもまだ生きていることを実感した。
15分ほど経った頃、バスは旅館に到着した。部屋に入ると、うおぉと声が漏れる。畳の部屋にツインベッドが並べられ、広縁からは綺麗な海が見える。1人で泊まるにはもったいないくらいの空間がそこには広がっていた。ぼくは思わずベッドに飛び込んだ。‥ふー。疲れたな。午前中はたくさん歩き回った。このまま目が覚めなくてもいいかもな‥。
夕食までまだ時間がある。今夜はどう過ごそうか。受付で聞いたところによると、この旅館にはカラオケがあるらしい。ぼくは大のカラオケ好きだったので予定に組み込むことにした。よし、まずは海を見に行こうかな。
旅館を出てすぐ、海岸に到着した。ザザー、ザザーと波を立てる海岸へ近づく。あたりには人っ子1人いない。そこでぼくにいけない考えが浮かんだ。もし今、もしこのまま波の中に入っていけば。このどうしようもない人生を終わらせることができる。いま。
少し足が進んでいたように思う。ただここで終わったら何か後悔が残るような気がする。何より怖い。泳げないし。少し浮かんだ涙を堪えながらぼくは砂浜を後にした。




