新人娼婦ルーティエの研修
「離せ! 離せよクソババア!!」
躾部屋と呼ばれる部屋に連れていかれたルーティエは、両手を鎖に繋がれ頭上から吊るされるもなおストラディアへの罵声をやめない。
「また随分と元気なのを買い取ったのだな」
ロヴァンは腕を組んで暴れる彼女を眺める。
「メンタル弱いやつだと、すぐ自殺しちまうからねえ」
キシシと嘲笑うストラディアは部屋に据えられた引き出しに手を伸ばしすと、二段目を開けて中を探る。
取り出したのは長く使い込まれたであろう長い鞭で、ストラディアは二三回ほど床を軽く叩いてからルーティエの背中に向けて勢いよく振るう。
「ああああああああ!!」
痛々しく響く鞭の音が、彼女の苦痛がいかほどかを物語っている。
「や、やめろっ! やめろお!! ちくしょうっ、なんでこんなっ、ぎゃああああああああ!!」
口答えするごとに鞭の回数が増えていき、背中の布がズタズタになって破れた隙間から覗く皮膚には、大きなミミズ腫れが浮かびあがっていく。
「………なあ、一つ気になるのだが」
しばし眺めていたロヴァンは、ふとあることに気づいてグロッカンに声をかける。
「なんです?」
「仮にも娼婦として売るのなら、無闇に傷痕を残すと価値が下がるのではないか?」
もしかしたらそういう娘に興奮する男もいるかもしれないが、大多数は綺麗な状態を楽しむものだ。これだけ傷を残すのはまずいのではないかと聞く。
「ああ、その辺なら心配いらないよ」
ストラディアが顎で指示すると、小さく頷いたグロッカンがルーティエに近寄り手をかざすと彼女の身体が淡く光りだし、ミミズ腫れが消えて傷が塞がっていく。
かなり低位ではあるが、どうやら彼は回復魔法が使えるようだ。
その後もルーティエが喚き立てる度に鞭打ちを長引かせ、鞭を打っては治しを繰り返していく。その度に彼女の背中は痛々しい腫れと裂傷から血が滲み、布が赤黒く汚れていく。
さすがのルーティエも喋るとより酷い目にあうと学習したのか、途中から悪態をつくことこそなくなったがそれでも涙目でストラディア達を睨んでくる。
(………随分見上げた根性だな)
それを見たロヴァンは意外だと感嘆する。彼女は今まで見てきた『ひろいん』の中でも、かなりメンタルが強い部類なのかもしれない。
ストラディアはある程度痛めつけて気が済んだのか、一旦鞭打ちをやめてロヴァンに振り被る。
「で、どうだい。あんたもやってみる?」
ストラディアに鞭を差し出されたロヴァンは、しばしそれを見つめてから笑みで返す。
「………では、お言葉に甘えて」
だが彼はストラディアの鞭をスルーして彼女の横を通り過ぎると、自身の雑嚢からナイフを一本取り出した。
『え?』
呆気に取られる三人を尻目に、ロヴァンはナイフの刃先をルーティエの掌に向けて……
「ぎゃああああああああ!?」
さすがのルーティエも今までで一番の悲鳴を上げる。対するロヴァンは気にもとめず、なおもナイフを乱雑に動かしていく。
「いだっ、いだいぃ!! やだやめで!! いやあぁああああ!!」
ボタボタと血が床に滴り落ち、ルーティエは頭をふり乱して泣きじゃくる。
「ちょ、旦那! やり過ぎですって!」
ここで我に返ったグロッカンが慌てて止めに入る。
「しかし、客も躾してもいいと言っていたではないか」
なにか間違えたのかと、不思議そうに小首を傾げるロヴァンにストラディアが怒鳴る。
「程度ってもんを考えてくれよ! グロッカンが使える回復魔法でも限度があるんだ。致命傷でくたばったら元も子もないし、せめて買い取った分稼がせなきゃ儲けにならないんだよ!」
それを聞いてはたとなる。
言われてみれば確かにそうだ、やっぱり新品のほうが受けがいいだろう。
「ふむ、なるほど」
ナイフの峰をトントンと小突きながらどうするか考えこむロヴァンだったが、
「ならば、痕を残さなければいいのだな」
『え?』
抉った掌に手をかざし、回復魔法をかけはじめた。
淡い輝きに包まれた掌の傷が、痕すら残らず消えていく。
『な………!?』
それが明らかにグロッカンのものより上位の回復魔法だとわかり、三人は驚愕してしまう。
「これなら文句はないだろう?」
ロヴァンが美しい相貌で微笑めば、三人は互いに顔を見合わせ視線だけで会話してからため息をつく。
「………傷は残さないどくれ」
「ああ」
暗に傷さえ残さなければ問題ないという許可をもらい、ロヴァンは笑顔で頷く。
対するルーティエは、これから自身が受ける仕打ちを想像して青ざめる。
「は!? ちょっ、ふざけんなよ! なに勝手に決めっ……うああぁぁああああぁああ!?」
反論しようとするもまたナイフを突き刺さされる。
「ああそうだ。少しの間、二人きりにしてくれないか?」
『え………』
ここでまた思いついたように告げたロヴァンの言葉に、三人はまた顔を見合わせる。これほど過激な加虐嗜好の輩から迂闊に目を離していいものかと一度コソコソと話し合いはしたが、最終的に『絶対に殺すな』と念押ししたうえで部屋から出ていった。
「………さて、いくつか聞きたいことがあるのだが」
「あがああぁぁぁぁ!?」
ルーティエの顔中からあらゆる体液が流れ、ハヒッハヒッと過呼吸になる。
「お前、『にほん』という国を知っているか?」
耳元で囁くと、彼女はバッと弾かれたように顔を上げる。
「あ、あんた………なんでそれを!?」
「知っているんだな、なら話が早い」
「ヒッ!?」
すかさず眼球に刃先を向ければ、ルーティエはガチガチと歯を鳴らして震える。
「少し、お前にやってもらいたいことがあるんだが」




