女囚達の主張
「………で、結局同じパターンになったのですか」
「ああ、残念だがね」
報告書をまとめ上げ、ファイグは頬杖をついてため息をつく。
クヴェニラで捉えた小娘以降、情報収集に全く進展がない。
というのも今回捉えた『自称ひろいん』は、新しい『ひろいん』に関する情報を全く持っていなかったのだ。ただでさえ支離滅裂な言い分に、いくら拷問されても現実を見ようとしない極度の妄想癖。それでも持ち前の勘を頼りに関連人物を探し当てることはできたものの、苦痛に歪む顔を唯一の楽しみにしているファイグとしても、これ以上陛下への報告が遅延すれば拷問官の沽券に関わりかねない。
ゆえに完全に行き詰まりになってしまった状況を打破するべく、現在は別の視点から解決の糸口を探しているところである。
まず彼女達の妄言から、いくつかの共通用語を纏めてみた。
・この世界が物語であること。
・元の世界で住んでいた国の名前はニホンということ。
・自分達はそれらを楽しむ読み手の世界から来たこと。
・元の世界で一度死に、物語の主人公に生まれ変わったこと。
・前世の享年はだいたい16から30代の女であること。
そして………いずれの女も前世から性格が歪んでいること。
……とまあいくら纏めてみても何がなんだかわからないのが現状である。これら意味不明な言語が、仮に薬物中毒によるものであればまだ理解できた。
しかし彼女達はいずれも、国の重要役職の者しか知らない国家機密や、彼女達の言う『こうりゃくたいしょう』なる貴族子息達の、本人しか知りえないはずの秘密をいくつか知っているのである。彼女達の人物像からお世辞にも頭がいいとは言えないので、間違いなく裏で糸を引く人物・組織がいるとしか考えられない。
だがそれらの情報をどこから手に入れたのかを吐かせても、結局彼女達は『げえむで知った』としか口にしないのだ。
一体ここからどうしろと言うのか。
盛大なため息を吐く主を見かねたロヴァンだが、ふとあることを思い付いた。
「旦那様、試しに彼女達を一度会わせてみたらどうでしょう?」
「なに?」
怪訝そうに視線を向けるファイグに、ロヴァンは順を追って説明していく。
彼女達がここまで同じ言葉を多様するならば、何人かは彼女達を唆したであろう黒幕と面識があるのはほぼ確実であるはず。ならばいっそ直接会わせて会話させてみたら、上手くいけば仲間相手に気を許してボロを出すかもしれない。
「いいのか?彼女達が本当に仲間だったら、脱走のために手を組むかもしれないぞ」
「もちろん逃亡防止用の拘束具や、信頼の置ける見張り役はつけておきます」
いささかリスキーな手法を提案され、ファイグは腕を組んで思い悩む。しかしほかに手がかりがない以上、やらないにこしたこともないだろう。
「………わかった、やってみよう」
そして一週間後、それぞれを乗せた護送車がエスティオス公爵領内に存在する特殊施設へと向かっていた。
そこは一見すると古びた教会に見えるが、ここの地下には特殊な設計が施された牢獄と拷問部屋がある。
目的の場所へ辿り着き、護送車が全て止まると扉が一斉に開き、手枷を鎖で繋がれ目隠しをされた女囚達がブツブツと呟きながら降ろされる。
粗末な囚人服から覗く肌には痛々しい傷痕が見え、鎖を引っ張り歩くよう促せばビクリと震え上がり、すでに反抗の意思をへし折られた彼女達は拷問官達の指示に従う。ギギイと年季の入った木の扉が開く音に、目を塞がれているせいで状況がわからない彼女達は未知の恐怖からガチガチと歯を鳴らして怯えるしかなかった。
冷たい石造りの廊下をヒタヒタと裸足で歩いていくも、聴覚や触角のみでしか周囲が認識できない彼女達は、今度はどんな責め苦を味わうことになるんだろうと恐怖から過呼吸になっていく。
それでも声を上げないのは事前に徹底的に仕込まれた『躾』により、一言でも喋ればまた苦痛を受けるかもしれないと刷り込まれているため、必死に唇を噛み締めて耐えるしかない。
やがて彼女達を引き連れた拷問官達がある牢屋の前にたどり着くと、女囚達の目隠しが外される。
ファイグはまず女囚達の中で一番幼い少女……リリンの肩に手を置くと、彼女は青ざめた顔でビクリと震えつつヒッと声を上げそうになるのを必死に抑える。
「まず、彼女が君のことを話した女性だよ」
ファイグが指し示す先にいたのは、錆びた鉄格子に閉じ込められ薄汚れた包帯で全身を覆われた、ミイラのような女だった。牢屋の女は虚ろな目で空を眺めており、包帯から覗く肌は見るも無惨に焼け爛れている。
彼女は一番最初に他の「ひろいん」に関する情報を話した、女生徒の『ハンナ』だった。
「あ……ああ……!」
ファイグの言葉の意味を理解したリリンは、瞳孔が開き
唇が震える。
「お前、お前えええええぇぇぇぇっ!!!」
