第35話
前話より数時間前の話になります。
ホムラ視点です。
結構長い時間寝ていた気がする。
いや、今も寝てるけど。
今日が何月何日なのかわからないけど、少なくとも3日以上は寝てる。
イサクさんが毎朝声をかけてくれるんだけど、それを3回は聞いたからね。
「ホムラさんはそろそろ目が覚めるころだと思いますよ。」
「よかった…!後遺症や傷が残ることはありませんよね?」
「それはないでしょう。ホムラさんに大きな怪我はありませんし、枯渇した魔力も通常通り元に戻っていますから、後遺症もないかと思われます。」
「それは本当によかった…。あ、ところで団長は後どのくらいで完治いたします?」
「ユウリ君はもう少し時間がかかるでしょうね。傷が深すぎるので治癒術をかけるのが少し難しい状態にあります。経過を見ながら治癒術をかけていくのがいいでしょう。」
「あーそうですか。よろしくお願いします。」
少し離れたところでイサクさんとハズキさんが話しているのが聞こえた。
私や団長は重症だったから、イサクさんに容態を聞いてるんだよね。
私はともかく、団長がいないと今後の仕事にも影響出ちゃうし。
それにしてもハズキさん、団長への心配が結構あっさりしてた気がする。
もっと団長も心配してあげてー。
もう朝みたい。
今日こそは…。
「…っ!」
おお。まぶたが動く!
当たり前なんだけど、体が動かないってなかなかストレスだったんだー。
うーん、思いっきり伸びをしたい。
「ホムラさん、おはようございます。おや、目が覚めたようですね。よかった。みなさん心配していましたよ?」
いつものように声をかけようとしたイサクさんは、私が目を覚ましたことに気づき嬉しそうに微笑んだ。
「お、はよ、ござい、ます。」
喉がからからで声が出ない。
というか乾きすぎて痛い。
「ホムラっ!目、覚めたのね。」
そう言って顔を覗き込んできたのはハズキさんだった。
余程心配をかけてしまったらしい。目尻に涙が浮かんでいる。
私はハズキさんに体を起こしてもらい、イサクさんに水をいただくと、2人にこれまでの経緯を聞いた。
寝ていたのが3日程度だと思っていたが、私は実は一週間も眠っていたらしい。
魔力の枯渇が相当酷く、自分では魔力を作り出せないところまできていたため、体が動かなかったのだとか。
私も始めて知ったけど、魔力は血管を通って体全体に流れていて、通常は魔力を消費した分摂取した栄養から魔力を作り出すんだって。
魔力を作り出す器官は脳の一部らしい。人によって発達の度合いが違うらしいけど。
だけど、魔力が少なくなりすぎると、貧血に似た状態になって体を動かせなくなるみたい。
そうすると、ご飯が食べられないから栄養を摂取できなくなって、回復ができなくなるんだって。
幸い、大きな怪我がなかったから状態が悪化せずに済んだんだけど。
この世界には点滴がないから、私が眠っている間に栄養を摂取する方法はない。
だからイサクさんが治癒術をかけてくれてたみたい。
治癒術自体は怪我を癒す魔術だけど、一定量の魔力を相手に渡すっていう術もあるらしく、私にはそれを使ってくれたそう。
全部、教えてもらった話だからちょっと間違ってるかもしれないけど。
そうして状況確認が済んだ頃。
「おはよう諸君!」
「失礼します。」
ノックもなく入ってきたのは魔術師団長レイジと、それに続いたカレンさんだった。
「…!!ホムラ君!目が覚めたんだね!」
「…ホムラさん!よかった…っ!」
2人は入ってきて私の姿を捉えた瞬間に、突進する要領で私の元にやってきた。
それはもうハズキさんとイサクさんを跳ね飛ばす勢いで。
「ちょ、二人とも…。」
ハズキさんは結構どん引きの表情で身を引くが、眉間にしわが出来ている。
2人ともマイペースだからね…。
「お二人とも。ホムラさんは先ほど目が覚めたばかりですから、あまり無理をさせないようにしてくださいね。」
イサクさんは以外と冷静で、体力の戻ってない私のために2人を戒めてくれる。
そう。
なんとか背もたれに体を預けて起きてはいるけど、1週間も寝ていたせいか体が強張って仕方ない。
腕とか足は何とか動くけど、指先は動かしにくい。
手が痺れてちゃんと拳をつくれないときってない?あれのさらに酷くなった感じ。
あと首も動かしにくい。
ずっと寝てたから、首や肩が凝ったみたい。
1週間くらいは激しい運動はしちゃだめだって。
…かえって、よかったかもしれないけど。
「わかっているよ。どうだいホムラ君?痛いところや違和感のあるところはないかい?」
そう言って、魔術師団長が私の額に手を当てた。
熱を測っているらしい。
「だいじょうぶです。」
まだちょっと声が出しにくいが異変は特にない。
というかそれは保健医師のイサクさんの仕事だと思う。さっき同じこと聞かれたし。
それより…。
「あの…。」
魔術師団長とカレンさんは私の両隣を陣取ると、くっついて離れない。
カレンさんは女性同士だし、ちょっと可愛い顔が近くにあることにどぎまぎするくらいだからいいとして。
「ちょっと、近い、かと…。」
カレンさんの方に身を引きながら魔術師団長と距離を取ろうとしてるけど、そもそも2人に挟まれてるせいでそれは無理だった。
魔術師団長は私が女だとかそんなこと気にしてないんだろうけど、こっちは気になるんです!
