62 港町
次の日は朝閉会式をした後は、家族と一緒に過ごして良いことになっていた。
つまり、いつ船を下りても良いんだ。自由解散。
今日は虎太郎君も一緒に港町を散策する事になった。先に帰るのはつまらないらしい。
私達は先生に挨拶すると直ぐに船を下りた。もっともお祖父様は先生の前は素通りだった。
港町を散策するから急いでいるのかな?
港の見える公園にくると向こうから龍一郎君と雪二郎君が駆けてきた。
わぉぅ!偶然てあるんだ。皆公園に来ていたのかしら。お花見かな?
「愛梨花ちゃーん、虎太郎君」
「「卒園、おめでとう」」
2人が手にしていたのは小さな花束。春に咲く小さい色とりどりの花を集めた花束で凄く可愛い。
偶然じゃなかった?!
わざわざ来てくれたんだ。待っていてくれたんだ。
それでお祖父様が早くに船を下りられたんだ。
向こうを見れば東郷寺のお祖父様もいらっしゃっていた。
「ありがとう」
サプライズに感激していると虎太郎君がいっちょ前に私の肩をそっと叩いた。
虎太郎君にポンポンされた?
一昨日は泣いていたのに、いつの間にお兄さんになったんだろうか。その事にも何だか感激してしまった。
皆、いつの間にか、大きくなるんだね。お姉さんは嬉しい。視界がウルウルしてしまう。
手渡してもらった花束の香りを嗅ぐ振りをして顔を埋めたら顔が上げられなかった。
「愛梨花ちゃんどうしたの?」
おろおろしたような雪二郎君の声がして、誰かが胸を貸してくれた。これはお兄さんの龍一郎君だね。
よけい顔が上げられないよ。どうしよう……
「お嬢様こちらに」
高島の声がしたと思うとヒョイと身体が浮き上がった。抱き上げてもらったんだ、それからお祖父様にポイッとパスされた。
「愛梨花、よかったな」
お祖父様が背中をポンポンしてくれた。頷きながら、お祖父様の肩に顔を埋めてごまかした。
泣いたのバレているかな?
中身32歳なんで泣き顔は見せたくないし、恥ずかしい。時々6歳の愛梨花ちゃんに感情が引きずられてしまうの。
卒園式には殆どの家の両親や家族が参列していた。来ない家なんてうちだけだった。
前世でも母親だけは来ていた。もっともまだ妹が生まれていなかったからだけど。妹が生まれてたら来なかったから同じなのかも。
お兄様が来ないのに同い年の龍一郎君が来てくれる。嬉しいんだけど、”おい、兄よどうした!”と突っ込みたい。
今はお祖父様や高島やお友達がいる。西園寺様や東郷寺様まで我が子のように可愛がってくれる。寂しいなんて言ったらいけないね!
「お祖父様、美術館に行ってみたい」
顔を上げて言うとお祖父様は破顔した。
「愛梨花ちゃん、一緒に行こう」
虎太郎君が手を伸ばしてきた。
お祖父様に降ろしてもらうと手を取った。反対側の手を龍一郎君が取る。
龍一郎君を見上げると口角を上げた。
「僕も一緒に」
風が吹いて公園のさくらの木がいっせいになびいた。
太陽の光を浴びてさくらの花びらが舞う。
さくら吹雪、綺麗……
何だか良いことがありそうな気がする。
嬉しくなって自然と笑顔になる。
眩しそうに目を細めている龍一郎君と目が合った。
「綺麗ね」
「えっ、ああ、本当に」
何故か私から顔を背けながらさくらの木を見つめていた。
さくらの花好きなんだね。
「愛梨花ちゃんはさくらの花の精みたいだよ」
雪二郎君に声をかけられた。
「早く行こう」
虎太郎君が手を引っ張って走り出す。
暖かい春の日差しが嬉しかった。
♢ ♢ ♢
美術館に来たんだけど何だかさっきから高島やお祖父様達の様子が変なんだよね。コソコソしているというか。高島は携帯片手に電話したり、メールをしてはお祖父様に耳打ちしている。
「龍一郎様、何かありました?皆、何だか落ち着かないみたいで」
さすがに龍一郎君とは呼べない。5歳も年上だから。
「大丈夫だよ心配しなくて、虎太郎もはぐれないようにね」
いつも人の心を見透かす様な龍一郎君に言われると妙に説得力があって、皆も一緒だからいつの間にかそのことは忘れてしまった。
美術館では花をテーマにした作品を飾っていていつの間にか夢中になってみてしまった。
だからまたそこで王女様一行と出くわすなんて思いもしなかった。
静かなはずの美術館が急にざわつき始めた。
あれっ?て思っているうちに警備の人が入ってきた。
どうなっているんだろう?誰か偉い人でも来るのかと思っていたら、まさかの例の王女様ご一行。ありえなくない?こんな偶然。視察?でも場所はあらかじめ決まっているはずだし。
高島が急いで私と虎太郎君の手を取ると私達をファミリーで使えるトイレに放り込んだ。
「お嬢様しばらくここで我慢して下さい。ちゃんと鍵をかけて下さいね」
そう言うと答えも聞かずに扉を閉めた。
えっ?鍵かけるの?虎太郎君と顔を見合わせる。
「愛梨花ちゃんトイレ行く?」
はっあ?行かないでしょう!君の前で行くわけはない!何を聞いてるんだこの子は。
「行かない。虎太郎君はどうぞ、あっち向いているから」
「僕は大丈夫」
トイレに閉じこもっているヒマな私達は手遊びをした。前世で小さい頃に遊んでいたの。
教えてあげると虎太郎君はあっという間上手くなって私はつまらなかった。どうも運動神経には恵まれていないみたい。
私がむくれていると虎太郎君が笑いながら私の頬を突っついてくる。
「ツンツンするのやめてね」
「春休みはお泊まりに行こう」
「お泊まり?」
「愛梨花ちゃんと枕投げ出来なかった」
そうなんだ。女の子同士だとのりが今一違う。それはそれで面白いんだけど。
「クリスマスは龍一郎の所でお正月は愛梨花ちゃんの所だから、春休みはうちだ」
「あ、うん」
曖昧に笑った。スケジュールはお祖父様任せだからね。虎太郎君は嬉しそうに頷くと、どこに行くかお母様と相談すると言っていた。
ドアをノックする音がして鍵を開ける。ヤレヤレやっと解放される。美術館に来てずうっとトイレだなんてねイヤだもの。
「お嬢様、もう大丈夫です」
見るとお祖父様達がいなかった。
「お祖父様達は偉い人達のお見送りらしいよ」
龍一郎君が苦笑していた。戻ってこないよう確認しているって事だね、これは。
「あまり散策はしない方が良いので場所を移動します」
高島の話だと船を下りてからずうっと付けられていたんだそう。変だなと思った高島やお祖父様達が色々調べていたらしい。そこへ突如現れた王女様ご一行と言うわけ。
残念だけど今日の散策は中止して皆で昼食会となった。仕方ないかぁ。
それにしても、しつこい人達だ。




