イライジェル夫人と農夫ジョジオの後悔
断罪イベント後の転生ヒドインの末路を見る度に、「なんでご家族は娘が問題を起こしはじめた時点で、実家に戻すとかしなかったんだろう」と疑問に思ってしまう……
・イライジェル伯爵夫人の証言
な、なんなんですか……?
卒業式の事件に関する聞き込み!?
あの事件のことはもう蒸し返さないでください!
え、王命?
………王命なら、仕方ないですね。
ミアナがあんなことをした動機がなにかって?
そんなの私達が知りたいですよ!
そもそも引き取った当時はあんな子じゃなかったんです!
彼女はもともとイライジェル家とは分家の男爵家の子で、5歳の時に両親が流行り病で亡くなったんです。初めて出会ったのは私達が男爵夫妻の葬式に参列した時で、私達は子宝に恵まれなかったから、夫妻の棺に泣きつく彼女を気の毒に思って養子として引き取りました。
その頃は貴族令嬢のマナー学習にも真面目に取り組んで、聞き分けのいい素直な子だったんです。
だけど10歳になったある時、急に高熱に魘されだして三日三晩生死を彷徨うことになったんです。必死の看病のかいあってか、あの子は元気になりましたけど………そこからおかしくなりはじめたんです。
体調が良くなってからのあの子は何かにつけて癇癪を起こすようになり、当時仲の良かったマナーの先生にも反抗的な態度をするようになってしまいました。『ひろいん』だの『おとめげ』だの、時々わけのわからない言葉を喋りだして、お茶会にも連れ出せない始末で……。
なんでそんな状態で入学させたのかって、学園で他人と交流すれば自分の汚点を自覚できるのかと思ったんです。
なのにこんな……よりにもよって王家を侮辱する真似を!
ならどうしてもっと早く止めなかったのかって……だってあの子、入学してから一度もこっちに帰ってこないし、手紙も寄越さなかったからあの子の現状なんて全くわからなかったんです!
社交界でも誰もあの子が学園でしでかしたことを教えてくれず、ただ私達を遠目に見て嘲笑ってくるばかりで恥ずかしくて……!
こんなことになるなら、あのまま死んでしまえばよかったのに!
もうほうっておいてください!
・ハンナの実父ジョジオの証言
やったのはバカ娘だけです!
家内と末娘は関係ありません!
いいから詳しく話してくれ?
話します! 話しますからどうか!
昔のハンナは仕事の手伝いをしてくれる良い子だったんです。笑顔を絶やさなくて他人を思いやれる、自慢の娘でした。
それがどうしてあんなことに……!
きっかけは確か、あいつが八つになった頃でしたか。近所の友達と遊んでいる時に石垣から転げ落ちて、ハンナが頭を打っちまったんです。居合わせた友達がうちに知らせにきて、家内は青ざめちまって慌てて医者を呼んだんですが、幸い怪我のほうは軽いたんこぶができただけで済みやした。
でもその翌日から、あいつは急に人が変わったみたいにワガママになっちまったんです。
最初は俺達が仕事にかまけてふてくされただけかと思ってたんですが、あまりにも聞き分けがなくてイライラしてついひっぱたくこともあるくらいでして。医者にもう一度見てもらっても、頭の怪我はもう治っているし原因がわからないって言い出す始末で……!
おかげで仲の良かった友達はもうあいつと遊びたくないって絶交されて、近所の人らからも腫れ物扱いされる始末でしたよ。
これだけでもみっともない話だってのに、あいつ今度は軍学校に通いたいとか抜かしやがったんですよ!
こんな常識知らずをドミオン公爵の敷地に入れたら打ち首にされちまうって、俺も家内も猛反対しやした。なのにあいつ、家から勝手に金をくすねて出ていきやがったんですよ!
そりゃ親がいなくなった子供をほったらかしにするのは、外聞が悪いだろうって最初は探してはみましたけど、もう正直厄介払いできて清々したくらいでした。
なのにまさか……軍学校でそんなバカなことをやりやがって……!
もう処刑なりなんなりしてくれていいですから!
お願いです! 最近家内が女の子を生んだばかりなんで、こんなことが広まればあの子は犯罪者の妹だと後ろ指さされちまう!
俺とあのバカ娘の首を差し上げますから、二人のことは見逃してください!
紅茶を一口飲みながら報告書の内容に目を通したファイグは、その内容に首を傾げてしまう。
件の女子生徒達はどちらも幼少期は素直で思いやりのある性格だったと証言されており、拷問の時に会話した印象とは全くの真逆である。
ファイグは当初見えないところで親が彼女達を虐待した結果性格が歪んだのかと思ったが、彼らは事件の事後処理で憔悴している様子ではあるものの、面と向かって会話する限り毒親と呼べるほど酷い人物ではなさそうであった。
ではなぜ彼女達はあれほどイカれた性格に育ってしまったのか。鍵を握りそうなのがその中でも非常に興味深いある共通情報であった。
どうやら両者とも幼少期に原因不明の高熱あるいは頭部打撲を受け、回復以降から現在のワガママで短絡的で癇癪持ちな性格に変わってしまったらしい。
となるともしかしたらなんらかの病が原因だろうかと、エスティオス家専属の医者に相談してみようかと考えていたところだった。
コンコン
執務室のドアをノックする音に顔を上げる。
「入りなさい」
入室を促され現れたのは、腹心のロヴァン伯爵だった。
「失礼します、ファイグ公爵」
「なにかな?」
「例のミルファ村の調査結果をまとめた報告書が完成しました」
「ふむ……」
先の拷問でハンナから絞り出した妄言曰く、その村にはリリンという名の娘が母親と一緒に住んでいて、近いうちに貴族の養子として引き取られるらしい。
証言と呼ぶには荒唐無稽としか言い様がないが、ほかに手がかりがない以上は調べるしかない。
どうせ大したものは出ないだろうと手渡された書類に目を通していくファイグだったが、村民の名簿欄のある部分を読むと驚愕する。
そこには確かに、リリンという名前があったのだ。
年齢も容姿もハンナの供述と合致するが、彼女がそんな村に行ったことはないことは親族や学園関係者を洗い出してすでに確認ずみだ。なのに会ったこともないはずの村娘の名前をハンナは言い当てている。
将来その娘が本当に貴族の養子になるかは知らないが、少なくともリリンという娘が実在することは間違いないらしい。
「………」
『嘘じゃない! 私は転生者なんだってば!』
拷問してなお口にする支離滅裂な言葉。
本来知り得ないはずの出所不明の知識。
これは偶然なのか?
それとも……
ファイグはしばし思案したのちにガタリと椅子から立ち上がる。
「………ロヴァン、馬車を手配できるかな?」
「どちらに行かれるのですか?」
「ミルファ村に向かう」
エスティオス家には代々伝わる教えがある。
情報は自らの足と耳で稼げ。
拷問は自らの手で行え。
と。




