↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

情報屋パジャカの耳寄り情報

マリエル事件の記録を全て調べあげたファイグは、定期報告のために玉座の間を訪れていた。


「やはりマリエルも、同じ言葉を度々用いていたようです」


「そうなのか……」


クロエ公爵夫人を始め、当時のことを知る人間達に詳しく話を聞いてみると、マリエルはミアナ達が用いていた隠語を度々口にしていたことが明らかになった。


「まさかマリエルも、何らかの組織の刺客だったかもしれんのか……」


「もしそうならば、黒幕は何十年も前から我が国を狙っていた可能性が高いです」


眉間に皺を寄せて考えこむデイビスだったが、同時にいささか疑問もある。

女囚達の主な言動から、明確に国の中枢に根付こうと企てているのが分かる一方、実行者はいずれもお頭が足りず計画も杜撰という矛盾した行動パターンばかりである。

彼女達を焚き付けた黒幕とは一体何者なのか。

改めて今回の事件の異質さに首を傾げる二人であった。













ファイグが登城していた頃、ロヴァンは歓楽街に足を運んでいた。


「はあ……」


実行者こそ確保しているが、いずれも黒幕と思える存在にたどり着けず、捜査に進展がないロヴァンは気が滅入っていた。

なので久々の休日を機に、何か物珍しいものでもないかと普段行かない区域を歩いていく。その際に何度も呼び込みの娼婦達に声をかけられるが、生憎今は気乗りしない。





「あん? ロヴァンじゃねえか」


と、ここで聞き覚えのある声をかけられロヴァンは振り返る。そこにいたのは三白眼気味のつり目に丸眼鏡をした色黒の男で、ニヤリと笑いながら壁に凭れて手を振っていた。

彼はロヴァンの馴染みの情報屋、パジャカだ。


「どうしたどうした、色男が台無しだぞ〜?」


「………そうか」


軽口に生返事で返せば、パジャカは長い付き合いからロヴァンが何に悩んでいるのかを察する。


「その様子だとまた仕事関係か。何か欲しい情報はあるかい?」


「………だったら」


ロヴァンは少し悩んだが、懐から紙を一枚取り出しパジャカに手渡す。


「これらの単語に心当たりはないか?」


それは女囚達から引き出した、例の言葉の一部が書いてある紙だった。


「………いや知らねえな、どこの国の言語だ?」


パジャカは一読してみるも、首を傾げて返却する。


「どうやら何かの組織で使われている暗号らしい」


「………なんか悪かったな」


さすがのパジャカでも知らなかったかと内心で落胆していると、そんなつもりはなかったのだがどうやら顔に出ていたらしくパジャカが謝罪してきた。






「そうそう、この間面白い娼館を見かけたんだよな 」


次いでサービスのつもりなのか、新しい情報を提供してきた。




「面白い娼館?」


こういった情報は何かの時に役立つかもしれないと思い、ロヴァンは財布から銀貨を一枚手に取り軽く投げる。パジャカはそれを片手でキャッチすると喋り始めた。


「スラムの安っすい娼館でさ、そこでは接客態度がクソ悪い娼婦を専門に取り扱っているんだよ。客に悪口言うわ選り好みするわで、しょっちゅう店主に棒で叩かれてばかりなんだ。なのにどいつもこいつも全然反省しないし、年がら年中お互いの悪口言い合って取っ組み合いの喧嘩が絶えないんだとよ」


「そんな店、需要あるのか?」


「それがどこの国にも物好きってのはいるみたいでな、その店は娼婦に殴る蹴るするのを許可されているんだとよ。クソな性格のブス共を痛めつけて、憂さ晴らししたいってクズ男達にご贔屓にされているとさ」


「そうか……」


話を聞く限り随分と酷い店だ。

さらに詳しく聞くと、いずれも実家で問題行為を繰り返した末に勘当されたり売られたりした女の中で、普通の娼館でもトラブルを起こしてばかりな問題児ばかりを集めた店だという。

この手の女は無駄にプライドが高いせいで、娼婦という最底辺の地位に落ちぶれた事実を認められないのだろう。しかしそんな態度では明日の飯も手に入らないというのに、確かに愚かな女達だ。


「しかもさ~、その娼婦達もおっかしいのなんのって。どいつもこいつも『自分達が今いる世界が物語で、自分はその主人公なんだ』って抜かしているのさ。バカなやつらだろう?」


だがここでゲラゲラと笑うパジャカの言葉に、ロヴァンは目を見開く。


「……!?」


自分達が今いる世界が物語で、自分はその主人公。

ちょうど、そんな妄想を毎日口にする女達を、ロヴァンは何度も見てきたところだった。






「………おい、パジャカ」


「ん?」


パジャカの肩を掴み、ロヴァンは鋭い眼差しで見据える。


「その娼館、どこにある?」












パジャカに案内されながら、ロヴァンは入り組んだ道を歩いていく。この辺りは歓楽街の中でも一番治安が悪いと評判の場所で、奥へ進むごとに汚らしい浮浪者が座り込んでいたり、麻薬中毒でケタケタ笑っていたりする者を横目で眺める。


「ここだよ」


パジャカか立ち止まった場所は見た目は古びた外装の娼館だが、入り口の灯りと中から感じる人の気配が廃墟ではないと証明している。


「ここが……?」


「そ、店名は『泥中の腐果亭』」


外観に違わぬいかにもいかがわしそうな店名に、ロヴァンは思わず真顔になってしまう。




バシンッ!!



