65 春休み
春休みは短い。正味10日ほどだ。
今日から2泊東郷寺家にお邪魔します。着いてみれば虎太郎君と虎太郎君のお母様が待っていた。
虎太郎君のお母様と龍一郎君達のお母様は仲良しさんだ。学生時代からお友達だったみたい。
お正月にはエステに連れて行ってもらったりして楽しかった。
我が家は母がいないので(いるけどいないんだ)お母様達と過ごすのは嬉しい。男の子ばかりだとお風呂とか1人でつまらないの。
「愛梨花ちゃん、遅いよ」
虎太郎君が自分の家のようにリビングのソファーでくつろいでいた。龍一郎君は色々と忙しいみたいで遅くなるとのことだった。小学生の遅くなるって……
虎太郎君に手招きされて隣に座った。
「愛梨花ちゃん、小学校は楽しみにしている?」
「はい」
誰にも言ってないけれど、実は、楽しみだ。
セレブの通う小学校なんて前世では縁が無かった。どんなところなのか興味津々なの。お兄様と仲が良ければ遊びに行ったりとか出来たかも知れない。前のことは覚えていないし、何もかもが初めてなんだ。
龍一郎君も忙しそうだけどお兄様も毎日遅くまで家に帰ってこない。月光院家には本家(お父様のお兄様が継いでいる)の従兄弟達と以前から一緒に教育を受けていた。
寺森が言うには本家には男の子が2人いて4月からは中学2年生と高校1年生になったそう。全員小さい頃から英才教育を受けているから優秀なんだって。凄いね。
龍一郎君なんていまだに週2回高島に空手を習いに来るのだけれど大丈夫なの?勉強に必死なお兄様に比べるとかなり余裕に見える。凄いなぁ。
もっとも、月光院家は祭事を司ったりする古からの役割もあるから、学ぶ事が多いって以前お祖父様が、申し訳なさそうに言っていた。聞き流していたけれど実は後から重要な事だって知った。
「わからない事があれば僕に聞いてね、虎太郎君もだよ」
雪二郎君がそう言って優しく微笑んだ。心強い。楽しみと同時に心配な事もある。お正月に遭遇した伊集院家の従姉妹達だ。
小説では地震被害で奔走する月光院家をこの機会に少しでも蹴落とそうと傍系の伊集院家が色々と仕掛けてくる。元々はお祖父様の婚姻で結ばれた縁なのだけれど、離縁されていて逆恨みの所もあるし、伊集院家の血が入っているからと大きな顔もしたがっていた。
この小説の世界では血筋が世界中で重要視されていた。日本や古くからある王家などでは特にその傾向が強かった。
小説の我が儘な愛梨花ちゃんは正直すぎて裏が無い。陥れられやすいんだ。
地震の被害は殆ど無かった。迅速に対処できたからだ。でも気を付けようっと。
ふぅ~~~っ。大きなため息をついてしまった。東郷寺家のリビングでだ。しまった、と思った時はすでに遅かった。
「愛梨花ちゃん、疲れた?」
お茶のワゴンと一緒に入ってきた龍一郎君達のお母様に心配そうに言われる。
ワゴンのいちごのケーキが目に入った。
「あ、あの、ケーキ食べたいなって思ってしまって……」
「そうなの。丁度良かったわ」
龍一郎君達のお母様は虎太郎君のお母様と顔を見合わせて微笑んだ。お二人とも眩しいくらいに素敵だ。アニメなら今バラの花びらが画面一杯に飛んだと思う!
この世界美男美女が多くて眼福!幸せ!
東郷寺のお母様は南国風の美人で、黒目がちの大きな目をしている。テキパキと仕事も家庭もこなしていてダンディな旦那様と、とってもお似合いだ。お父様の方はイケメンモデルみたいに背が高くカッコイイ。お二人で東郷寺グループを上手く統率されている。龍一郎君達はお母様に似てるから美人さんになりそう。
西園寺のお母様は穏やかで優しい美人。家庭に入られてしっかりと家庭を守られている。お父様はガッシリとした体格のスポーツマンタイプだ。俺に着いてこいって言う感じなんだけれども、実は奥様に頭が上がらないみたい。ハワイからも直ぐに帰国したからね。あれには驚いた。虎太郎君はお父様に似てスポーツマンになりそう。
我が家のお父様はイケメンではある。アイドルとかに良そうなタイプだ。お母様はキャリアウーマン。バリバリ仕事をする知的な美人。お兄様はお母様似だね!
ちなみに私は……わからない……どちらにも似てないような気が、やっぱりする。
そんな事を考えながら、目は切り分けてもらうケーキに釘付けだ。東郷寺のお母様はそんな私を微笑ましそうに見ていた。
「愛梨花ちゃんには1番大きいところをあげるわね」
と、嬉しい事まで……そ、そんなに物欲しそうに見てました?
ケーキの上にはとても大きないちごがのっていた。一口で食べられるかな?思いっきり大きな口を開けると、ガブッと一口でいった。思いの外大きくて上手く噛めない。
必死でモグモグしていると虎太郎君がほっぺたをツンツンしてくる。それを可笑しそうにお母様方が笑っている。文句を言おうにも、今、お口の中は忙しい。
「愛梨花ちゃんは本当に可愛いわ。是非我が家の娘になってちょうだい」
虎太郎君のお母様が言う。
「あらダメよ。我が家に迎える予定ですもの」
龍一郎君達のお母様が紅茶のカップを手に取った。
んっ?私はまた養子に出されるのか?お祖父様に聞いて見なければ。
「愛梨花ちゃんのほっぺた良く伸びる。リスみたいだ」
虎太郎君が笑いながら言う。ほお袋って事?ひどい。
「リスみたいに可愛いって事だよ。今ひどいって思ったでしょう」
私の顔色をうかがった雪二郎君が笑う。
えっ?雪二郎君も心読むの?気をつけねば。いつも単純な虎太郎君ばかり相手していたから、油断していたかも。
考えて見ると、我が家の男性も単純な人ばかりで、お祖父様もお父様、お兄様、高島もだまされやすいもの。いつも上手くごまかせる。共通しているのはスキンシップが多いって事ね。
雪二郎君は次男坊だから周りの空気を読むのが上手。いつも龍一郎君の事を気にしていて、いかに意に沿うか考えている気がする。将来東郷寺家を支えていく兄弟としては理想的かも知れない。
本当に音楽祭の時は助かって良かった。
小説なんてクソ食らえ~~~!!!
将来が楽しみな兄弟だもの。




