63 思いを馳せる。
車の窓から港の街並みを見ていた。
石畳にガス灯古き良き時代の名残がそのまま残っている街並み。
前世で記憶にあるよりも昔の面影がそのまま残っている気がした。やはり歴史が少し違うのかも知れない。
あちこち行きたかったなぁ。頭の上にポンと大きな手が乗って見上げるとお祖父様と目が合った。
「またゆっくりと遊びに来よう」
寂しい気持ちを見透かされているみたい。
「お祖父様ありがとう」
そう言って微笑むとお祖父様も笑った。幸せかも知れない。こんなに幸せで良いのかな。
小説に思いを馳せる。
小説の中の愛梨花ちゃんは超我が儘だ。物は投げるし、ひっくり返す。ヒステリーに泣き叫ぶ。
今ならわかる。何故そうなってしまったのか。
愛情に飢えていたんだ。何でも我慢して、良い子になろうと、努力もした。
誰も来ない卒園式に入学式。
家では両親が喧嘩していて、お兄様は相手にもしてくれないどころか、さげすむように見てくる。
幼稚園では通園して初めてわかったんだけれど、愛梨花ちゃんは先生達からいじめを受けていた。
本人ですら気が付かないような陰湿ないじめ。直接ではなくて、間接的に。上手く生徒達を誘導していた。5歳や6歳では大人の悪意に太刀打ちなんて出来ない。
思わずぞっとして自分で自分を抱きしめた。
「どうした、寒いか?」
お祖父様がそれに気が付いて、そっと抱き寄せてくれた。ちょっと視界が緩む。それをごまかすようにお祖父様にくっついた。暖かい。
小説の中で愛梨花ちゃんとお祖父様はお互いを殆ど知らない。新年の挨拶ぐらいしか交わさないからだ。
本当にお話はずいぶんと変わってしまった。これからどうなるかなんてわからない。自分できちんと人生を切り開いていかないといけないんだ。
小学校生活はどんなだったんだろう?どうなっていくんだろう。
お兄様世代の恋の行方も気になる。お兄様とはもう少し仲良くなって恋バナ聞きたい。 言わないだろうけど探るからね。
とりあえず小学校の目標はお兄様の恋の行方にしようかな。
ふふふ……ほっぺの筋肉がどこまでもだらしなく緩んじゃっている事に気が付かなかった。
「愛梨花ちゃん、にやけ顔も可愛いね」
いつの間にか車が止まって龍一郎君がドアを開けて覗き込んでいた。
げっ!慌てて両手でほほをパンパンと叩いた。見てたの?
「何か楽しいことを考えていたのかな」
龍一郎君に手を引かれて車から降りた。
危ない、龍一郎君にはごまかしやウソがバレちゃう。なんせ人の心を読むんだから。
「小学校に行ったらお友達出来るかなって」
”新一年生に聞きました”ランキングで上位の質問だ。質問した人は100人と答えて欲しいらしい。
無難にかわせたと思う。
龍一郎君と目を合わせるとニッコリと微笑んだ。
「愛梨花ちゃんなら心配いらないよ。僕達もいるしね」
龍一郎君は雪二郎君と顔を見合わせて2人で頷いた。
わぁ、何だかナイトが2人いるみたいで頼もしい。小学一年生でナイト2人って素敵。
「よろしくお願いします」
嬉しくなってお辞儀をしたら、空気読まない虎太郎君が、いつの間にか隣に来て、一緒にお辞儀していた。笑えるんだけど。
港の見えるレストランでは皆で和気藹々と食事をした。
私はいつものように虎太郎君と龍一郎君に挟まれていた。龍一郎君はお兄さんらしく皆に気を遣う。多分このメンバーで1番小さい私を気にかけてくれているんだと思う。そんなに気にしなくて良いのに。
実は1番年上なのでね。言えないなぁ~
すっかりこのメンバーになれてしまった。もはやこちらが家族ではないだろうか、とさえ思う。
お兄様、仲間はずれになっていますよ!大丈夫?
我が家も何とかせねば。
お兄様は忙しいのだろうか?
「龍一郎様はお兄様と同じクラスですか?いつもご一緒なの?」
「まぁ、クラス一緒だからね。何か知りたい?」
この際だから交友関係を聞いちゃおう。
考えて見れば龍一郎君と雪二郎君の恋の行方も気になる。なんたって小説には載っていなかったから。それを考えると、ちょっとしんみりしてしまう。2人ともいなかったんだ……
本当に今は幸せなの。小学校生活楽しみになってきちゃった。
「お友達いるのかなって」
龍一郎君は笑いながら自分を指した。
「僕かな?後はたぶん、貴志は従兄弟達との付き合いが多いんじゃないかな」
ああ、そうだよね。いつも本家に行ってる。私は会ったことがないけれど、お正月に出会った意地悪な女子は従姉妹だった。
う~ん、あまり良いイメージがない。
「愛梨花ちゃんは会ったことがないの?」
「うん」
「愛梨花ちゃんはまだ小さいからね、年が離れているからだと思うよ」
「龍一郎様の、他のお友達はどんな人?」
「気になる?」
探る様に見られて思わず目をそらした。また人の心を読もうとするのはやめてね。よこしまな考えがバレちゃう。
「お友達多いのかなって」
ごまかすように、お水のグラスを手に取った。
「愛梨花ちゃんもだけど、友達は多ければ良いって言う物じゃないよ。大きくなれば色々あるから気をつけないといけない」
「今日の友は明日の敵?」
龍一郎君は飲んでいたお茶をふきそうになった。
「愛梨花ちゃんは面白い事を言うね。意味解っているのかな?さすがにそこまでは言わないよ」
龍一郎君に頭をポンポンされた。
そう、物語で裏切りはいつも味方だ。
気をつけようっと。