『いやああああああああああああああああ!!』



と、ここで娼館から鞭を叩く音と甲高い女の悲鳴が響き、パジャカは苦笑する。


「あはは……見ての通りボロい娼館だからさ、音が丸聞こえなんだわ」


「………そのようだな」



取り敢えず二人は中に入ってみることにした。









「あ〜、いらっしゃいませ」


受付に立っていたのは茶色いフードを被った中年の男で、パジャカの顔を見てニヤニヤと下品に笑っている。


「これはこれはパジャカさん、今日はうちをお使いになられるのでしょうか?」


「いや、今日この店に用があるのはこいつだ」


パジャカが後ろのロヴァンを指差せば、ロヴァンの存在に気付いた男は彼を上から下まで観察してから頷き、揉み手で媚びへつらってくる。


「ほう、これはこれは………なかなかの色男ですねえ。旦那くらいの面なら、娼婦達も喜んで名乗り出るでしょうに」


彼からすればいい金蔓が出来たというだけの話なのだろう。


「…………いくつか聞きたいのだが」


「なんです?」


「この店の娼婦達は、大層性根が腐った女ばかりというのは本当か?」


「ええ、ええ。どいつもこいつも見た目とプライドの高さしか取り柄のない救いようのねえクソ女ばかりでして、なのでうちじゃ娼婦の殴る蹴るもお客様のご自由にできますよ」






『いやああああああ! 助けてええええええ!!』






「………そういう女はどこから仕入れてくるんだ?」


「そりゃあもう、色々なところですかねえ。高級娼館から追い出された問題児、親の仕事を手伝わねえ穀潰し、孤児院で弱い者いじめばっかするクソガキ、御貴族様が手を焼くワガママ娘まで……そういった性根の曲がった女ってのは結構いるものなんですよ」




『やだっ! やだあ! 叩かないでっ、お願いやめてえ!!』





「………それを店長が安く買い取ってやるんですが、厄介払いできるだけじゃなく小金も貰えるってんで、親も孤児院も喜んで売ってくれるというわけなんですわ」


「買い取られるのは何歳からだ?」


「いくつからでもいいそうですよ。なにせ常連様の中には、年端もいかねえガキを甚振りたいって趣向の方もいらっしゃいますからね。それが反抗的なら、なおさら楽しめるとか……」






『ご、ごめんなさいごめんなさい! もう悪口言いませんから………だからっ、だからもう殴らないでえ!!』






「そうか……ならほかにも聞きたいのだが」


ここでロヴァンは本題に入るべく、懐から紙を取り出した。


「これに書かれている単語に覚えはないか?」


男は手渡された紙に書かれた文字をしばし読んでから、思い出したように頷いた。


「これは………ああ、あの女共がよく口にしてる言葉ですね」


男のその言葉に、いきなり『当たり』を引いたかとロヴァンの目が見開かれる。


「………何人くらいが言っている?」


「ざっと全体の半分ぐらいですかね? いずれも上位貴族様に喧嘩を売ったり、礼儀作法も学べない出来損ないばかりで親から見捨てられたやつらですよ」






『うわあああっ! 触るんじゃねえこのキモ蛙! あたしのハジメテは推しにあげるって決めてグゲェッ!?』







(………これは首を絞められているな)


拷問官としての経験からそう察したロヴァンだが、僅かに聞こえた『オシ』という単語に眉根がピクリとはねる。確かこれも女囚達が度々口にしていた単語の一つだったはず。





と、ここで店の中に誰かが入ってきた。



「今帰ったよ、グロッカン」


「ああ店長、おかえりなさい」


その人物は煙管を手に持つ妙齢ながら妖艶な雰囲気を纏う女で、傍らには肩に何かを抱えた屈曲な大男が付き従っている。男が床に投げ捨てたそれは、縄でぐるぐる巻きにされた状態の、粗末な衣服を着た茶髪の若い娘だった。口に布を噛ませられているせいで喋れないのか、彼女は唸りながら女を睨んでいる。


「……こいつは合格だ。常連に回しときな」


「へへへ、承知しやした」



ロヴァンは隣のパジャカに小声で囁く。



(パジャカ、彼女は?)


