ノーマン・ドミオン公爵の追想
「以上、これといった収穫はございませんでした」
拷問から得た情報を報告し、ファイグはドミオン公爵に頭を下げる。
「そうか、結局あの悪女は口を割らなかったのか」
眉間に皺を寄せてそう呟くドミオンは、自身が運営する領地で起きた薬物事件に対し、言動の端から首謀者の小娘に対する義憤が見てとれる。
「御力添えできず、申し訳ございません」
「いや、貴殿らが謝罪する必要はない。むしろ陛下直属の拷問官殿に苦労をかけて申し訳ない」
ファイグはこのように王都以外で仕事をする場合、身分を偽り表向きは一拷問官で通している。公爵はもともと影の薄いファイグの顔など覚えていないだろうが、念のため仮面で素顔を隠している。
彼は自分を同じ公爵家の貴族とは思っていないはずなのに律儀に労ってくれるあたり、本当に実直な方だ。
「………」
ここでふと公爵は、なぜか顎に手を添えて考えこむ仕草をする。
「いかがなさいましたか?」
「いや………実は過去にも似たような事件があったものでな」
「………似たような事件?」
公爵の言葉にファイグは何か引っかかりを覚えた。参考までに詳しく聞かせていただきたいと願えば、もう終わったことではあるがと前置きをしたうえで
公爵は思いだすように語りだすのだった。
確か30年前のことだと言う。
まだ公爵子息だった彼は、当時ユストゥラ帝国に留学していた第二王子………現陛下の護衛としてお供していた。同級生には現皇帝である第一皇子をはじめ有能な貴族子息が多くいたのだが、その頃とある男爵令嬢が第一皇子に言い寄り、彼の婚約者を殺そうとしたらしい。しかも信じられないことに毒などで秘密裏に暗殺するとかではなく、大勢の貴族が集まるパーティーで錯乱しながらナイフを持って切りかかったのだという。幸い公爵令嬢が怪我をすることはなく、男爵令嬢はその場で取り押さえられたらしい。
そんな大それたことをしでかす女がいるのかと、ファイグは仮面の下で目を瞬かせる。
「その罪人は今どちらに?」
「とっくに処刑されたよ。第一皇子の婚約者で、国有数の公爵家のご令嬢を殺害しようとしたんだ、王都の広場で火炙りにされたらしい」
淡々と告げられた男爵令嬢の末路に、まあ当然の報いかとファイグは小さくため息をつく。
その後公爵と別れてから、ファイグは部下と今後の相談をする。
30年前の事件に関しては犯人が死んでしまった以上、今さら当時の関係者を調べるのは無意味であると判断して、肉親ならば彼女達の動機に心当たりがあるかもしれないと次はハンナとミアナの身内に聞き込みをすることにする。
それにしても一連の事件の犯人達はいずれも支離滅裂で杜撰な行動ばかりで、おまけに虚言癖と妄想癖を患っているという有り様で黒幕に関する手がかりが全く見えない。
このまま何も出なければ、捜査が行き詰まってしまうが……
「………」
ふとファイグは少し考えこんでから、部下にあることを命じる。
「一応、ミルファ村とやらを調べてみてくれないか」
「あの娘の妄言を信じるのですか?」
意外だと目を見開く部下にファイグはかぶりを振る。
「………あくまで確認だ」
公共の場で刃物持って襲いかかるなんて、まず重罪確定だろうな…




