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魔女マリエル

それは今から30年前、現王デイビスがまだ第二王子だった頃にまで遡る。


当時王位継承権第一位と目されていたギアネス王子を筆頭に、彼の婚約者であるクロエ公爵令嬢、未来の宰相と名高いヴェイン伯爵令息、騎士団長のご子息にして剣術の天才グロット子爵令息、魔術師団最高責任者の一番弟子ケビン、

………等など、未来ある若者が通う名門学園に、一人の娘が入学した。


名前はマリエル・リシェッタ。

リシェッタ男爵家の養子で元平民。

それだけならば特に珍しいことではなかったが、しかし彼女はお世辞にも令嬢らしいマナーも品性も備わっておらず、不出来な田舎娘と周囲から煙たがられていた。

そのうえ学園内でギアネスを始めとする上位貴族の子息達に絡んでいき、礼儀作法などまるでなっていない小娘をエリート意識の強い彼らは疎んじていたという。


ところがある時からギアネス達は彼女と急に親しくなりはじめ、それぞれの婚約者達と軋轢が生じていくようになった。

違和感に気づいたのは学園の教師で、このままでは王家と公爵家の関係にも悪い影響が出るかもしれないと判断した彼らは、問題を起こす王子達を呼び出してことの次第を問いただそうとした。

最初は当たり障りがない程度の追及だったはずなのに、対するギアネス達は『マリエルをイジメている』とズレた論点で激昂しだし、それでも教師達は言葉で諭そうと試みるも最終的に彼らは暴力を振るって錯乱しだしてしまったのである。

ギアネスは決して怒りに任せて他人を殴るような人間ではない。これはいよいよおかしいとすぐさま学園を警備している衛兵達が呼ばれ、彼らは拘束された。なんらかの精神魔法がかけられているのではないかと彼らを精密検査したところ、全員からある薬物の中毒症状が出ていたという。


それが惚れ薬アムロス。


当時は平民の間にしか出回っていない薬物だったが、貴族の学園どころか一国を背負う第一王子にまで被害が出た事実に、一体毒見係は何をしていたのかと問い詰めれば彼らも中毒症状になっていて正常な判断ができなくなり、あろうことかそのままスルーさせてしまっていたことが明らかになった。

その後の調査の結果、ギアネス達にアムロスを飲ませたのがマリエルであることが判明。ただ彼女自身も薬物中毒になっていたらしく、取り調べの際には支離滅裂なことばかりを口にし会話が成り立たなかったらしい。

これを期にアムロスに関する規制が強化され、当時裏社会を牛耳っていた麻薬密売組織は一斉摘発されたとのこと。

一方のリシェッタ男爵家は未来ある有能な若き貴族達を再起不能にするという、国を揺るがす大事件を引き起こした責任を問われお家取り潰しになり、王族に毒を盛るという重罪を犯した主犯のマリエルは当然のことながら死刑を言い渡された。


ちなみにこの一件から毒見制度が廃止し、代わりに当時まだ実験段階だった探査犬の導入が正式に認められたのは別の話である。











久々に登城したファイグは、新しく入手した情報を王へと報告した。


「それは本当か……!?」


「はい、確かにミアナは『マリエル』のことを知っていました」


マリエルの事件は王城警備に関する失態が広がるのを恐れた先王によって箝口令が敷かれ、当時学園に通っていた貴族達も真相など知るよしもない。

それ以前にミアナはまだ生まれてもいないはずなのだが、彼女は当時学園で起きていたことをいくつか言い当てたのだという。


「まさか、マリエルの事件も女囚達に関与していたというのか……?」


予想だにしなかった事実にデイビスは険しい顔で考えこむ。今思えば確かに、ミアナの事件とマリエルの事件は似ているように見える。

あの時のマリエルは薬物中毒のせいでデタラメを言っていただけかと思っていたが、もしかしたら現在確認されている女囚達と同じだったのではないだろうか。

そんなデイビスの心中を察してかファイグは進言する。


「陛下、当時の事件について調べ直してもよろしいでしょうか?」


もしかしたら何か手がかりがあるかもしれない。そう確信めいた予感を抱いていた彼の言葉に、デイビスはしばし悩んでから口を開く。


「わかった。必ずや真相を探り当てよ」


「はっ!」


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