私だって彼を男性として見てる訳じゃない。
でも私だってまだ18歳の乙女なのだ。そこらへんは察してほしい。
「そうですわ!室長!ホムラさんに安易に近づかないでくださいな。」
カレンさんは魔術師団長から私を守るように抱きしめた。
「何を言っているんだ!もしまたホムラ君の魔力が枯渇したらどうするんだ!…はっ!それよりも魔術が発現したんだよね!属性はなんだった?地かい?水かい?いやいややっぱり火属性か!やはり俺たちは共にある運命なんだよ!そうだ!今すぐにでも魔術師団へ籍を移そう。魔術師団なら魔術を扱う仕事だが魔力を枯渇させるようなことはしないよ!俺はこんな心臓が凍りつくようなこと二度と起きて欲しくない。君だってそうだろう?こんな死にそうになってまで騎士団にいる必要はない。ユーリには悪いが…」
私の肩を抱き、早口で続きを述べようとした魔術師団長に影が伸びる。
「俺が、なんだと?」
地を這うような、低い声。
魔術師団長の背後に団長が立っていた。
こ、怖ー。
団長のこんな怒ってる声初めて聞いた。
ごごごご…、みたいな地響きが聞こえてきそう。
魔術師団長も焦ってる。
あ、冷や汗が流れた。
「や、やあ、ユーリ…元気そうで…。」
魔術師団長でも結構怖いらしい。挙動不審である。
「そこどけ。」
魔術師団長を顎でしゃくってどかせると、いままで魔術師団長がいた場所を陣取った。
「ホムラ…目が覚めたみたいだな。…あんな、危険な目に合わせて、すまなかった…。」
そして、謝罪と同時に頭を下げた。
「な、なんでたいちょうが謝るんですか!」
私は焦って、頭を上げてもらうように団長の肩に手を添えた。
私の顔を見たときの、喜びと悲しみが入り混じったような団長の顔に胸が痛む。
団長は頭を下げただけだったけど、土下座をしそうな勢いで驚いてしまった。
団長は悲痛な顔をしているが、彼自身も負傷している身なのだ。
包帯で吊っている腕がとても痛々しくて、それがわたしのせいでと思うと苦しくなる。
利き腕とは反対の左腕であることが不幸中の幸いらしいけど、しばらくは訓練もできないんじゃないかな。
「たいちょう、頭をあげてください。私の方こそ、ごめんなさ、いったっ!」
勢いよく頭を下げたら、頭を上げようとしていた団長の頭にぶつかって星が散った。
「…っぅ!…だ、大丈夫か?」
団長も頭を抑えながら目を白黒させた。
「は、はいぃ~…。」
こういう予期してない衝撃が何気に痛い。
「………ぅく、ははは!…俺たち、生きてる、な。」
団長は何が起こったのかわからない、という風に驚いていたけれど、私が涙目になってるのを見て笑った。
「はい!」
私も額を押さえながら笑った。
生きてなきゃ、こんなに痛いわけない。
私たちは、勝ったんだ!
ホムラは魔獣に勝ちましたが、同時に死亡フラグにも勝ち(折り)ました。
山場は越えたので、後は主人公たちをらぶらぶに…ああハードルが高い…(笑




