61 生き霊?
王女様ご一行は今朝早くに下船されていた。
慌ただしく船を下りたのには色々と探られたくない事があったのではないかと。これは後から高島に聞いた話だ。ちなみに陰険メガネも一緒に船を下りたみたいだ。
一応王族の護衛で幼稚園児の護衛では無いからね。護衛というよりは監視な気もするけど。
午後からは両親や家族も乗船して来たので、クラスの皆は大はしゃぎだ。
私は高島と一緒に、船長室で西園寺家と話を聞いていた。船長がこれまでの事を西園寺様に報告しているんだ。色々あったからね。
私は虎太郎君のお母様から翔君のご家族の事を教えてもらった。翔君は最近、ご家族と過ごす時間も増えてきて、お母様との関係も良くなってきているそう。良かった。
ただ翔君のお母様が私を叩いた一件から、私と顔を合わせるのがイヤみたいで避けられている。
”あの子とは仲良くしないように”とか言われているんだろうな……
そんな事をおくびにも出さない翔君は大人だ。
知らないところで気を遣わせてしまっているのかも知れない。翔君ごめんね。
すみれちゃんの家も葉子ちゃんと杏奈ちゃんの家も、医学系グループの結束が固くご家族の付き合いがあるのでそちらに行っている。
兄弟がいるとそちらのお付き合いも外せないらしい。幼稚園でも色々と大変だね。
私はすっかり仲良くなった虎太郎君の両親に、娘のように可愛がって貰っている。両親が忙しくていないから可哀想に思われているのかも知れない。
嬉しいのだけど、これで良いのだろうか?
一抹の不安がよぎる。
いるよね?私にも両親が……
「お嬢様、大旦那様からお電話が入ってます」
高島から携帯電話を渡された。
「もしもし、愛梨花です」
”聞いたぞ、大丈夫か?また危ないことがあったそうじゃないか?”
「元気です。高島もいてくれたから心強くて。お祖父様は何をしているんですか?」
”丁度仕事が終わったところだ。元気な声が聞こえて嬉しいぞ”
「本当はお祖父様がいないから寂しくて」
”そうか、そうか、高島に代わってくれるかな?”
「はい」
「お祖父様が代わってって」
高島に携帯を返す。しばらく話をしていると次は船長さんに携帯を渡していた。
お祖父様らしいな、ちゃんと船長さんにまでお礼を言っているんだ。
偉いな。と思った。
普通はそう思うよね。
その数時間後に、目の前に現れたお祖父様に驚いて固まった。
まさか生き霊!
ホラーは苦手なの!!!
悲鳴を上げなかった私を褒めて欲しい。もう少しで泣いて逃げるところだった。高島が必死で怖がる私をなだめてくれた。
お祖父様を見る顔が引きつっていても仕方がないから。
ここは海の上なの!
ヘリで来るなんて思いもしなかった。
ヘリポートないでしょ?この船。どうやって降りたの?
海軍じゃあるまいし……
「すまん、すまん。許せ」
先ほどからお祖父様は謝り通しだ。
「驚かせようとは思ったが、怖がらせるつもりはなかった」
お祖父様の眉尻が困ったときにはどんどん下がっていく。
今はやっと落ち着いてお祖父様の膝の上だ。お祖父様に背中をポンポンと叩かれていた。
「お祖父様、どこでもドア持っているの?」
もしかしたらと思って聞いては見た。この世界にはあるのかも知れないと。
「持ってはいないが、どんなドアだ」
お祖父様は私の顔を覗き込む。やっぱりないか。
「なければいいの。船に乗るときの港町に明日は行ってみたい」
思い出したんだ、前世でよく遊びに行ってた港町。美味しいお店や小物屋さんが好きだった。
明治時代からある重厚な建物。博物館や美術館、何だか懐かしい。
お祖父様と高島が居ればどこでも行けて何でも出来るような気がする。
最強のコンビだ。
お祖父様はちょっと考えていたけど直ぐにOKをもらった。本当は忙しかったのかな?早く帰りたかったのかも知れない。でもOKもらったから良いよね、ふふ……楽しみ。
ディナーはお祖父様達と船のレストランに集合。船長と西園寺様ご一家も一緒にテーブルを囲んでいた。
