元伯爵令嬢カーミラの絶望
エスティオス公爵家には諜報活動用の特殊なマジックアイテムがあります。
このように自分達の存在を忘れさせるアイテムを使って聞き込みをしたりします。
子爵令息アルディードの証言
今の自分が幸せか、ですか?
幸せかどうかでいうならば、はいと答えられるでしょうね。
私は子爵家の後取りとして厳格に育てられる身ではありましたが、そのせいで父は私を愛していないんだと思い込んでいました。
まあ当時はまだ子供でしたし、無理もなかったとは思いましたけど……。
そんな中、婚約者候補として引き合わされた彼女が取りなしてくれたおかげで、私は父に対する誤解を解くことができたのです。
彼女は私の悩みを親身になって聞いてくれて、とても優しくて……。彼女が婚約者になれて本当によかったです。
え、カーミラ・ライガ伯爵令嬢?
いえ、会ったことなど一度もありませんが………その方が何か?
は?
私の婚約者になりたいと常々言っていた?
私と自分が結ばれるのは運命だと?
ええ……? なんですかそれ、気持ち悪い。
私のお話は以上ですが、ほかにお聞きしたいことはありますか?
………そうですか。
では、本日はありがとうございました。
………あれ?
私今、誰と会話してたんだろう?
どうして、こんなことになっちゃったの?
あのあと私は暗い部屋に連れて行かれて、あのおじさんに思い出すのも怖い仕打ちを何度も受けた。
鞭で叩かれて叫んで、背中がヒリヒリ痛くって叫んで、そこに塩水をかけられたら傷に沁みて痛くて叫んで、その度におじさんは聞くの。
君は学園で何をするつもりだったのかとか、他に知っていることがあるなら教えろって。
言わなきゃ馬車でされたのよりも、もっと痛くて苦しい拷問をしてやるって言っていた。
(あれよりも怖い……!? そんなの、絶対に嫌!)
だから私は乙女ゲームに転生したことも、前世のことも、知っていることは全部全部話した。
なのに嘘をつくなって言われて、結局痛いことをされて……
なんで、こんな目に会わなくちゃいけないの?
私………なんにも悪いことしていないのに。
こんなの間違っている、私はヒロインなのに……
そうよ、きっとアルディード様が私を助けてくれるに違いないわ。
でなきゃこんな……
「なんでベルディック子爵令息が君を助けるんだい?」
おじさんは血のついた包丁でテーブルを叩きながら、冷めた眼差しで私を問い詰める。
「だっで……わだしはヒロインで……かれはこうりゃぐだいしょうで……うんめーのあいてで……」
アルディード様は、私が彼の悲しみを癒してあげることで両思いになれるのよ。
アルディードルートのシナリオも選択肢もしっかり覚えている………だから、私は彼と結ばれるはずなんだから……。
「本人に確認をとってみたけれど、ベルディック子爵令息は君のことを知らないそうだよ? どうして彼が顔も名前も知らない君を助けにここに来るんだい?」
「だ、だっれ……わらしはヒロインで…! あ、ぎゃあああああああああ!?」
「君ねえ、いくらなんでも物覚え悪すぎじゃないかい?」
痛い。
痛いよ。
いやだ。
「いやぁ……! やめてえ……!!」
「次も同じことを言うんだったら、今度は左足からいくよ」
「いや! いやあ!!」
何度も逃げだそうとバタバタと手足を動かすけれど、枷に固定されているせいでびくともしない。
もういいでしょ。
ゲームオーバーでいいから、次に行かせてよ。
知っていることなら全部話したから。
もう、おうちに帰してよ。
「実家にはもう帰れないよ。君のその病気が治るまでは、ね」
「びょうぎじゃ……ないよお……!」
ボロボロと私の目から大量の涙が溢れてくる。
ああやめてお願いやめてやめてくださいお願いしますもう痛いのも怖いのも嫌殴らないで鞭で打たないで爪をはがさないで熱い焼きごてを押さないで水を無理矢理飲まさないで指に針を刺さないで皮膚を削がないで痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いい怖い怖い怖い怖い怖いやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ
早く、早く、
リセットでもなんでもいいから、
この『悪夢』を終わらせてよお!!




