64 春休みの過ごし方
お母様が渋々と帰国された。私が寂しそうだからとお祖父様が帰国させたらしい。
別に良いのに。
「愛梨花は元気そうね。入学式が終わったらまた海外に出張があるのよ。大丈夫ね」
私の返事も聞かずに、そう言うとスーツケース一杯のお土産を渡された。
お母様は他のお土産を持っていそいそとお兄様のお部屋へ行かれた。
小説の中で、お兄様が比較的真っ直ぐな性格に育ったのは、このお母様の愛情があったからだと思われる。そこはお母様に感謝だ。
何だかんだ言ってもお母様はお兄様が大好きだし、優秀なお兄様がとてもご自慢だ。将来にも期待している。ただいつも我が儘な娘と比較してしまっていた。
ここでも愛梨花ちゃんのいじけポイントを発見。
愛梨花ちゃんの我が儘な性格は環境的要因が大きいね。
次の日にはお父様もやっと帰国された。
「愛梨花、大きくなったね」
そう言って抱き上げようとするから私はすかさずに、高島の後ろに隠れた。
どう考えても他の女の人と仲良くした男の人にベタベタされるのはイヤだ。
思いっきり、あっかんべぇ~~~をした。
しばらくは近寄りたくない。ショックを受けたように倒れ込んだって知るもんですか。
ふんっ!
お父様は思ったよりも立ち直りが早くて、やたらとスキンシップを求めて近づいてくる。
迷惑なんですけれど~~~!!!
お父様と顔を合わせないようにお屋敷中を逃げ回って疲れてへとへとになった。
お屋敷の皆は、寺森を筆頭に全員私の味方だ。普段いない両親よりもお祖父様と仲良しな私の方が、力があるんだ。
いつの間にかこの家で1番権力を持ったかも知れない。
お兄様だって本家ばかりに行ってあまり我が家にはいない。逆にお祖父様はいつも家にくる。スタッフは権力に対して嗅覚が鋭いのだ。
最初はかくれんぼみたいだったけど、案外お父様はしつこい。
この粘着質な勢いでお母様を落としたのかも知れない。別名ストーカーとも言う。
早く仕事に行ってくれ。定年退職をした夫を持った妻の心境がわかる。
夕方に顔を出したお祖父様に助けを求めて抱きついた。
「お祖父様、知らないおじさんが追いかけてくるの」
お父様を指さした。
お祖父様は私を抱き上げると勝ち誇ったようにお父様を見た。
「おやおや、それは困ったね」
お祖父様の顔が嬉しそうに緩んでいる。締まりが無いというか……
「春休みだから虎太郎君の所に遊びに行きたい」
この際だから先日虎太郎君の言っていた事を思い出して、お祖父様に提案してみた。うっとうしいお父様は嫌いだ。
恨めしそうに私を見ているお父様とは、目を合わせないんだ。
「西園寺のところか、東郷寺の家ならわしも行けるのだが……」
私はどっちでも良いよ。お祖父様に丸投げしちゃおう。
「お祖父様と一緒ならどちらでもいいわ」
それを聞いたお父様は肩を落として座り込んだ。
ちょっとショックが大きかった?しょうがないな、フォローしておくか。
「私、仕事を一生懸命している男の人って素敵だと思うの。好きになっちゃうかも」
お父様に聞こえるように言ってお祖父様と目を合わせた。
お祖父様は少し驚いた様な顔をしたけど直ぐに笑顔になった。
「愛梨花はまだ小さいのだからそのままで良いんだよ」
お祖父様が私の頭を撫でてくれる。
視界の端でお父様が寺森にスケジュールを持ってくるように指示を出しているのが見えた。
お父様のコントロールは思いの外簡単かも知れない。
ふっ、悪い笑顔が出ちゃう。
私の手のひらの上だね。転がして差し上げます。
♢ ♢ ♢
「今日の旦那様のスケジュールは出社されたら直ぐに会議が入っています。その後・・・・・・」
横で寺森がお父様のスケジュールを読み上げていた。迎えに来た雪二郎君が怪訝な顔で私に目配せをしている。
これはどうなっているのかと、変だよね。渡せば済むものを読み上げるなんて。しかも子供の横でね。
色々と訳があるのです。
ため息をつくと、小声で雪二郎君に”後でね”と一言伝えた。
今日は東郷寺様のお宅にお祖父様とお邪魔することになった。お祖父様はお仕事を終えてから向かうそうだ。
高島は1週間の休暇を取っている。丁度春休みで私の送り迎えもないのと、高島のお父様の命日があるからお墓参りに行くらしい。いつも色々お世話になりっぱなしだから、ゆっくりしてくれると嬉しい。それで今日は雪二郎君がお迎えに来てくれた。
虎太郎君のお父様が忙しいみたいだから西園寺家にお邪魔するのは、またの機会にとなったんだ。私1人なら何とかなるそうなんだけれども、今回はお祖父様の許可が出なかった。虎太郎君ごめんね。心の中で謝った。
愛梨花はトラブルを連れてくるからご迷惑になると言うの。
絶対にそれは違うと思う。今後のためにも誤解は解きたい。
トラブルを解決しているんです。違うときもあるけれど。
クルーズ船の時だって私が乗っていなかったら、一見何事も無く過ごしたように見えて、10年後に、実はあの時に”斯く斯く云々の事があった”なんて言われちゃうのだ。
逆に言えば10年たたないとわからないのかも知れない。
が~~~ん!
とにかく、私が呼び寄せているわけではないの!
そんな事を心の中で叫んでいるうちに東郷寺家へと車は着いたのだった。




