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マリエル事件の調査報告書

・数学科教師、モノクの証言記録。



はい、マリエルはその年に入った生徒の中でも、とりわけ問題児と評判でした。彼女は上位貴族に何度も言い寄り、我々教師達に注意されても何度反省文を書かせられても全く懲りず、王子達の辟易も当然と言える恥知らずな娘です。



それがいつからか、ギアネス殿下達が彼女に入れ込むようになってしまったのです。

きっかけは確か………彼女が通り過ぎた後に、砂糖のような甘ったるい匂いがし始めた頃だったでしょうか。

殿下達は人目も憚らずマリエルにべったりしだし、婚約者達を疎かにしていきやがて横柄になりはじめました。あまりの醜態から忠告してきた婚約者に対しても、マリエルをイジメてきたと言いがかりをつけて罵倒する姿が度々見られ、彼らへ向ける周囲の目は冷たく当時の学園内の空気はピリピリしていましたよ。


このいささか目に余る問題に対し、まず行動を起こしたのが我々教師陣の筆頭であるレイモン先生でした。

王侯貴族としての立場的には向こうが上ですが、学内においては教師が厳しく生徒を指導しなければならない以上、この騒ぎを見過ごすわけにはいきません。


『殿下、どうかご自重くださいませ』


レイモン先生はまず殿下達を生徒指導室に呼び出して、これ以上横暴を働かないでほしいと教師達の総意を伝えたのですが、対するギアネス殿下は端正な顔を怒りにゆがめてこう叫ばれたのです。


『横暴? 俺達はクロエ達にイジメられるマリエルを守っているだけだ! それなのになぜ俺達がこの場に呼び出されなければならんのだ!?』


『イジメ云々はこの際どうでもいいことです。私共が言いたいのは、王族としての自覚をしていただきたいということでして……』


正直なところ当時の我々は、クロエ様達が嫌がらせをするような人物ではないことを理解していました。仮に本当だったとしても、非があるのはどう見てもマリエルのほうであるとほかの生徒達も察していたようでしたよ。むしろ実家である公爵家に相談し、マリエルの実家に抗議するということをいまだしていない分、まだ温情なくらいだったのではないでしょうか?


『どうでもいいだと!? 貴様、教師のくせにマリエルの苦しみを見て見ぬふりするつもりか! この下衆があ!!』


ところがギアネス殿下は一体なぜそう解釈したのか、突然激怒しだしてレイモン先生に殴りかかったのです。

目の前で同僚が殴られたことに、頭が真っ白になる私達はおろか殴られたレイモン先生当人ですら、まさか殿下がこのような蛮行に及ぶとは思ってもみなかったらしく呆然としていました。

今の話のどこに、そこまで激怒する要素があったというのでしょうか。

そんな中、一足先に我に返ったのは魔法科教師のウィルキナ先生で、彼女は慌てて魔法で殿下達を拘束しました。


『殿下がご乱心なされた! 衛兵! 殿下達を拘束せよ!!』


ウィルキナ先生が控えていた学園付きの衛兵達に呼びかけ、殿下達はまるで罪人のようにその場から引きずられていきました。しかし彼らはそんな状況になってもなお大声で叫び続けたのでした。



『離せ! 俺は王太子だぞ、この無礼者!!』







今思い返しても、おかしいことばかりでした。

ギアネス殿下は以前から高圧的な面はあったものの、いくらなんでもここまで凶暴かつ考えなしではなかったはずです。

居合わせた我々教師達は王子の変貌ぶりにただ困惑していましたが、すぐさま王城にことの次第を通達しました。


これが私から語れる、当時の状況です。













・王宮魔道士、ジェイコブの証言記録




はい……ギアネス殿下の乱心ぶりから、もしかしたら洗脳魔法の疑いがあるかもしれないと睨んだ学園側は、まず王宮魔道士である我々の派遣を要請したわけです。

もし本当に洗脳魔法がかけられていたのなら、殿下達の身体に術者の魔力が残っていて、そこから辿ることができますからね。

しかし暴れる彼らの身体を調べたところ、洗脳魔法の痕跡はありませんでした。ほかにも様々な魔法の可能性を考慮しましたがいずれも反応はなく、何が原因なのだろうと我々は頭を悩ませるしかありませんでしたよ。


ところがしばらくすると、ギアネス殿下は急に「菓子が欲しい」と我々に訴えてきたのです。

立場的に殿下達は謹慎中の身、無論そんなものを出せるわけもなくその願いは却下されたのですが……すると殿下達はいいから寄越せと大声で騒ぎ続け、徐々に暴れだしていったのです。最初こそ我々は余計な刺激を与えないように無視に徹していたのですが、時間が経つにつれてそれはどんどん酷くなっていったのです。


子供の駄々とはわけが違います。

あれはむしろ、檻に閉じ込められた飢えた猛獣のようでしたよ。


それを見て異変に気づいたのは、当時魔道士隊に動向していた騎士団の副団長だったのです。

曰く、部下達が別件で追っている違法薬物の中毒症状に似ていると。

それを聞いた我々はすぐさま医師達を呼び、彼らの血液を採取して調べたところ、異常な数値の薬物反応が出ていたことがわかったのです。


あの時は本当に青ざめましたよ……。

未来ある王太子殿下が、麻薬に蝕まれていただなんて。


これらを受け、事態を重く見た騎士団がいろいろと調べた末に、それが当時スラムに蔓延していた惚れ薬『アムロス』であることが明らかになったわけです。

なぜスラムで取り引きされている薬物を王太子が口にしてしまったのか、まず疑われたのは当時の毒見係でした。

彼は騎士団の尋問では黙秘を通していましたが、最終的に拷問の末『ある女生徒から頼まれた』ことを白状しました。



それがマリエル・リシェッタだったのです。



この報せを受けた王家はリシェッタ家が国家反逆を企てていると疑い、すぐさま領地から男爵夫妻を取り押さえましたが、両親はそんなことは知らないと涙ながらに否定したのです。

一方のマリエルも捕らえられたのですが、彼女は騎士団の尋問に対し支離滅裂な言動をするだけで、なぜこのようなことをしたのか詳細な説明はしませんでした。このことから彼女も薬物中毒になっていると判断し、王家はこの事件を『中毒症状で狂人に成り果ててしまった令嬢の暴挙』と結論づけられたのです。



その後……結局重度の薬物中毒になってしまったギアネス殿下は王位継承権が白紙になり、代わりに帝国に留学していた第二王子が呼び戻されたというわけです。

その他の貴族子息様方も、似たような沙汰を下されたそうで……。


唯一の幸いといえば、再起不能になってしまったせいで婚約が破棄されてしまった彼らの元婚約者のご令嬢様方が、その後それぞれ新しい婚約者に恵まれたことくらいでしょうか。


本当に、恐ろしい事件でしたねえ。

学内で生徒が問題行動起こしたら、まず先生が注意とかするんじゃないのかなって思って書いてみました。

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