うつとぼく24
休み始めて1ヶ月が経つ頃、ぼくの好きなプロ野球チームが大盛り上がりを見せていた。父親の影響で小さい頃からの大ファンだったチームだ。このチームはとにかく弱い時代が長く、スポーツの中でもチーム間の戦力差が少ないであろう日本プロ野球でも「勝てばラッキー」といった具合だった。父曰く「弱いからファン」とのことだが、そのせいで息子は負けの英才教育を施されていたのだ。
それが近年、長かった大暗黒時代を抜け出し、「普通のチーム」へと進化している最中だった。当日仕事終わりにふらっと観戦に行けた頃とは様変わりし、ホーム試合は毎回の満員、チャンスの場面では大歓声が轟くチームへと変わっていた。ぼくが初めてホーム球場へ応援に行ったときは本当に感動したものだった。
今年はそのチームがプレーオフに進出し、大熱戦を繰り広げていた。プロ野球は全12球団が2つのリーグに分かれて1年間試合を行う、各リーグで上位3位になったチームがプレーオフを行い、勝ち抜けた1チーム同士が最後の「日本シリーズ」を戦う。ぼくの好きなチームは3位から下剋上で日本シリーズに出場していた。相手は圧倒的に強い最強チームだ。1戦目、2戦目は大方の予想通り相手チームの勝利に終わった。4勝すれば優勝となるが、ぼくも正直勝てるとは思っていなかった。ここまでのプレーオフを勝ち抜いたことが奇跡に近く、既に大満足に終わったシーズンだと思っていたのだ。ところが第3戦、怪我から復帰したエースが相手打線を抑え込み、見事勝利を飾った。よっしゃ、1試合勝てたんだから最高や!といった具合だったがここからまさかの3連勝。優勝に大手をかけた。途中T君と一緒に飲みながら観戦もあった。T君はずっと野球をやっていて詳しかった。解説付きで最高を演出してくれた。
ここまで来ればぜひ優勝してもらいたい。なんせこのチームが優勝したのは26年前、ぼくが生まれた年でその前はなんと64年前にまで遡る。一生に一度見れるかどうかの奇跡だった。ぼくはその日、自宅ですき焼きをしながら試合を見守った。まずは初回、早速チャンスを作ったが無得点。まぁまぁまぁそんな簡単には勝たせてくれないだろう。そして2回。今期メジャーから出戻ったベテラン選手がホームラン!!!最高の夜の始まりだ!!!肉と酒も止まらない。最高。まじで。全ファンが夢見た選手の先制ホームラン。くぅ〜〜。思い出してもたまらん。そこからはもうほんとたまらんかった。追加点、またまた追加点を挙げ楽勝ムード。ただこのチームは何が起こるかわからない。5点差が5点差のチームだ。いくらあってもいい。得点するたびにぼくの雄叫び(か細い)がうつの夜に響き渡る。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。ついに最終回、相手バッターを三振に抑え込み優勝が決まる。
は〜〜〜。長かった。長かった。ぼくの人生をかけて応援してきたチーム。生まれてから一度も優勝を見たことがなかった。それがここにきて、このタイミングで、最高の瞬間を味わわせてくれた。うつのぼくに特大のプレゼントだった。その日は祝勝会を見るため明け方までSNSを見漁った。
翌朝、目が覚めて襲いくる虚無感。どうして?
そう、優勝を見ることはぼくの生涯の目標であった。つまりどういうことか。生きる目的を見失ってしまったのだ。特大のプレゼントはぼくにこの上ない喜びと、うつを運んできたのだった。
翌日は「もう死んでもいいかな」なんて思いながら過ごした。




