『不幸な男の幸福論』特別外伝
――これは、ただの作り話である
さて、諸君。
ここまで三つの物語を聞いて、そろそろお気づきのことだろう。
「結局なんなんだ、この男は」
「厨二病をこじらせた、喋り方のおかしな子どもが、自分の不幸を知ってもらいたくて書いているだけではないのか?」
……なるほど。
実に的確なご意見である。
壮大な言い回しを好み、やたらと「諸君」と呼びかけ、人生を冒険だの戦いだのと表現する。
おまけに、自分の人生を悲劇の英雄譚に仕立て上げようとしている。
いやはや、これは相当な重症である。
もはや中二病というより、物語の中でしか呼吸ができなくなった男なのかもしれない。
しかし、諸君。
ここで一つ、考えてほしい。
彼は、本当に自分の不幸を知ってもらいたくて、これを書いているのだろうか。
もしかすると、そうではないのかもしれない。
彼は、自分の苦しみを自分のこととして語ることが苦手だった。
だから、他人事のように書く。
自分の話なのに、まるでどこかにいる知らない男の話であるかのように語る。
そして、読者に笑ってもらう。
小学生の頃から身につけてしまった、あの道化のような振る舞いを、今も続けているのかもしれない。
本当は助けてほしいのか。
ただ笑ってほしいのか。
それとも、自分の話を誰かに聞いてほしいだけなのか。
本人にも、よく分からないのだろう。
だからこそ、今回はこういうことにしておこう。
**これは、実在する人物の話ではない。**
ただの作り話である。
どこかにいる、弱くて、情けなくて、少しばかり頭のおかしい男を主人公にした、作者の考えた嘘の物語だ。
そういうことにしておいてほしい。
### 第一節 これは嘘である
諸君。
これまでの話を聞いて、もしも「そんな人生、本当にあるのか?」と思ったのなら、それでいい。
そんな経験をしたことがない人は、どうか面白い話として聞いてほしい。
少し大げさな悲劇。
少し変わった主人公。
妙に芝居がかった語り口。
笑えるところがあれば笑ってくれればいい。
そもそも、本人が自分の人生を笑い話にすることに慣れているのだから、読者まで真面目な顔をする必要はないのかもしれない。
だが、もしも。
もしも、この物語を聞いて、胸の奥が少しだけ苦しくなった人がいるのなら。
もしも、誰にも言えなかったことを抱えている人がいるのなら。
もしも、自分の苦しみを冗談に変えなければ、誰かと話すことすらできなかった人がいるのなら。
その人には、どうか実話だと思って聞いてほしい。
これは嘘の物語だ。
しかし、そこに込められた感情まで、嘘だとは限らない。
### 第二節 道化は今日も笑わせようとする
男は、今日も自分のことを笑い話にする。
自分の過去を語り、失敗を語り、情けないところを並べて、最後には何か気の利いた一言で締めくくろうとする。
まるで、舞台の上に立つ道化師のように。
観客が笑えば、彼も笑う。
観客が楽しんでくれれば、それで満足する。
ただし、舞台の幕が下りたあと、彼がどんな顔をしているのかは分からない。
彼自身も、自分が何を求めているのか分かっていないのだから。
もしかしたら、誰かに「大丈夫?」と聞いてほしいのかもしれない。
もしかしたら、何も聞かずに笑っていてほしいのかもしれない。
あるいは、誰かが自分と同じ経験をしていないと知って、安心したいのかもしれない。
なんとも面倒な主人公である。
読者にまで気を遣わせるとは、なかなかの大物だ。
しかし、そんな男だからこそ、伝えられることもあるのだろう。
### 第三節 同じ物語を読んでいる君へ
さて、諸君。
ここからは、少しだけふざけるのをやめよう。
もし君が、誰にも言えない苦しみを抱えているのなら。
もし君が、自分の過去を笑い話にしてしまうのなら。
もし君が、周囲には楽しそうに見えているのに、一人になると何もかも嫌になってしまうのなら。
どうか覚えておいてほしい。
君だけではない。
同じように、自分の気持ちをうまく説明できない人がいる。
自分の苦しみを冗談に変えてしまう人がいる。
誰かを恨みたいのに恨めない人がいる。
自分を責めることばかり上手になってしまった人がいる。
そして、助けてほしいと言えないまま、今日まで頑張ってきた人もいる。
だからといって、苦しみを我慢し続ける必要はない。
誰かに助けを求めてもいい。
泣いてもいい。
逃げてもいい。
休んでもいい。
人生は、根性だけで攻略できるゲームではないのだから。
時には回復アイテムが必要だし、仲間の助けを借りてもいい。
何なら、一度ログアウトしたって構わない。
ただし、セーブデータだけは大切にしておこう。
君の人生は、誰かに笑われるためだけに存在しているわけではない。
### 終節 ネバーギブアップ
最後に、諸君。
この物語の男は、相変わらず自分を弱くて惨めな人間だと思っている。
自分の欠点を数え、過去を振り返り、何度も自分に失望している。
それでも、彼は物語を書いている。
自分の人生を、誰かに届く形に変えようとしている。
それが本当にSOSなのか、ただの悪ふざけなのか。
本人にすら分からない。
しかし、それでいいのかもしれない。
最初から上手に助けを求められる人ばかりではない。
最初から自分の気持ちを理解できる人ばかりでもない。
笑いながらでもいい。
ふざけながらでもいい。
作り話ということにしてもいい。
いつか、自分の本当の気持ちを誰かに伝えられる日が来るのなら。
それもまた、一つの前進なのだろう。
だから、もし君が今、苦しい場所にいるのなら。
独りじゃないよ。
辛いのは、君だけじゃない。
焦らなくていい。
誰かと比べなくていい。
今日できなかったことを、明日できるようになれば、それで十分だ。
頑張ろう。
……おっと、最後に一つ忘れていた。
ネバーギブアップ。
実にありきたりな言葉である。
ここまで散々、壮大な悲劇を語っておいて、最後がそれか。
まったく、締まりのない主人公である。
だが、そんな主人公だからこそ、最後にこの言葉を残しておこう。
**人生は、まだ終わっていない。**
諸君。
次のページをめくる準備はできただろうか。
それでは、またいつか。
――この物語は、今日も懲りずに続いていく。




