少女リリンの証言
クソアマに家に閉じ込められてから、私はずっと叫んだり扉を叩いたりしたけど、さすがに疲れてベッドにふて寝していた。
マジでなんなのよあいつ、自分の子供を撲るとか
ガチの毒親じゃないの!
前世の親も説教ばかりでうざかったけど、さすがに撲るなんてことはしなかったのに……。
あ~あ、まさかヒロインの幼少期がこんなクソだったなんて。だったら前世思い出すの、貴族に引き取られてからのほうがよかったかもな。
しばらくしてからクソアマが戻ってきたけれど、後ろに知らない人を二人引き連れていた。
「この方達が貴女を引き取りたいそうよ」
なんだ、私を引き取るのはあのタリバンとかいう節穴貴族じゃなかったのね。
随分地味な顔のオッサンだけど……まあヒロインの親ってゲームに出てこなかったから、モブとしては十分かもね。
「荷物はまとめてあるから、もう行きなさい」
あ、今すぐでいいんだ。
思いの外あっさりしているけど、これでこの毒親ともおさらばできるわ!
クソアマが嫌に笑顔なのが気になるけど、まあどうせ二度と会わないだろうし大丈夫大丈夫。
ここから私のヒロインライフが始まるのね……楽しみだわ、うふふ!
「ではこれに乗って」
案内されてみれば予想より地味な馬車だわ。ヒロインを出迎えるんだからもっと豪華なデザインにしなさいよね。
乗り心地も最悪~。
せっかく魔法とかがある世界なんだから、その辺上手い具合にして欲しいわ。
「お腹減ったかな? これを食べてごらん」
あら、おやつを用意してくれるなんて気が利くじゃない。
ん~………、やっぱりこの世界の料理って前世に比べてあんまりおいしくないわよね。まあ中世っぽい世界観だから仕方ないかもしれないけど。
そうだわ!
私が王妃になったら前世知識で料理革命を起こしてやるのよ!
いわゆる知識チートってやつだけど別にいいわよね。
だって私ヒロインなんだし!
ふわあ……
なんか眠くなってきたなあ……
次に目が覚めると私は石でできた部屋の真ん中で椅子に固定されていた。
(………え、……なにここ?)
寝起きでぼんやりしていた意識が覚醒していくと困惑する。
(なによこれ、まるで牢屋じゃない!)
怖い!怖い!
まさか誘拐!?
「お目覚めかな?」
だけど突然穏やかな声が耳に入ってきた。
「!?」
こいつは……モブのオッサン!?
「ちょっと! これどういうことよ!? 離して!!」
「手荒なことをして悪かったね。でも万一逃げられては面倒だから、縛らせてもらったよ」
に、逃げ……!?
まさかこのオッサン、そういう趣味で私を連れてきたの!?
「一体なにする気よ! この変態!!」
「ああ、いきなりこんなことになっては混乱するだろうね。ではまず説明するとしよう」
そう言ったオッサンのニコリとした笑顔が妙に作り物めいていて、私の背筋をヒヤリとしたものが伝う。
「実は少し前に、とある学園で騒ぎがあってね」
「さ、騒ぎ?」
オッサンが語る話はこうだ。
オッサンが住んでいる国の由緒ある学園で、婚約者がいる王子様を寝取ろうとしたバカな女がいたらしい。おかげで王子様は王位継承権を剥奪、バカ女はすぐさま捕まって拷問にかけられている最中だそうだ。
「ちょっと! そのバカ女は捕まったんでしょ!? ならなんで私が縛られなきゃならないのよ!!」
どう考えても私は関係ないじゃない!!
そう訴えればオッサンは困ったような顔をして肩を竦めた。
「そこなんだよ。彼女はどれだけ拷問しても、理解不能な言語を交えた妄言しか口にしない。そんな中、別の学園で似たような事件が起こったんだ」
「え……?」
事件があった学園から少し離れた場所で同じことをした女が現れたという。
しかもそっちのバカ女は生徒達に違法薬物を盛っていたらしい。
「さすがに偶然とは思えなくてその女生徒のことを調べてみたら、二人ともしきりに同じ言葉を口にしていることが明らかになったんだ。そして………その女生徒が君のことを話したんだよ」
「え、なんで私!?」
私、村の人以外と話したことなんてないわよ!?
「彼女がミルファ村に一度も訪れたことがないのはすでに調べがついている。なのになぜ、君の名前から年齢まで知っていたのか………その鍵を握りそうなのが、彼女達が口にしていた『言葉』さ」
オッサンはまた張り付けたような笑顔を浮かべる。
………なんだろう、私の中で嫌な予感がする。
「『ひろいん』」
「!?」
「『おとめげえ』」
「あっ……!」
「『こうりゃくたいしょう』………あと『あくやくれいじょう』だったかな?」
「っ!!」
どうして……どうしてその言葉を!?