ここは昨日まで王女様ご一行が使っていたんだって。
もちろんビュッフェのレストランも開いている。今日は家族でどこでも好きな所に行っていいそう。ただしレストランの方は予約制。レストランは2カ所あって今日は鉄板焼きの方。
あっ、私が決めたわけじゃないんだけどね。
大きな伊勢エビを鉄板で焼くのを見るのはちょっと苦手だ。生きの良い伊勢エビが熱い鉄板の上なんて、子供に見せちゃいけないよね。高島が大きな手で目隠しをしてくれた。気が利くじゃん。
食事の後はお祖父様や高島に虎太郎君のお父様は別にお話があるとの事で別の行動だ。
別行動なんて言っちゃって、皆で一杯やるのかな?お疲れ様です。
虎太郎君のお母様が私と虎太郎君をデッキに連れてきてくれた。
今年は3月にしては暖かくて夜風が気持ちよかった。そう言えば桜も見頃だった。
プールサイドの椅子で夜空を見上げれば満天の星空だ。海の上は地上の光がないので良く星が見えるんだ。虎太郎君と何故か手をつなぎながら星空を眺めている。
「愛梨花ちゃん、流れ星見えるかな?」
流れ星は今まで見た事がないかも知れない。夜空をゆっくり眺めた事がなかったからね。
「見えそうだよね!」
しばらく2人で夜空を見上げていたけど、見えない。ゆっくりとした時間の流れに段々と眠くなってしまった。虎太郎君を見れば夜空では無くて私の顔を覗き込んでいた。飽きたのかな?
「寒くなってきたから、そろそろ中に入りましょうか」
穏やかな笑顔で私達を見ていた虎太郎君のお母様が、眠そうな目をした私に声をかけた。
でもまだお部屋にはお祖父様も高島も居ないような気がする。
「うん、でもまだお部屋に誰もいないから」
「じゃあ戻るまで私達の部屋に一緒にいましょう」
「愛梨花ちゃんは明日は何をするの?」
「明日はお祖父様と港町を見るの」
「えっ!いいなぁ。母様、僕達も行こうよ」
「お父様に聞いて見ましょうね」
西園寺家のお部屋はスイートルームでベッドは3つ並んでいた。バルコニーにも椅子が3つ並んでいた。西園寺家専用なのかな?
昨日までのお部屋とはずいぶん違う。広いんだ。リビングのソファーに虎太郎君とならんですわった。
「愛梨花ちゃんはもう入学の準備は終わったのかしら?」
入学の準備?そうか、うちはお母様がいないから誰がやっているんだろう?寺森かな、高島やお祖父様がやるとは思えないし……
「わからないの」
「お母様は海外ですものね。終わっていなければ一緒にそろえましょうね」
「ありがとうございます。お祖父様に聞いて見ます」
「愛梨花ちゃんとお揃いが良いな」
お母様は虎太郎君の頭を優しく撫でた。
何だかほっこりして、少しうらやましかった。それからお母様が絵本を読んでくれた。
いつの間にか2人でうつらうつらしていると、遠くで虎太郎君のお母様の声がする。
「2人とも凄く仲が良いのよ。今も虎太郎と一緒に寝ちゃって、可愛いの」
「そうか、本当だな」
声を潜めて虎太郎君のお父様と話しているみたいだ。
「あなた、明日は早くに帰るの?」
「ああ」
「虎太郎が愛梨花ちゃんと一緒にいたいみたいで」
「わかった、月光院様に話しておこう」
途中から目が覚めてしまったけれど、これはいつ起きて良いかわからないぞ!
ふと、誰かが抱き上げようとしたので、これがチャンスとばかりに目をこする。
目を開けると高島と目が合った。
「お嬢様、起こしてしまいましたか?」
首をこてっと曲げて口角を上げた。
「ううん」
もう起きていたから起こされてはいないんだ。そのまま挨拶もせずに抱き上げてもらって、自分の部屋へと移動した。小さい子の特権だね。
お部屋ではお祖父様がソファーでくつろいでいた。
「船も中々良いな、着替えておいで」
私を見ると嬉しそうに眉尻を下げる。
昨日はお友達と話が弾んで夜更かししたから今日はもう眠い。
着替えてソファーの横でお祖父様にくっついた。
何だか暖かくて安心した。
クルーズ船の夜は穏やかに更けていった。