(ストラディア姐さんだな。この店のオーナーで、この辺り一帯を仕切る裏の支配者と呼ばれている人だ)



女……ストラディアは上機嫌そうに煙管の煙を吸うが、ここでロヴァンの存在に気付く。


「……あん? あんた見ない顔だね、新しい客かい?」


「まあ、そんなところだ。貴女がこの娼館の店主とお見受けする」


「そうさ、あたしはストラディア。この掃き溜めはあたしの縄張りさ」


煙管を燻らせながらニヤリと笑うストラディアから視線を外し、ロヴァンはちらりと足元の娘に視線を向ける。


「……この娘はどこから仕入れたものだ?」


「こいつはねえ……近場の安い酒場の給仕だったんだけど、ミズーディ商会の御兄妹に喧嘩売ったらしくてクビにされたんだよ」



ミズーディ商会といえば国内でも豪商と名高い商人一族だ。確か少し前に大層賢いと評判の養子をつけてから、販路を拡大し勢いづいていると聞く。

そこの兄妹を敵に回すなど、確かに愚かにもほどがあるが……。


娘はなおも逃げようと、陸に上がった魚のように身を捻って暴れている。ロヴァンは少し考えてからストラディアに聞いてみた。


「………少し、彼女に話を聞いてみてもいいか?」


「あん? 別に構わないけど……かなりうるさいガキだよ」


ストラディアが大男に目配せして、娘の口から布を外させた。


「はぁっ………このクソババア!! どこよここっ、私に何する気!?」


娘は開口一番にストラディアに向けて罵倒してくるが、彼女は間髪入れずに娘の腹を蹴りあげる。




「ぶげえええ!!」



汚い悲鳴を上げて唾液を吐きながら床を転がる姿は、さながら痙攣する芋虫のようだ。


「まだ学習出来てないみたいだねえ……」


「いぃっいだい! いだいいだいいだいぃ! 踏むなあ!!」


ストラディアが嗜虐的な笑みを浮かべながらヒールの先で娘の顔を踏みつける。尖ったヒールに頬を圧迫される痛みに涙目になるも、娘はまだ反抗する意思が残っているのか目の奥の怒りは消えていない。

ロヴァンはしゃがみ込んで彼女と目線を併せてから問いかける。


「おい、お前」


「何よ!?」


「ミズーディ商会に喧嘩を売ったそうだが、なぜそんなことをした?」


「なんでって、あいつがっ………ミモザが悪いのよ! トーマスは私の攻略対象なのに、あいつがモブのクセに横取りしやがったのよ!?」


『コーリャクタイショウ』。

ロヴァンは例の女囚達と同じ単語を口にする彼女をやはりと凝視しだす。


こいつは『クロ』だ。


ならばもっと聞き出せないかと敢えて会話を続けてみる。


「………横取りも何も、二人は義理とはいえ兄妹でしかないぞ?」


「そんなはずないわよ! トーマスに妹が出来るなんて設定なかったはずだもん!!」


なおも意味不明な理屈を捏ねて頭ごなしに否定する娘は、顔を伏せてブツブツと呟く。


「そうよ………きっとあいつも転生者だったんだわ! 私が貴族の養子になってないのも、乙女ゲーの舞台に行けないのも、きっとあいつがシナリオを滅茶苦茶にしたせいよぐえ!?」



支離滅裂としか言い様のない言い分に、ストラディアが顔面を蹴り上げてから呆れたように煙を吹く。


「ま〜だ言ってんのかい、このイカれ娘は」


「店長、もう早いとこ躾に行きましょうよ」


傍らの大男もうんざりした目で娘を睨みながら、ストラディアに提案する。


「言われなくてもそうするつもりさ」


また布を噛ませて言葉を封じさせるが、それでも娘はうぅうぅ唸りながらジタバタと藻掻いている。




「………あ、そうだお客さん。ちょうど新しい商品が入荷したところですし、よかったら見学してきます?」


ここで受付の男がニヤニヤしながらロヴァンに聞く。


「見学?」


「うちの店では居合わせたお客様限定で、仕入れたての女を躾る行程を眺められるんです。なんならお客様も躾ができますよ」


躾と言っても、逆らう気力がなくなるまで鞭打ちするだけのもののようだが、これが客の間で高評価らしい。



ロヴァンは少し考えこんでいたが、ふと何か思いついたらしく腰の雑嚢を探りだす。



「…………それなら頼みがある」


取り出されたのは掌大の子袋で、それを受付のテーブルの上にジャラリと音を立てて乗せる。


「こ、こいつは……!」


受付の男が中身を確認して驚く。

中には小銀貨がギッシリ詰まっているではないか。



「店を閉めてからでいい。この娼館にいる娼婦達を、全て集めてきてくれ」


ロヴァンさんは実はイケメンです。


こんな風に『そういう方向性の娼館』に性格ドブカス女達を押し込んでしまえば、善良な人達がDV野郎達の暴力を受けなくて済むんじゃないのかなって思いまして…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。