しかしその顔は次いで憤怒に歪みだし、リリンは憎悪の叫びを上げながら牢屋格子に飛びかかった。
ガシャンと格子が叩きつけられる音が薄暗い地下に響き渡り、ようやく目の前の彼女達に気づいたであろうハンナの視線がリリンに向く。
「よくも! よくもあたしをこんな目にいいいいいい!!」
ハンナの情報によって捕らえられたリリンは、口にするのも悍ましい拷問をその小さな身体に受け続け、本来ならばその精神はいつ壊れてもおかしくはなかった。
しかし自分をその地獄に突き落としたであろう元凶を目の前にして、彼女の奥底に燻っていた怒りは薪を得た炎の如く再び燃え上がる。
「はあ…? 誰よあんた」
一方のハンナは突然耳障りな声を上げる見知らぬ少女に対して、不愉快そうに眉間にシワを寄せるだけだ。
「てめえ転生者なんだろ!? よくもっ……よくもあたしのゲームをっ、メチャクチャにしやがったなぁ!!」
「………ああ、あんたも転生者なんだ」
リリンの怒声から唯一聞き取れたであろう単語に、ほんの僅かに目を見開いたハンナは合点がいったように乾いた笑いを漏らす。その態度が余計自身をバカにしているようで、リリンの神経を逆撫でされる。
「ふざけんなよ! なんであたしのこと喋りやがった!? あたしにまで飛び火したじゃねえか!!」
「うるせえなあ! てめえの自業自得だろう!!」
最初は興味なさそうにそっぽを向いていたが、あまりにも騒々しいリリンの怒鳴り声に苛立ったのか、ハンナは久しぶりに声を荒げる。
バシンッ!!
『!?』
しかしここで床を鞭でたたく音が耳に入り、二人の身体はビクリと硬直して恐る恐る音の発生源に視線を向ける。
「いやはや、まだそんな元気があったんだね」
鞭の先を握ってピンと伸ばしながら笑顔を見せるファイグに、女囚達は目を見開いて恐怖にひきつる。
「ひ、いやああああ!!」
「許して! 許してよお!!」
「あぁアあぁあアァ!! いたいノやだア! こわイのヤダあ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! もう逆ハールートなんてやりません!! だから許してええええええ!!」
これまで受けた拷問を思い出したのか、とうとう耐えきれなくなった二人は悲鳴を上げてしまう。
そこから恐怖が伝搬し、他の女囚達も錯乱しだす。
「うるせえぞクソガキ共!」
耳触りな叫びに苛立ったのか、彼女達を拘束していた内の一番大柄な男ががなり散らし、彼はリリンの髪を乱暴に引っ張る。
「ぶええ!!」
潰れたカエルのような声がリリンの口から鳴る。
その光景を見たハンナは目尻に涙を浮かべ、拷問官達の視界から必死に隠れようと牢屋の隅で縮こまる。
ほかの女囚達も同じように自分に飛び火するのを恐れてか、へたり込んで頭を抱えたり、両手で口を押さえて必死に声を出さないようにしている。
「ふむ………君達は知り合いなのかな」
チラリとハンナに視線を向ければ、彼女は恐怖から震える。
「ち、違います! こんなやつ知りません!」
涙と鼻水を垂れ流し、ハンナは必死で首を振る。
「では聞くけれど、『てんせいしゃ』ってなんだい?」
ファイグの視線が再びリリンに向かれ、意図を理解した拷問官がリリンの片手を掴んで宙吊りにする。リリンは自重で肩が外れそうな痛みに呻くも、涙を流しながらなんとか喋ろうとする。
「だ、だから……! 私達は生まれ変わって」
バシンッ!
「ああああああああ!?」
言い終わらない内に鞭で背中を叩かれ、甲高い叫び声が上がる。その姿に他の女囚達も青ざめて身震いしだす。
「デタラメ言ってんじゃねえぞ!!」
「で、でたらめじゃ……ないですぅっ……!」
嗚咽をあげて泣きじゃくる彼女は、まだ例の妄言を口にし続けている。
これだけの目に合ってまだ吐かないというのか。
どれだけ強情なんだとファイグはうんざりしてくる。
「はあ……しょうがないなあ」
ため息をつくファイグは手慰みに鞭を弄りながらこう告げた。
「じゃあチャンスをあげよう。君達が言うほかの『ひろいん』に関する情報を教えてくれないかい?」
教えた子にはこれ以上の苦痛は与えないようにすると告げれば、女囚達の目が明らかに変わる。
「えっど……えと…!」
希望の糸口を見いだした彼女達は、なんとか苦痛から逃げようと必死に頭を働かせる。
「あ、あの…!」
その中から恐る恐る手を上げる者が出た。
一番最初に捕らえた、ミアナ・イライジェルだ。
「マリエルっでひろいんなら、じっでます!」
名前を聞き、ピクリとファイグの眉尻が動く。
「………マリエル?」
確かその名は………
当初は『互いに罵りあう転生ヒドイン達』をイメージして書いたつもりだったのですが、なんか上手く動かせないなあ……




