スクランブル交差点
スクランブル交差点……大型ビジョンに映し出されている映像を見ながら信号が青に変わるのを夢と待っていた。
「……凄いね。」
「そうだな……凄いな。」
「テレビCMでも、街中でもいっぱい流れてるね……あちこちポスター貼られているし……」
「……溢れすぎて気持ち悪い。」
苦い薬でも口にした様に顔を顰め舌を出した……。
あれは俺だけど俺じゃない……年齢不詳、正体不明。謎のモデル、コウ。
……そう言えば、来週、雑誌の取材があるって能見さん言ってたなぁ……メンドウだ……
「なんで……」
「ん?」
「……なんで、泣いているの?」
信号が青に変わり一斉に人が動く……夢の手を引いて四方から向かって来る人を上手く避けながら渡って行く。
駅前に、今度は大きなポスターが貼られてあった……そこの前で2人の若い女性が話している。
少し聞き耳を立ててみた。
「……この、コウのCMいいよね。」
「うん、いい。…涙がすーって流れて、なんか切なくなっちゃわない?」
少し離れた所で聞いているが、まさかヨレヨレの服に鬱陶しい前髪をした男がコウ本人だとは気付かないでいる。
「あぁ、オーディオプレイヤー買ったら、このポスター貰えないかなぁ。」
「アイドルのCD買うんじゃないんだから、付いてくるわけないよ。」
笑って言う友人をつまらなそうに見てから、名残惜しそうにポスターの前から立ち去る女性。
「……教えてあげればいいのに、〝これ、僕です。″って。」
俺を見上げニヤリと笑う夢。
「信じる訳ないだろ、こんなむさくるしい格好した男がコウだなんて……〝キモーい。頭おかしいんじゃ無い″って、言われてお終い。」
「……だね。
で…なんで泣いているの?」
夢の横顔を見た……ふざけて聞いている訳じゃないのがわかる。
戯けた表情は消え、神妙な顔をしていた。
「……あり得ないと思うけど、一瞬……亮の声が……〝バイバイ″って、聞こえたんだ。
……で、気がついたら涙が流れてた。」
夢が、手をギュッと握ってきた……俯いている。
「泣いてんの?」
「泣いてない!」
口を尖らせて顔を上げた。
目が潤んでいる……上を見上げ溢れそうになる涙を堪えている夢に、この空はどんな風に映っているのだろうか?
大切な人の死を乗り越える事は簡単な事じゃない。でも、生きている俺達ほその先に進んで行くしかない、立ち止まってはいられない……何故なら、この世に誕生した瞬間、人生が始まり、握りしめた小さな手を開いて、幸せになる為歩き出す。
それは、長かったり、短かったり、それぞれ違うけど、その先にあるは死であり、誰もが必ず迎えるものだ。
だからこそ、この瞬間を大切に生きよう……人生の岐路に立った時、進むべき方向を迷わず選べる様に、日々を自分らしく……愛おしむ様に……。
先に逝ってしまった亮に恥じない生き方をする事が、遺された者の使命だと思う。
ビルとビルの間から見える空を見上げた……なんだか、空がとても低く感じる。
少し湿っぽい風が街の中を通りぬけた……梅雨入りも間近だとニュースで言っていたな……。
夢を見ると涙を拭っていた。
……いつも、上から目線で元気な女の子が、こんな風に泣いてると可愛らしく見える……ちょっと不謹慎かな……?
「帰るか……夢。」
「……うん。」
繋いだ手が温かくて……どうしたんだろ……涙が出そうになった。