「これらは全て、拷問にかけた女生徒達がしきりに口にしていた言葉でね。どうやら彼女達は今いるこの世界を物語の中であると思い込んでいるらしい」
まさか……まさか……!!
「そして口を揃えて言う。『自分達は異世界から来た転生者だ』とね」
私以外にも、転生者がいたの!?
「そして君はさっき、『げえむ』と『ひろいん』という単語を口にしていたね」
「ひっ!?」
「その単語も彼女達が喋っていたんだが……君は彼女達とどういう関係だい?」
「し、知らない! そんな女達知らない!!」
そいつらが日本人かどうかはわからないけど、間違いなく知り合いではないはずよ!!
「なら聞くが……君は先ほどタリバン男爵に養子にしろと言っていたようだが、なぜあそこで貴族になれると確信していたんだい?」
「そ、それは……!」
「まるで、男爵があの村に来ることを最初からわかっていたみたいだ」
だってゲームではそうだったから……なんて言えるわけないじゃない!
「ふむ………では『にじのまじょのしゅくふく』という単語は知っているかい?」
「っ!?」
「その顔、どうやら知っているみたいだね」
「し、知らない!!」
「嘘だね。私は拷問官として長いこと罪人と対峙しているけど、嘘をついているかどうかぐらいすぐわかるよ」
まさか……捕まったっていうバカ女達って『虹魔女』のヒロイン!?
確かにゲーム会社同じだったけど、世界観一緒だったの!?
「さて、では本題だ。………君は何を知っている?」
「ひっ……!?」
オッサンがペンチの先で私の顎を上げる。
いわゆる顎クイの態勢になっているけど、部屋の雰囲気とオッサンの笑顔と嫌に錆び付いたペンチのせいで、ただただ恐怖しかない。
嫌だ! 怖い怖い怖い!!
「タリバン家の養子になったあと、君はどうするつもりだったんだい?」
「では、後始末は任せたよ」
「かしこまりました」
扉を閉めて拷問部屋から去っていくファイグを見送ってから、ロランはリリンに視線を向ける。
拷問を終えた後のリリンは激痛と恐怖から白目を向き、顔面は涙と唾液と鼻水を垂れ流してカタカタと震え、喉からは壊れた笛のようなか細い呼吸音しか漏れず下半身は失禁している。
ロランもファイグの命令で様々な罪人の拷問をしてきたが、ここまで幼い少女を拷問するのは初めての試みだった。
成人よりも肉体が脆いせいか殺さないギリギリのラインが分かり難く、慎重に扱わなければならなかった。今回の拷問でそこそこのデータを取れた故、次の機会があった場合の参考にしておこう。
(まあ……こんな異常な子供がそうホイホイと出てきても困るが……)
入ってきた掃除係に指示を出しながら、ロランはため息をつくばかりだった。
ファイグは今回の拷問では、少し質問の内容を変えてみることにした。あえて彼女達の妄言を信じるていで、どんな情報を知っているのかを絞り出す試みだ。
彼女達が何年後にどんな行動をとるのか、どこの家柄・組織のどんな秘密を知っているのか、一つあまさずファイグは全て吐かせた。
そうして調べてみた結果、どうやら彼女達の行動には一定の目的があるらしい。
まず王子を初めとする将来有望な貴族令息を侍らせたいというもの。
おそらくその結果が最初の事件での第一王子のアレなのだろうが、なぜそんはことをするのかと動機を問いただせば『イケメンとイチャイチャしたかったから』と、また初めて聞く言語を交えて宣いだした。
言葉を直訳させると『眉目秀麗な殿方に愛されたい』という意味らしいが、アバズレより度を越しているなんともイカれた動機だ。
さらに厄介なことに彼女達はこれらが必ずそうなると、何の根拠もなく信じ込んでいたらしい。ここまで凝った妄想を信じこめるなど、いよいよ本当に何かの病気ではないかとファイグの部下達の表情は険しくなる一方だ。
そしてリリンから聞き出した、新しい『ひろいん』の情報。それをもとに調べてみた結果、彼女が語る次の『物語の舞台』が判明した。
隣国クヴェニラ商国、聖アルマンス学園。
リリンによればあと二年以内に、そこで『ひろいん』が将来有望な若き貴族達と恋物語を始めるらしい。
「クヴェニラか………」
自国内であるばある程度公爵家の権限を使って捕まえるなりできたが、他国で行動を起こすとなると国際問題に発展する危険性があり、容易に首を突っ込むべきではないだろう。
ならどうするべきか……。
ファイグは少し考えこんでから、使用人にこう命じた。
「手紙を書く。宛先はジョドゥンに頼む」




